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8 特訓3


 私が落ち着いたのを見て兄様達が話しかけてきた。


「どうしたの!? 僕がぶつかって痛かった?」


「なんだ!? 兄様を殴り飛ばしたのが怖かったか?」


「私は君を泣くほど傷つけていたのかい!?」


 兄様達が見当違いのことを言ってそれぞれ焦っている。


 私はそのおかしさと泣いてしまった恥ずかしさではにかみ笑いを浮かべた。


「どれも違いますよ。私は嬉しかったんです。」


「「「嬉しかった?」」」


 兄様達は疑問を顔いっぱいで表しながら聞き返してきた。

 それがまたおかしくてさらに笑いながらも私は答えた。


「そうですよ。ヨアン兄様には誇りだって言われて、フランク兄様は私のために本気で怒ってくれて。確かにマルク兄様は私を変な目で見てましたが、それでももうこっちが申し訳なくなるほど後悔してくれて。敬愛する兄様達がここまで私を大切に思ってくれているのが分かって嬉しくないはずがないでしょう?」


 恥ずかしさを感じながらもそう答えると兄様達は揃って恥ずかしそうな顔をしていた。


「それにマルク兄様、許されないなんてことないですよ。私はそこまで深く気にしてません。たとえマルク兄様が私をことを化物だと思ったとしても、それ以上の時間、それ以上の密度でマルク兄様が私を大切に思ってくれていることを知ってますしマルク兄様に多くのことで助けられていますからね。少しくらい変に思われても深く傷つくほどじゃありません。」


 マルク兄様はそれを聞いて少し涙ぐんでいた。


「さぁ魔法を教えてくれるのでしょう? 次は何をすればいいんですか?」


 私がそう切り出すとマルク兄様は気を取り直したようだ。

 実際、前回は私の魔法は弱いと思っていたから何をすれば良いのか見当すらつかないのだ。


「そうだね。次は「ここにいらっしゃいましたか。」


 マルク兄様が話を始めようとするとエマが声をかけてきた。


「皆様お揃いで良かったです。昼食の準備が出来ております。」


 言いながらエマは近づいてきた。そうしてこの惨状を理解したのか訝しげな顔をした。


「失礼ですが何をしていらっしゃったのですか?」


 疑問に思うのも当然である。庭は水浸しで私は涙の跡が見えるだろうし目も赤いだろう。さらにマルク兄様の頬は腫れてきている。

 客観的に見るととても異様な光景である。


「ちょっと魔法の練習をね。悪いけれどこの庭の後始末を頼める?」


 私が答えるとまだ疑問はありそうだが頷いてくれた。


「私は着替えてから行くことにするよ。」


「俺もそうする。」


「じゃあ僕は桶の水をどうにかしようかな。」


「では私も顔を洗ってから行くとします。」


「じゃあこの水を使えば? 水自体は安全だし拭くものはフランク兄様に借りればいいし。」


「そうだな。どうせ出したんだから捨てるより使う方が良いよな。ほれ、これで拭け」


 私はお言葉に甘えることにした。顔を洗うとマルク兄様の

「次は食後だね。」

という言葉で一時解散となり、上2人の兄様は部屋へ下の兄様は台所へ向かったので私は先に食堂へ向かうことにした。


 そこではシャルと母様が待っていた。


「あら? アルフその目どうしたの? まるで泣いた後みたいですよ?」


 席につくなり母様にそう聞かれた。私は少し考えてから答えた。


「兄弟の絆を深めてきたところですよ。」


 母様は不思議そうだが私はこれ以上答えるつもりはない。マルク兄様に聞いて欲しい。


 そうすると今度はリゼット姉様がやって来た。リゼット姉様も聞きたそうだったが気づかないふりをしてやりすごした。


 今度はヨアン兄様。次にマルク兄様が来てフランク兄様、最後に父様が来た。


 マルク兄様が入って来たときは皆驚いていた。



 父様が来て食事が始まり、食事が終わって食後にお茶を飲んでいるところでとうとう父様からの言及がきた。


「その……なんだ? マルクよ。その頬はどうした? アルフも泣き腫らした目をして。お前達は魔法の練習でもしていたんじゃないのか?」


 すると代表してマルク兄様が答えた。


「魔法の練習はしておりました。詳細は省きますがその最中私がアルフを泣かしフランクに殴られました。」


 マルク兄様簡潔である。そして誤解されそうな説明である。


 案の定父様は疑問顔だが、疑問顔なりに私達を諭すことにしたらしい。


「アルフよ、男児たるもの簡単に泣くのは良くないぞ。そしてフランクよ、安易に暴力に訴えるのは良くない。それは話すことで解決出来たのではないのか?」


 すると私でもフランク兄様でもなくマルク兄様が答えた。


「いいえ、父様。今回の非は私にあります。むしろ殴ってくれたフランクには感謝しているのです。」


「ふむ……そうか。お前が言うのであればそうなのだろう。」


 全く事情が理解出来ていない父様は息子の新たな趣味だと勘違いし、若干引きぎみに全てを投げることにしたようだ。触らぬ神に祟りなしというやつである。


「詳細は長くなりますので後程ご報告致します。」


 母様や姉様も気になっているようだが今回の話はここで終了となった。



 昼食後、私とヨアン兄様とそして何故かフランク兄様が揃ってヨアン兄様の私室へと向かっていた。


「フランクも一緒に来るのかい?」


「だって面白そうだしな。」


「私も仲間外れは嫌よ?」


 何故か女性の声が混ざっていたので声の主を探すとそこにはリゼット姉様がいた。

 誰も気づいていなかったらしく皆ぎょっとしている。


「どこからに出てきたんだい?」


「私は最初からいたわよ?」


「リゼも一緒に来るのかい?」


「だってアルフちゃんが心配なんですもの!」


 言うが早いか姉様は私に抱きついてきた。


「さっきはアルフちゃんがマルク兄様に泣かされたんでしょう? 今度はそうはいかないわ! 私がついてるもの!」


 リゼット姉様は一緒に来る気満々のようだ。


 しかしマルク兄様の名誉のために言っておこう。


「いいえ、リゼット姉様。私はマルク兄様に泣かされたのではありません。兄様3人に泣かされたのです。」


 そう言うと下2人の兄様は驚いてこちらを見てきた。それと同時にリゼット姉様の視線はますます鋭くなった。


 下の2人の兄様の目は

「裏切り者~」

と如実に語っていた。


 別に私は裏切っていない。事実を述べただけである。


「ますます駄目じゃない! もう兄様達には任せておけないわ!」


 マルク兄様だけに汚名を被せることを良しとしなくて言ってはみたが、リゼット姉様がとても恐ろしい感じで怒り始めたので私はネタばらしをすることに決めた。


「リゼット姉様誤解です。」


「そうなの?」


「そうです。確かに3人の兄様達によって泣かされたことは事実ですがそれは悲しくて泣いた訳ではないのです。私は3人の深い愛情に触れて感激して涙を流したのです。」


「あらそう。ならいいわ。」


 リゼット姉様の怒り度が急激に低下した。


 それを見て下の2人の兄様が安堵の息を漏らした。


「全く……アルフも勘弁してくれ。」


「そうだよ、もう。びっくりしたじゃないか。」


「私は嘘は一言も言っていません。マルク兄様だけ責められるのが良くないと感じただけです。」


「アルフちゃん優しい!」


「ありがとうございます。」


 話しているうちにマルク兄様の私室へと着いた。


 流石に椅子が足りないようで近くにいた下男へと椅子を持ってくるように指示をしていた。


 部屋へ入りしばらくして全員分の椅子が揃ったのでそれぞれが適当な場所で座りマルク兄様が話し始めた。


「さて、間は空いてしまったけど次に進もうか。属性を調べたから次は総量だ。魔力は使い切ると回復するときに総量が少し増えるのは知っているかい?」


「はい、知っています。」


 これは前回学園の授業でも習ったが使うことはほぼ無かった。


 魔力は使い切ると無意識のうちに上がっている身体能力も落ちるし回復しきるまで魔法は使えない。


 正確に言うならば使えはするが無理やり使うと二度と魔法は使えなくなることもある。さらに全身に痛みが走るらしい。よって使うことはない。


 つまり魔力を使い切ると無防備に近くなるのだ。


 前回私は魔法を使って戦っていたので、魔力切れには注意を払い切らさないようにしていた。


「なら話は早い。総量が分かれば増やし易くもなるし逆に切らせ難くもできる。どちらが良いかは状況によって変わってくるけどアルフはとりあえず切らせてみようか。」


 マルク兄様はその言葉が言い終わらないうちに属性の魔石と似たものを取り出した。


「さて、これは属性の魔石とは違う加工をした魔石だよ。これは魔力を貯めることに特化させている。実のところ魔力総量を客観的に見る方法は現在存在しない。だから基本的に本人の感覚しだいで残量を測るのだけれど客観的に総量を確認しようと思ったらこれが一番手っ取り早い。さっきの測定では魔力はほとんど減ってないだろう? だからこれに魔力を込めてみればおおよその魔力は測れるよ。」


 確かに昼食前にやった鉄の棒はほとんど……いや、全くと言って良いほど魔力は使っていない。使った魔力も回復している。


 それであの威力……魔力効率良すぎである。


 強い力があるのは私の目標のためには喜ばしいことであるが、先ほどのこともあり素直に喜べない自分がいた。


「アルフちゃんは何があっても私の可愛い弟よ~。」


「いきなりどうしたのですか? リゼット姉様?」


「なんとなく言いたくなったのよぉ。」


 リゼット姉様が唐突にそんなことを言った。


 顔には出ていなかったはずであるし現に兄様達も不思議そうだ。


 こういうことがたまにあるからリゼット姉様は心が読めているのではないかと思うときがある。


「それでは気を取り直して魔力を込めてみて?」


 マルク兄様に促されたので私は魔石を手に取り魔力を込め始めた。


 見た目上の変化はない。


 けれども確かに魔力は減っていく。


「本当に魔力込められてるのか?」


「はい、確かに魔力は減っています。」


「なんかすげー地味だな。」


「そうね、地味ね。」


「地味なのは仕方ないよ、魔力に色がついてる訳じゃないんだから。属性の魔石だって適性ごとに色を変えて分かりやすくなるように加工してるんだよ。」


「これいつまで続くんだ?」


「さぁどうだろう? 正確には分からないけどアルフの魔力が尽きるか魔石に魔力が入らなくなるまでは終わらないよ。」


「それまでずっとこのままか?」


「魔石をよく見れば分かるけど少しずつ透明度が上がっているでしょう? 魔石中の不純物が追い出されていっているんだ。最終的には透き通って宝石みたいに綺麗になるよ。」


 確かに透明度は上がっている。注視しても分かりづらいほど微かだが。流している本人である私でさえ言われるまで気づかなかった。


「終わる目安はあるのか?」


「アルフはまだ魔力を一度に多く出す訓練はしていないでしょ? それに加えてこの大きさの魔石なら最大で10分くらいじゃない?」


「げぇっ! 10分も!? なげぇよー。」


「仕方ないでしょ。自分で来たんだから我慢して!」


 フランク兄様はとっても暇そうである。おとなしくしているのが苦手な兄様である。


 ちなみにマルク兄様は静かに私の手元を眺めているし、ヨアン兄様も説明しながら見ていた。

 リゼット姉様は始め、フランク兄様と一緒に少しつまらなそうにしていたがヨアン兄様が「宝石みたいに~」と説明していたあたりでおとなしく魔石を見ることにしたようだ。

 ただし、何故かチラチラ私の顔を見てくる。結構頻繁に見てくる。

 私は魔力を流すことに集中しているので声は出せないしいささか退屈ではある。



 暇そうなフランク兄様をヨアン兄様が宥め、マルク兄様に見守られリゼット姉様に顔を見続けられることしばらく、ようやく魔石から反発が返ってきた。


 リゼット姉様は途中から魔石を見ることを止め、私の顔を凝視してきた。しかも手元を見て俯きがちだった私の顔を椅子から降りてまで覗きこんできたのだ。


 魔力を流すことへの集中から解放された今、ようやく声を発することができる。


「ふぅ。リゼット姉様私の顔がそんなに面白いですか?」


「面白いというか飽きないわよぉ? ほら、赤ちゃんの顔っていつまで見てても飽きないじゃない? そんな感じよ。」


「私の顔はそんなに幼いですか?」


「そうじゃないってばぁ! 可愛い可愛い弟の顔はいつまで見ても飽きないってことよぉ!」


「はぁそうですか。ありがとうございます。」


 第一声がこれはどうかと思いはしたが、途中からどうしても疑問だったのだ。疑問を口に出来てすっきりした。

 そして気持ちは少し分からなくもない。シャルは可愛い。


「マルク兄様、込め終わりました。」


「お疲れ様、アルフ。魔力はまだ残っているのかい?」


「はい。あと半分くらい残っています。」


「Cランクの魔石2個分ほどか……まさかとは思ったけどこっちも結構あるな……。」


「多いんですか?」


「ああ、多い。でもそれは何の訓練もしていない状態にしては多いという話だ。参考になるかは分からないが私ならこのランクの魔石を30個は貯められる。」


「30個ですか! 凄いですね!」


「ふふっありがとう。まぁ上には上がいるけどね。流石に5年以上鍛錬してきたんだ。少しは兄としての威厳を保てたかな?」


 兄様は少し茶化した言い方をした。それを聞いた私は少しムッとした。兄様にはあまり自分を卑下してほしくない。


「マルク兄様はいつでも私の尊敬する兄様です。」


「ありがとう、アルフ。」


 兄様は嬉しそうに笑った。


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