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第三話 生贄

 村長の家に村人達が()めかけた。

 皆、床に座ってヒソヒソと意見を交換している。

 村長は黙って目を(つぶ)り、胡座でどっしりと床に座っている。


 部屋の中には、ただ村人のヒソヒソ声だけが響いていた。

 そんな中、意を決して村の男達が村長に意見を求めた。


「まさか、俺らの村が狙われるとは……。村長、どうするよ?」

「あんな訳のわからねぇ教団に入信なんてごめんだぜ」

「ここは一か八かで戦うべきだ!」


 人々は村長の意見を聞こうと、一瞬だけ静かになる。

 しかし、村長は尚も黙って目を瞑っていた。

 部屋には鳥のさえずりだけが静かに響きわたっている。

 人々はその様子を見て、再びヒソヒソと会話を始めた。


 そうして、しばらく時が流れた。

 やがて皆のヒソヒソ話が煮詰まり、静まってきた頃。

 頃合いを見計らって、村長はポツリポツリと言葉を発し始めた。


「まず……一つ言えることは。ワシら如きが戦って(かな)う相手ではないと言うことじゃ」

「村長……」

「そして……オネットの街に助けを求めるにも移動に丸一日かかる。明日の期限までに助けが来ることはない」

「……」

「よって、ワシらに選択肢はない。大人しく奴らの言うことに従うしかなさそうじゃのぉ……」


 村人達はその言葉を聞いて肩を落とした。

 すると一人の男が尋ねる。


「でも、そうしたら生贄(いけにえ)を出すって言うのかよ!」


 男の言葉を聞いて、村人達は一斉に村長の顔を伺った。

 すると村長は。


「明日。生贄だけは免除してくれるように嘆願(たんがん)するが、いざとなったら出すしかあるまい……」

「……」


 村人達は黙った。

 そして全員、周囲をキョロキョロと見回し始めた。

 各々お互いの顔色を伺っている。

 皆、誰が生贄に選ばれるのかを考えている様子だ。

 部屋に緊張が走っていた。


 ある者は目配せで何かを語りかける。

 その目配せを察した何人かは、(うなず)いたり、目を背けたりと様々な反応を見せた。

 皆の中で言葉を使わない意思の疎通(そつう)が行われる。


 するとそんな中、一人の女が声を震わせながら沈黙を破った。


「あの……ロゼ……。ロゼッタがいいよ……」


 村長はそれを聞いて女を睨みつけた。

 周囲の村人は目を見開いて、その状況を見守る。

 女は震えながら尚も言葉を続けた。


「ほ、他に適任がいるかい? あの子は身寄りもないし、なんたって魔法が使えないんだ……」


 女の声が次第に大きくなっていく。


「そうだよ! あんな無能を村に置いていたって仕方ないじゃないか……」


 女は目を泳がせながら、さらに言葉を紡ぎ続けた。

 周囲の村人達は女の言葉にコクリコクリと小さく頷くいている。

 女は周囲の好反応を伺うと、少しずつ震えがおさまり饒舌(じょうぜつ)になっていった。


「だからさ……そうだよ。最後くらい、あの子にも村のみんなの為に働いて貰おうじゃないか……」

「いい加減にせい‼︎」


 村長は怒鳴り声をあげ、女の言葉を遮った。

 そして彼は、隣にいる男に静かに尋ねる。


「ロゼッタは今どこにいるかね?」

「……恐らく家ですが」


 村長は頷くと周囲の村人を見渡した。

 そして声高々に宣言した。


「生贄にはワシが名乗り出る!」

「ええ⁉︎」

「先ほどの話、決してロゼッタの耳に入れるでないぞ! 村人は全員が家族じゃ。家族に優劣をつけて命の選別をするなど、このワシが許さん! 分かったか‼︎」

「……」


 村人達は静かに(うつむ)いた。

 すると再び、部屋には鳥のさえずりだけが響き渡る。

 西の窓から入り込む光が、いつの間にか赤くなっていた。

 次第に暗くなっていく部屋と重なるように、部屋の空気も重くなっていく。

 そんな時。


 ドン、ドン、ドンッ!


 誰かのドアノックが静寂を破った。


 一同、玄関の扉に視線を送る。

 すると、扉の向こうから聞きなれない男の声がした。


「ごめんください! 旅のものですが、マリ村の村長さんの家はこちらでしょうか?」


 村人達はそれを聞いて一斉に村長の顔を見た。

 そして一人の男が静かに告げる。


「村長……旅人ですよ」


 ドンドンッ。


「誰かいらっしゃいますか? オネットの街で荷物を預かってきました」


 村長は一度目を瞑る。

 そして鼻から息を吸い、吐きながら眉をひそめた。

 やがて村人達が見守る中、村長は口を開く。


「守るべき優先順位は、第一に村の人間。次いで、よそ者じゃ……」


 村人達はその言葉を聞いて頷き、村長もそれに合わせて頷いた。

 すると村長の隣にいた男がそっと魔法の杖を抜いて立ち上がり、玄関へと向かう。

 男は扉に近づきながら、外の旅人に返事をした。


「はーい。今開けまーす」


 男は慎重に一歩一歩足を進め、静かにドアの鍵を解除。

 そして、何事もなかったかのように普段通りの笑顔で扉を開けた。

 村の男が扉の隙間から外を見る。


 するとそこには、黒髪を短く切り揃えた体格の良い男が笑顔で立っていた。

 パッと見、好青年といった感じだ。

 しかし、服もズボンもブーツも上から下まで安物を身につけていて見窄(みすぼ)らしい。

 いかにも貧乏そうな旅人だ。

 手には何やら荷物を持っている。

 村の男は旅人の外見を舐め回すように観察した後、髪、耳、首元などを重点的に確認した。


「どうやら、魔除けの類は身につけていないようだな……」

「あの……」


 旅人は、村の男の怪しい視線に困惑しながら玄関の隙間から部屋の中をチラリと見る。

 すると、薄暗い部屋の中で複数のギラギラと輝く目がコチラを(にら)んでいるのが見えた。

 旅人は、ごくりと唾を飲み込む。

 そして頭をポリポリと掻きながら申し訳なさそうに言った。

 

「あの……もしかして、取り込み中でしたか?」

「いいえ。ちょうど良い時にいらっしゃいました」

「え?」

眠れ(スリープ)!」


 村の男は詠唱しながら、腰元に密かに構えていた魔法の杖から白い煙を発射。

 杖先から飛び出した白い煙は、旅人の顔に衝突してモワッと弾けた。

 直後、旅人は煙を吸い込み白目をむく。


 ボトッ。

 旅人は手に持っていた荷物を落とした。

 そして、彼は体のバランス感覚を失った様子でフラフラと前後に揺れ始めた。


 ドタドタ。ドタドタ。


 旅人は自分の体重を支えるために、遠ざかる意識と格闘していた。

 しかし。


 バタンッ。


 ついには力尽きて後方にバタリと倒れてしまった。


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