7 特訓2
「……それは本当ですか?」
「嘘なんてつくものか! ……そうだ! 少し待っててくれ!」
マルク兄様はそう言うとまた部屋を飛び出して行った。
兄様達のことは信用しているがどうにも不安が拭えないので、マルク兄様が戻ってくるまでの間ヨアン兄様に相手して貰うことにする。
「ヨアン兄様? 先ほどは例外があるってマルク兄様が言っていましたが、私みたいな全色は今まで無かっただろうとも言っていました。それはどういうこと何ですか?」
そう聞くとどこかばつが悪そうなヨアン兄様はすぐに教えてくれた。
ヨアン兄様も会話を求めていたのだろう。悪いことなどなにも無いのだからそんなに気にしなくても良いのに気にしてしまうのだから兄様達はやはり優しい。
「アルフのは例外中の例外だよ。普通は……って言うのはおかしいけれど、普通は生まれた時から色が濃いことはあっても1色なんだよ。その場合は両親のどちらかの色が濃くてその色が生まれたばかりの子供へと受け継がれるんだ。この事はたまたま見つかったらしくてちゃんと検証もしたんだって。だから両親のどちらかが明らかに濃い色でなければまず測定すらしない。まぁそうだよね、無駄足踏まされちゃうもの。」
また長い説明だったが、今度はゆっくりと説明してくれた。
「色の濃い生まれたての子供の性格はやはりその色に寄るのですか?」
「そうだね、寄るらしいよ。」
私は自分のした質問でまた落ち込んだ。
ヨアン兄様も
「しまった!」
と顔に書いてある。
「でもほら! 寄るって言っても絶対じゃないし! それに父様も母様も濃いとは聞いた事ないし全色なんて初めてだって話もしたじゃないか! 全色あるからって変な訳じゃないって! アルフが変じゃ無いって事は僕が保証するからさ!」
ヨアン兄様は懸命に私を励ましてくれた。
それで気を取り直すとヨアン兄様が安堵しているのが見えた。
そこで扉が開きマルク兄様が戻ってきた。
今度は当然ながらヨアン兄様と一緒ではなく、代わりにいくつかの道具を抱えている。
「おまたせアルフ!」
「それは何ですか?」
「これかい? これは水を出す道具と火を出す道具、あと出した水を入れる桶だね。」
聞くとマルク兄様はひとつひとつ説明してくれた。ただし火を出す道具と水を出す道具はただの鉄の棒にしか見えず区別がつかない。
「これの構造は簡単で中が空洞の鉄の棒に各属性の魔石がはまっているだけ。これに魔力を流すと魔石が魔力を変換して属性にあったものを出してくれるんだ。」
「それをどうするんですか?」
「まぁ見ててよ。」
マルク兄様はそう言うと先ほど私が使っていた属性の魔石を取り魔力を流し始めたようだ。
徐々に色が変わって行き最終的に綺麗な青色に染まった。それは冬の空のように澄んだ色に感じた。
「私はこの通り青系統の色……つまり私の得意な属性は水だ。よって苦手な属性は火となる。そしてこの道具に同じだけ魔力を流すと……。」
そう言ったマルク兄様は両手にそれぞれの道具を握って魔力を流し始めた。
すると右からは水が出てきて左からは火が出てきた。
しかし水の方は勢いがあるのに対して火は小さく今にも消えてしまいそうだ。
「こんな風に勢いが違うんだ。これは魔力の変換効率が違うからなんだ。これをアルフ、君がやってみて。」
マルク兄様は私に2つの道具をそれぞれ持たせた。
「これにそれぞれ同じだけ魔力を込めてごらん? これはほとんど玩具みたいなものだから込められる魔力にちゃんと制限がある。込めすぎると変換しきれずに魔力が反発するからそうしたら魔力を込めるのを止めてね。ただし人には向けないように。」
「分かりました。」
返事をしたところで両手の道具に魔力を込める。
どちらも徐々に勢いを増していき水がマルク兄様と同じところまで勢いが出たので反発は無いが一度止めた。
この時2つの勢いは同じくらいだったが、水はまだしも火が危なくなってきたので止めた。
「マルク兄様……まだ強くなりそうなのですが流石にこれ以上は……。」
「まだ上があるのかい? 参ったな……。残りの属性は分かりづらいしなぁ。仕方ない中庭へ行こう。」
そう言われて私達は中庭へやってきた。そこではフランク兄様が素振りをしていた。
「やぁフランク、少し場所を借りてもいいかな?」
「兄様? 別に良いけど兄様は男兄弟揃えて何してるんだ?」
「別に揃えているわけじゃ無いけどね。アルフの魔法属性が少し特殊で今試しているところなんだよ。」
「ふーん。魔法の話をしてるってことは父様の許可が降りたってことか。」
「はい。明日からお願いします。」
「約束だからな、明日の朝食後から午前中いっぱいだ。しっかり心構えしとけよ。」
「分かりました。」
フランク兄様と話していると水の入った桶を運んで一息ついていたヨアン兄様が話に加わってきた。
「何? アルフはフランク兄様とも何かするの?」
「はい、剣術を教えて貰う約束をしていました。」
「剣術もやるの? というかいつの間に約束なんてしたの?」
「魔法だと近づかれたら苦しい場面も出てきますからね。約束したのは今朝です。」
そう答えると兄様達は納得したようだった。
「それでアルフの属性を試すって何すんだ?」
「この2つの道具で魔力属性の適性を目に見える形で見せてるのさ。君も見覚えがあるだろう?」
「あーあれか! 俺はそこまで魔力が多くないからあんまし関係無かったけどアルフは必要か。」
「そういうことだね。じゃあアルフ、さっきみたいにしてみてくれる?」
「分かりました。」
そう答えると少し離れてもらい、私は再び魔力を込め始めた。
2つとも徐々に勢いが増していき、先ほどと同じくらいまで勢いがつきはじめた。
今度はそこで止めずさらに魔力を込めていった。
すると下へ向いていた水の勢いが真っ直ぐ伸びていき、火の勢いも上ではなく前を向き始めた。
さらに込めていくとどちらも邸の壁へ届くほどになった。
壁はここから5メートルは離れているはずである。
流石に危ないので、私は魔力を込めるのを止めた。
兄様達を見ると3人とも呆気にとられていた。
「マルク兄様、これ以上は無理です。」
その言葉で我に返ったようでマルク兄様はまだ動揺しながらも答えてくれた。
「そうか……それでも凄いよアルフ。私も結構濃い方なんだけどこれほどの適性はやっぱり初めてなんじゃないかな?」
マルク兄様が珍しく勘違いしている。とても言いづらいが適性を正確に測るためにやっているのだから本当のことを言わねばなるまい。
「……いえ違います、マルク兄様。危ないのでこれ以上は出来ません。」
そう言うと今度こそマルク兄様はとんでもないものを見る目で私を見てきた。
私も流石にここまでだとは思っていなかったのだ。
私はマルク兄様の視線に落ち込んだ。私に非があるとはいえ、尊敬する兄様に恐れを含んだ視線を向けられれば少し悲しい。
そうして落ち込んでいるともう今にも卒倒しそうなほど興奮したヨアン兄様が勢いをつけて抱きついてきた。
私は驚き、さらにもとからヨアン兄様の突進を受け止められる体ではないので後ろに倒れた。
ヨアン兄様はそんなことに一切の意識も向けず、過呼吸になるのではないかという呼吸で話かけてきた。
「凄いよアルフ! 君は最高だ!! 凄い凄い! 今までこんな魔法適性を持った人間は、いや生物はいなかったんじゃない!? こんな弟を持てて僕は誇らしいよ!」
ヨアン兄様は言葉で……全身でそう伝えてくれた。
今度は僕が呆然としているとマルク兄様がフランク兄様に殴られ、倒れていた。大丈夫だろうか?
「弟になんつー目ぇ向けてんだ!! アルフはどんな状況でも! たとえ悪魔に乗っ取られていても! 俺らの大切な弟だろうが!! しかもアルフはなんも悪くねぇ! むしろ喜んでやるべきだろうが! 一番上の兄がそれでどうする!」
フランク兄様がここまで怒るのは初めて見るかも知れない。
フランク兄様が私のために全身で怒ってくれている。
「君の言う通りだよ……。アルフは大切な弟で今回なんの非も無かった。それなのに私は……あろうことかその才能に嫉妬し、あまつさえ恐怖し化物のように思うなんて……。私は自分が恥ずかしく情けない。素直に祝ってやることも出来ずに……。これでは兄として……いいや、人として失格だ……。」
マルク兄様はそう独白した。
「アルフ……申し訳ない。君は素晴らしい才能を持っている。私がしたことは悪意のない君を傷つけ君の才能を潰してしまう行いだった。いくら謝罪しても許されないことだと分かっている。でも魔法のことは嫌いにならないでくれ。これは私の独りよがりなのかも知れない。それでも魔法はきっと将来君を助けるだろうから。」
マルク兄様は私の目を見ながら言ってくれた。
マルク兄様が全身から後悔を滲み出し本気で謝罪してくれているのが分かる。
そんな兄様達の深い愛情を感じて。
私は不覚にも泣いてしまった。
私が家族の一員だと教えて貰って。
私の何かが許された気がして。
私が涙を流したのは両親とシャルが死んだ時以来だ。
いきなり泣き出した私を見て3人の兄様達が凄く慌てているのが見えたけど。
もう少しだけこのままでいさせて下さい。
ごめんなさい。
そして私を深く愛してくれてありがとうございます。