第一章 二
私が生まれ変わってすぐでした。
鷲鼻で、深い皺が顔を縁取っていて、肌には染みがある痩せこけたお爺さんは、目だけ子供のように輝かせて満足げに私を見詰めると、両の手に収めて歩き始めました。
老職人の手は温かく、ごわごわとしていました。時々硬い肉刺に当たって、金具が擦れます。私は指の隙間から洩れる明かりで仄かに暗い手の中温かい人の体温を感じながら、出来上がったばかりの私を見つめる老職人の顔を思い出していました。
上に被せられた手が、不意に消えました。急に眩しい光が当たり、私は目が眩んだのです。太陽とは違う光は、熱を持っていました。光源は老職人の頭ほどの位置に輝いていました。
老職人がドアノブを捻る音がしました。続いて、蝶番が軋む音がしました。油が切れているのでしょう、重苦しい悲鳴に似ています。
「おうい、起きているかい?」
老職人は、身体に似合わない深く力強い声で、誰かに語り掛けています。私は目が擦れませんから、徐々に光に慣れ始めた目で、必死になって部屋の中を見回しました。
粗末な室内でした。壁の端々が切れていたり、木が一枚そっくり剥れていたり。お世辞にも豪邸とは言えませんから、私はがっかりしていました。
「どうしたの、あなた」
どこからか声がしました。弱々しい、か細い声です。優しさを秘めた声は、老職人の手を震えさせました。
「おまえにプレゼントを作ったんだ。さあ、昔みたいにはめておくれ」
老職人は、私を差し出しました。本当にいとしそうに、ベットに横たわる老婆を見詰めています。
老婆は、細くて皮膚は土気色でした。唇は青く、血色がありません。細い指が私に伸びてきましたが、つと止まり、ゆっくりと遠ざかっていきました。
「あらまあ、可愛らしいピアスだこと。でもねえあなた、私はもう穴が塞がっているかもしれないわ。これは娘のアンナにあげて頂戴な」
老婆は、微笑みました。瞳が潤んでいます。私はじっと顔を見ていましたが、寂しい中に心からの感謝が浮かんでいて、胸が痛みました。
「すまないなあおまえ。本当はペンダントにしたかったんだよ。だがなあ、金が買えなかったんだ。さ、着けなくてもいい。せめてこのピアスを持っていておくれ。オニキスは退魔の石だ。病魔もきっと祓ってくれる」
私は『出来ないわ!』と叫びましたが。声は届きませんでした。またコツが掴めていなかったのですから仕方ありません。老職人を見上げると――今でも容易に思い浮かべることができるのですが、――見上げると、優しい笑みを浮かべていました。その笑顔は、悟りの境地に差し掛かっているように、慈愛に満ちた、哀れみ深いものでした。