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6 特訓1


 ゲートのある街から5日かけてリプトンス家本邸まで帰ってきた。


 ゲートを使わないとこれが1ヶ月かかることを考えると移動時間が大分短縮されたことが分かるだろう。


 本邸へ帰ってきて私はとうとう自分を鍛えることに専念出来る。


 時間は限られている。


 早速始めたいところだったが、本邸に着いたのは日も傾いた頃だったので無理だった。


 気を取り直して翌日、早朝から移動中も欠かさず毎日行っていた素振りをしている兄様のもとへと向かった。


「フランク兄様、おはようございます。」


 フランク兄様が素振りを一段落つけたときに話かけた。


「ん? あぁおはようアルフ。こんな朝早くからどうした?」


「私に剣術を教えていただきたいのです。」


「急にどうした?」


「私も人を守る力が欲しいのです。」


 私は正直に答えた。


「そうか。でもアルフなら剣術を習わなくとも魔法が使えるだろう?」


「勿論後でマルク兄様とヨアン兄様のもとへ赴き、教えを請うつもりです。しかし咄嗟の事態では魔法よりも剣術の方が対応出来ます。そのため身を守る術としても剣術を教えていただきたいのです。」


 そう答えるとフランク兄様は驚きの表情を浮かべた。


「アルフはまだそこまで考えなくてもいいんじゃないか?」


「……いいえフランク兄様。私は四男です。その上兄様達のような特筆すべき才能はありません。ですので私は今のうちに出来ることを増やしておきたいのです。」


 ……できることならこの言い訳は使いたく無かった。この話をすれば優しい兄様達はきっと悲しむ……それが分かっていた。


 案の定フランク兄様の表情は曇った。


 それを見た私は少し罪悪感を抱くがあまりそれを意識しないようにする。


 私にはあまり時間が無い。何かを始めるには少し遅いくらいなのだ。

 もちろん普通に残りの人生を考えれば決してそんなことは無いだろう。

 だが、私の目標は遥か彼方にある。少しの時間も無駄にしたくない。


 本当ならばシャルとの3日間も何かをした方が良かったのかも知れないがあれは浮かれていたのだ。なのでしっかり切り替えて行こうと思う。



 しばらくの間のあと、フランク兄様は決意した表情をした。


「……分かった! アルフ! やるぞ!」


「はい! フランク兄様!」


「剣術を教えるのは良いがしっかり父様に許可を取って早くても明日からな。」


「分かりました。」


 本音では今すぐにでも何かをしたかったが、確かに許可は必要だと思ったのと話をしている間に少し経ってそろそろエマが起こしに来るであろう時間になったことでそれは諦めた。


 無断で出てきているのでそろそろ一度戻らないと心配をかける。


 仕方なく私は部屋に戻ることにした。


 部屋へ着くと扉の前でエマと鉢合わせになった。


「おはようございます、アルフレッド様。どちらへ行かれていたのですか?」


「おはよう、エマ。少しフランク兄様と話をしに行っていただけだよ。」


「左様でございますか。食堂の方へ行かれますか?」


「そうしようかな。」


 私は既に身支度は整えていたのでエマのその問いにすぐに行くことにした。


 食堂に着くと今日は私が一番早かった。



 家族が揃い食事を終えた後、執務室へと向かった父様に話しかけた。


「父様、少しよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「私は戦えるようになりたいので、そのための剣術や魔法について兄様達に教わってもよろしいでしょうか?」


 すると父様は少し考えたあと答えた。


「分かった。なるべく怪我はしないようにな。」


「ありがとうございます。」


 父様に許可は貰ったので、今度はマルク兄様のもとへ向かった。


「マルク兄様、今お時間よろしいですか?」


「アルフかい? いいよ、入っておいで。」


「失礼します。」


 マルク兄様が許可を出したので私はマルク兄様の部屋へ入室した。


「どうしたんだい?」


「マルク兄様、私に魔法を教えて下さい。」


「やけに急だね。何かあったのかい?」


「いえ、何かあったわけではありません。ただ私も10を過ぎたのでそろそろ戦える手段が何か欲しいと思ったのです。」


「そうかい。父様の許可は取っているの?」


「はい」


「分かった。じゃあ教えよう。」


 マルク兄様はそう言うと私に椅子に座るよう促してきた。


「まずは基本中の基本から。魔法に使う魔力は動かせるかい?」


「はい、出来ます。」


「じゃあこれに流してみてくれるかな?」


 言うが早いかマルク兄様は赤子の拳ほどの大きさの透明な丸い物体を取り出した。


「これはなんですか?」


 聞きはしたが私はこれを知っている。なぜすぐに出てきたのかは分からないが……。


「これ? これは得意な魔法属性を調べる道具だよ。原料は魔石。名前は特に決まって無いらしいけど一般的に属性の魔石って呼ばれてる。これから教える方向を決めるのに得意な魔法属性は必要だからね。」


 マルク兄様がさらに促すので私は気乗りしないがそれを手に取り魔力を流すことにした。


 すると徐々に中が濁っていき様々な色の入り交じる奇妙な斑模様が出来上がった。


 それを見るとマルク兄様はとても驚いた表情を浮かべた。


「これは…………これはヨアンもいた方がいいな。アルフ、ヨアンを呼んで来るから少し待ってて。」


 そう言うとマルク兄様は慌てて出ていった。


 私は魔力を流すのを止め、少し不安に駆られながらも独り待った。



 私はこの色を見た教師や数名の同級生に馬鹿にされたことがある。

 この水晶の色は綺麗であればあるほどその色に対応した属性への強い適性が表れるらしい。

 そのため私は濁っているから弱いと笑われたのだ。

 幸い測定は一度きりだったし魔法も問題無く使えたのでそれ以降に不自由はあまり無かった。



 そうして不安とともに待っているとヨアン兄様を連れてマルク兄様が戻ってきた。


「お待たせアルフ、早速だけどもう一度魔力を流して貰える?」


 そう言われたのでもう一度魔力を流すとまたあの斑模様が出来上がった。


 それを見たヨアン兄様は一瞬にして凄く興奮して私の手を取りブンブンと音が鳴りそうなくらいの速度で上下へと振りだした。


「凄い! 凄いよアルフ!」


 私は困惑して思わず聞き返した。


「何が凄いんですか? これって色が綺麗な方が凄いのでしょう?」


 するとヨアン兄様は手を離して身振り手振りで教えてくれた。


「正確には色が濃いほど魔力の性質がその属性へと偏っていてその属性により強い適性を示すんだ! だから色が凄く濃い人は正反対の属性がほとんど使えなかったりする! それでも薄い人より何倍も魔法の出力が出るし魔力の効率も良いからより濃い方が良いってだけだよ! 綺麗な方が良いって言うのは一部の人達の誤解だよ! アルフの色は全ての色が混ざってる! しかも全色凄く濃い! まだ属性の決まってない物心ついてない子供の魔力も全色揃ってることが多いけど色は薄いらしい! ちゃんと物心ついて全色揃っててしかも全部凄く濃いなんてあり得ないことなんだよ!」


 ここまで息切れ無しで説明しきった。

 凄い勢いである。若干怖い。

 私は前回その一部の人達に馬鹿にされたようだ。前回測定の時にこの道具の事を知ったので私も間違った認識をしていたようだ。


「魔力の属性はその人の性質によってほとんど決まる。だから属性の変わる人も稀に出るそうだ。それでも複数の色が揃うなど聞いたことが無い。ましてや全色だ。これは今まで無かったことだと思う。」


 そうマルク兄様は補足してくれた。



 ……そうだ。魔力はその人の性質によって決まるんだ。学園の授業で習った。

 それもあって私は馬鹿にされたのか。


 つまり私は心の濁っている上にいくつもの性質がある――つまり多重人格者……いや、前回の記憶も含めるともはや狂人……。



 その考えに行き着いて目に見えて落ち込んだからだろう。

 マルク兄様は私に慌てて補足説明をしてくれた。


「アルフ、落ち込むものじゃ無いんだよ。言っただろう? ()()()()なんだよ。例外もあって生まれたときから濃く染まっていることもあるそうだ。アルフはこの例外だろう。」


 ヨアン兄様も慌ててマルク兄様に補足した。


「そうだよアルフ、それにさっきも言ったけどアルフの色は全てが濃かった。あれは得意な属性が無いのではなく、全ての属性が同じように得意なんだろう。本来苦手なはずの正反対の魔法も同じように使えるんだからむしろ喜んで良いことだよ!」


 2人にそう言われて私は少し気分を持ち直した。


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