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5 帰ろう


 彼女の誕生日パーティーを終え、私達は王都邸へと戻った。


 戻る道中の馬車で私はこれからについて考えていた。


 今は8月、丁度ほとんどの学園が長期休みに入る頃合いである。


 社交シーズンは春なので私達はこれから数日後家族全員と付き添いの使用人達と共に領地へと戻ることとなる。



 私はこれから自分を鍛えようと思う。


 前回の私は努力というものとはほとんど無縁の者であった。


 勉学を進んで修めるわけでもなく、かといって体を鍛えていたわけでも魔法を極めていたわけでもない。


 多くの事を一定の水準でこなすことが出来たため、何かを進んで修める気が起きなかったのだ。


 ただ日々を漫然と過ごしていた。日々を灰色に感じていた原因はこのような面からも影響を受けていたのかもしれない。


 今回はそれではいけない。


 私の記憶を正しいものとするなら、少なくとも来年までに戦えるようにならなければならない。



 11歳の10月、両親とシャルが死ぬ。



 取り越し苦労ならそれでいい。前回はそうだっただけだ。


 しかし私は前回が存在したものだと半ば確信している。

 起こる可能性が少しでもある以上それを見過ごすわけにはいかない。



 私は彼女のためならば世界を敵に回すことになっても構わない。

 逆に彼女を救うためならば世界をも救って見せると決めたのだから。



 だから手始めに家族を救おう。




 自分の家族も守れずに世界を救うことなど出来るものか。






・・・・・






 あの日から3日過ぎた。

 今日は領地へと戻る日である。


 この3日間私は特別に何かをしたわけではない。


 理由は分かっている。シャルだ。


 シャルは基本的にいい子である。

 私の自慢の妹である。


 自慢を出来たことは無いが。


 そのいい子のシャルが置いて行かれた反動か私とマルク兄様にとても構って欲しがったのである。


 構ってちゃんである。とても可愛い。


 もちろん父様や母様のもとへも行っていたようであるが、比較的手の空いていた私やマルク兄様のもとへよくやって来たのである。


 可愛い妹の可愛らしいお願いを断ることなど出来るはずもなく、屋敷中忙しかったのもさいわ……こほん。わざわいしてシャルの相手は私と兄様が勤めることとなった。


 兄様は途中でとても疲れた表情をして、

「もう勘弁して……」

と言って逃げるように去っていった。


 それが初日のことだったので、2日目、3日目はほとんどシャルと遊んでいた。


 それにしても兄様はどうしたのだろう。

 シャルと遊んでいても疲れることなど無いというのに。


 むしろ活力がわく。


 もしかしてパーティーで疲れたのか。はたまた体調でも悪いのか。


 私は心配になり尋ねてみるとまるで得体の知れない生物でも見るかのような目で見られた。


 謎である。そして些か失礼である。


 シャルと遊んでいるとあっという間に3日経っていた。


 これは私にも非があっただろう。



 反省はしている。

 しかし後悔はしていない。




 閑話休題。


 私達はこれから領地へと向かう。


 だが、直接向かうわけではない。


 この王都には何ヵ所かゲートと呼ばれる特殊な場所がある。


 そのゲートは登録されている他のゲートへとほぼ時間をかけず移動が出来る。


 このゲートの原理は誰にも分からないと聞く。


 昔このゲートの研究を大々的に行ったが、結局原理は誰にも分からなかったそうだ。


 だから設置の仕方だけが残っている。


 そんな背景があってこのゲートの存在は様々な憶測が飛び交っているらしい。


 このゲートの設置方法は広く知られているが新しいゲートはそうそう作られない。


 理由は二つだ。


 まず1つ目に莫大な費用がかかる。


 ゲートの設置には高価な素材を惜し気もなく使わなくてはならず、高い技術も必要となるため簡単には設置出来ない。


 2つ目は登録がとても面倒臭い。


 確か登録の際はSランクの魔石を2つに割ってお互いのゲートの中心に置くとその魔石が消えて登録が完了するそうだ。

 しかも登録にはそのゲートのある地の管理者に許可を得なければならない。


 それらの理由でゲートは増えない。


 ゲート同士で移動可能ならば王都内の移動では使われ無いのかと思うかも知れない。


 だがそれはほとんどない。


 何故なら使用料が高いからだ。


 ゲートの使用には大量の魔力を消費する。


 自前の魔力で起動も出来るが移動する運ぶものが多いほど、多くの魔力を消費するので、ほとんどの場合は魔石を使う。


 そのために庶民ではまず利用が出来ず、利用出来る者も手続きや費用、予定を入れなければ利用出来ないことも含めて馬車の方が効率が良いのだ。



 そんなことをゲートへの行きの馬車の中で正面に座っていたシャルに話した。


 馬車には家族が全員いる。全員が乗れる大型の馬車だ。


 席順は御者側を正面として右から父様、母様、シャル、マルク兄様で向かい側にフランク兄様、リゼット姉様、私、ヨアン兄様である。


 使用人達は荷物と共に先に出ている。


 シャルは始めは興味深げに聞いていたが、途中から馬車の外へと目を向けていた。


 飽きてしまったようだ。長く話してしまって申し訳ない……。


 逆に他の家族が驚きながらも興味深げな表情で話を聞いていた。


 気になったので隣にいたヨアン兄様に聞いてみた。


「どうかしましたか?」


「何でアルフはそんなに詳しいの?」


「何処で知ったか思い出せなくて……知識としてはあるのですが。そんなに詳しかったですか?」


「僕でも知らないことが少し混ざっていたくらいだったよ!」


 咄嗟に誤魔化したがヨアン兄様は興奮している。


「アルフちゃんは物知りねぇ。」


 ヨアン兄様の様子などなんのそのリゼット姉様は相変わらずマイペースに私に抱きついてきた。


「そんなことありません。ヨアン兄様の方が物知りです。」


 実際先ほどの話はヨアン兄様に聞いた話であったりする。


「そんなことないわよぉ? 現にヨアンは知らなかったじゃない? それにヨアンは本ばっかり読んでるし学園にも通ってるんだからそうじゃなきゃおかしいのよ。むしろ知らなかったことがだめだったの。ヨアンもそう思わない?」


 リゼット姉様がそうヨアン兄様に振るとヨアン兄様は苦笑しながら答えた。


「そうかも知れないけど……リゼット姉様は知っていたの?」


「知らなかったわよ? だから私の知らないことを知っていたアルフを素直に褒めたのよ?」


 言いたいことは分からない訳ではないが、結構滅茶苦茶に聞こえる。


 しかし説得力はあって……これがリゼット姉様である。



 少し話は逸れるがちゃんが消えていた。さらにここまでの問答はずっと抱きつかれながら行われている。最後にヨアン兄様への当たりが強い。

これらは全てリゼット姉様クオリティーである。



 私はこの家族の問答に懐かしさを感じて思わず笑みを溢しながら、

「ありがとうございますリゼット姉様。」

とお礼を言った。



 それとほぼ同時にゲートへ着いた。


 馬車ごと移動するので私達は降りなくて良いようだが、父様は手続きのために降りていった。


 しばらく経つと父様が戻ってきて席に着いた。


 それと時を同じくして、少しの違和感があり、違和感が収まると外の景色が変わっていた。


 転移終了のようである。


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