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親友のアイツはエイリアン  作者: 那須野 風乱
1/1

あ ふぁにー ふれんど

A funny friend … とあるおかしな友人

青木遥というやつは、腹が立つほどのんびりおっとりマイペースで、その狐目と八重歯とかいう個性の二乗でかつ無駄に顔面偏差値の高い面に絶えず笑みを浮かべてる不思議な青年。二年の春に突然転入してきて、それから一年経つのにみんなの名前を未だに間違えることがある。かといって頭が悪い訳ではなく、提出しているレポートは殆どが満点に近い成績で返ってくる。そんな遥を俺は単純に変な奴と認識し、関わることも無いと思っていた。しかし何の由縁か、同じ学部・同じサークルになった俺達は…不思議なことにいつの間にか親友になっていた。親友といえば、お互いを信頼し合い理解し合うものだと文書で見た事がある。だから俺は、そういう存在が出来たことが少なからず嬉しかったはず。それなのに…。

「なんでこうなっとるんかなぁ…」

「ん〜?うわ、どうしたのソラ。眉間のシワすごいよ?」

いやアンタのせいだよ!?と叫びたくなったが、多分そうしてもこいつは気にしないだろうからその叫びは喉の奥へ留めた。

「ほら、悩み事はこれに乗せてぜ〜んぶ流しちゃお〜。水に流すってやつだよ!」

「まぁ水じゃなくてコーラやけどな」

「まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない」

ハルはそのまま俺のコップにとくとくとその黒い液体を流し込んだ。…並々に注がれているが、俺はコーラが嫌いだと何度言えば覚えるのだろうか。

「ハル、お前大丈夫か?なんか一人で抱え込んでるんじゃないやろな?」

「んもぅ、何度言えば分かるのっ!僕は至って普通、元気百倍カシパンマンなんだから!!」

「成程、つまりお前は愛と勇気しか友達が居ないんだな」

そういうことじゃないと、ハルは頬を膨らませていかにも怒ってますアピールをしてくるが、成人男性がこれをして果たして可愛いと思うか。いや、否である。幾らハルが女顔でも、正直その仕草は割とアウトだと思うぞ。

「あ、こいつ年相応に振舞えよとか思ってるでしょその顔。いいじゃーんまだ僕達二十歳だよ?いけるって!」

「二十歳だからこそアカンやろ。一度成人って言葉、ちゃんと辞書で引いてみろや」

「せ、い、じ、ん…あ、身体的、精神的に十分に成熟している年齢の人のことだって〜。じゃあ僕はこれが成熟済み限界値なんだねぇ」

「…毎回思うけど、お前なんで勉強以外はアホの子極めてるの?」

俺は思わず頭を抱えた。そんな俺を見ても、ハルはただニコニコとコーラを飲み続けていた。

ハルがアホの子なのは何も今に始まったことじゃない。むしろあれが常、平常運転である。

「…あ、コーラ無くなっちゃった」

「嘘やん、少なくとも俺は今注がれているコップ一杯分しか飲んでないで。お前どんだけ飲んだんや」

「う〜ん、だって好きだもん。これは仕方ないんだよ、うん。はぁ〜面倒だけどコンビニまで自転車走らせて新しいコーラ買ってくるか〜よっこらせっと」

おい待て、何故またコーラなんだ。お前はまだ飲むつもりなのか?アホなのか??

「あ、僕が居ない間にお部屋漁らないでよね?幾らソラでも怒るからね〜」

「別に言われなくてもエロ本なんて探さないし興味もないわ」

「…別にえっちな本は無いし」

そう言ってハルはまた頬を膨らまして、部屋の中から出ていった。

「…さてと」

ハルが降りて行ったのをしっかりと確認して、俺は改めて部屋の中に目を向けた。ぬいぐるみがそこかしこにあったり机の上にはレポートが散乱してたりと、割とごちゃっとしている印象を受ける。パソコンは電源を落としていないのか、マウスをちょっと触ってみればパスワード入力画面がデスクトップに表示された。

俺が今からここで何をするのか、そんなのもう決まっている。そもそも俺はそれが目的でここに来ている。…決してエロ本は探さないぞ、多分。自分でも突拍子のない発想だと思うが、俺は今からハルが異星人だという証拠を探すのだ。

俺がそんな発想をし始めたのには理由がある。最初のきっかけは、確か彼の家族関係について聞いた事。

「家族関係?今は遠いところに居るけど時々連絡を取ってはいるよ…え、出身はどこなのって?う〜ん…それを聞いてどうするの?」

そう、あいつは家族関係を聞くと曖昧に濁すのだ。ついこの間なんて「祖父、母、母、兄兄兄兄姉姉姉姉僕で妹…あと海月のパムパム」とかいうめちゃくちゃな家族構成が返ってきたし、その前なんて「僕、孤児院育ち」だった。一つ目の回答についてはまず母を二回言っているし父が不在。更に四人の兄と姉が並んでいる。妹、僕も入れて十人兄弟だ。片親(二人居るが)で育てられる人数じゃない。つまりこれは嘘。二つ目の回答に関しては真偽は知らないが少なくとも一つ目とは矛盾する。

他にも理由は幾つかある。例えば、宇宙に向けてよく分からないことを口走ってたり、ヤギのように紙(しかも上質なやつのみ)を食べてたり、俺の私服がダサいと言ったり…。極めつけはあの目だ。一度だけ開眼してるのを隠し見たが、あの瞳の中には宇宙があった。瞳孔がどうとか言う概念が無い、そこにはただただ広がる宇宙があった…。

これらの理由から、俺はハルのことを異星人だと思った。因みにハル本人に聞いたところ

「エイリアン?いいねいいねぇ、嫌いじゃないよぉ。でも僕ならそんなものよりも海月がいいなぁヘムヘムとお話出来るし…」

と胡散臭い笑みで返された。お前の海月はヘムヘムじゃなくてパムパムだろ、設定崩壊してるぞ。なんだヘムヘムって、某忍者のアニメに出てくる奴かよ。というかそれに影響されただろ絶対。よく考えたらパムパムって名前も昔、海賊のアニメで見かけた気がするわ。

まぁハルに聞いても駄目だということは分かり切っていた。それならば、証拠を探し出して問い詰めた方が早い。

「やるか…」

もう情報源の目星はつけている。勿論、パスロックされたパソコンだ。時間が無いといってもここからコンビニまでは自転車で片道15分かかるし、何となくいけるのではと思った。四桁だし。しかしパスの目星は無い。なので片っ端から試してみるしかないのだ。

まず手始めに、以前彼が言っていた誕生日を入力してみた。その後、彼の名前をポケベル式で入れてみたり彼の好きな惑星のコードを入れてみたりした。しかし一向に解除される気配は無い。何か、他に何かないのか…四桁の数字。

「…あ」

一つだけ思いついたが、これは流石に無いだろう…。試しに『8686』と入力してみると、先程まで苦戦していたパスは呆気なく解けた。

「…あいつどんだけパムパム好きやねん」

それなら間違えてやんなよ、可哀想だろパムパム。そう思っている内にいつの間にかパソコン画面はデスクトップに移行していた。デスクトップには海月がドーンと映っていて、その上に数個のアイコンが浮かんでいる。これがそのパムパムだろうか…とか余計なことを考えつつ、俺はファイルのアイコンをクリックする。ファイルの中は、予想通りかなり整理されていた。

その中で一つ、気になるファイルがあった。ファイル名が、文字化けしているものだ。俺がそのファイルを開くと、wordで作成されたらしき文書が大量に出てくる。

「…いよいよ来てはいけない領域やな」

俺はごくりと生唾を飲み、一番最新の文書を開いた。

『この惑星について

前回の報告で植物と生物が広大な自然の元共存していると送ったが、ニンゲンが生み出したらしい人工物もかなり多いことが判明した。大学のニンゲンによれば、そのせいで自然が破壊されているとか。ニンゲンはどうやら自然のありがたみを分かっていないようである。また、車から出る排気ガスや下水等は我々と非常に相性が良くない為、この星に全員が移民するにはあれらを撤去する必要があるだろう。先日、上から観察対象に指定された"彼"に目立った動きは見られない。また分かり次第連絡をする』

文書の内容は、だいたいこんな感じであった。

この文書は…彼が異星人ということを示しているのではないか。もっと情報が欲しい、と思い俺は一番最古の文書を読もうとマウスを-。

「だーめだよ、何してるの」

ー動かせなかった。いつの間に帰ってきていたのか、後ろからハルが手を伸ばしパソコンの電源ボタンに触れスリープモードに移行させている。

「…ハル」

「やぁ、ただいまぁ。ところでソラ、見ちゃいけないの見ちゃったね?見るなって言ったのに見たね?」

…あ、やばい、こいつ怒ってるんじゃないかこれ。

「ごめんハル、でもエロ本は見てな「僕の可愛いパムパム見たでしょ!!」……は?」

「だから!僕のパムパム見たでしょ!!ほら、デスクトップの海月!!可愛い可愛い僕のパムパム〜誰にも見せたくなかったのにぃ…」

…こいつ、もしかしてヤンデレとかいうあれか?好きなモノは独占して誰にも見せたくないとかいう愛の重いあれか?じゃなくて!

「お前…怒るとこそこか?」

「いや…怒ってはいないんだけどね?ちょっともやもやするだけなんだけどね?あ、はいこれお茶ね」

そういってハルは俺の前に湯呑みを置いた。コーラ買いに行ったんじゃないかって?安心しろ、コンビニの袋の中に大量に入ってるぞ。

「ありがとうな」

俺は湯呑みに口をつけ、一気に中身を流し込んだ。そして盛大に吐き出す。

「うわ、ソラ汚〜い!やめてよぉ僕の部屋なのに」

「お前…お前…なんて渋いお茶を汲んできたんだ、何茶だよこれぇ…!!」

ハルは水を求めて悶える俺を見て笑っている。手にはしっかりとタオルが握られていて、俺のぶちまけた渋茶をシミになる前に拭いていた。やっぱりこいつ、怒ってたんじゃないか。

「あ〜面白いわ〜…はい、これお水ね」

「…次は普通だろうな?」

「ふふ、流石に普通のだよ〜」

はい、と手渡されたのは天然水のペットボトル。試しに蓋を開けてみたが、新品特有のあの手応えがあった。色…無色透明、匂い…無し。これは大丈夫そうだ。そう思い、俺はそれを一気に流し込む。

「…あ、そういえばさ。例の僕のレポート見たなら分かっちゃったと思うけど、君の予想通り僕、宇宙人なんだ」

そして俺はまたしても吹き出した。流石に予想していなかったのか、ハルは目を丸くして、そしてワンテンポ遅れてアワアワとタオルで濡れた床を拭き始めた。

「ちょっとソラ!勘弁してよね!!僕何か変な事言った!?」

「あ、あぁ…ごめん。…で、さっきお前なんて言ったん?」

ハルがあまりにも普通というような顔をしているので、もしかしたら俺の聞き間違えかもしれないという考えが浮かんできた。だとしたら、ハルにとっては普通に会話していたら友人が突然吹き出した訳だからそりゃ驚きもするはず。

「え…いや、だから僕エイリアンなんだよ〜って」

…どうやら聞き間違えでは無かったようだ。そんな今日の天気を言うみたいな勢いで言うかお前。まじかよ。

「…なんで自ら言ったん?」

「え、いや…流石にあれ見てたらバレたかな〜聞かれるの面倒だしむしろ言って協力してもらうか〜的な?」

「協力…何すんねん…」

正直、異星人の協力とか嫌な予感しかしない。何言われるか分からないし、俺の行動の制限になる可能性のが高いし。

「簡単なことだから安心してよぉ。あのね、僕の"家族"がみ〜んなこの星に移民する為に、最適の地を探したいんだ。その為に、僕と一緒にチキュウについて調べて欲しいの」

「…それだけ?」

「うん、それだけ。調べたこととか大学のレポートに活用できるし、君にとって決して都合の悪いことじゃないと思うけど…」

確かに、ハルの言う通りである。むしろ、これは俺にとっては好都合だ。俺も、この星についての情報は欲しい。情報が欲しいなら、一時的協力をして情報収集を行う方が確かに効率が良い。自分に都合が悪くなれば、切り捨てればいいんだし。

「…分かった、協力しよう」

「やったぁ、君ならそう言ってくれると思ったよ。改めて、これからよろしくね、ソラ」

ハルは相変わらずの笑みを浮かべたまま、すっと手を差し出してきた。

「…あぁ、こちらこそよろしくな、ハル」

俺はその手をがっしりと掴んだ。漸くこいつの正体を知れたのだ、きっとこれからはもっと動きやすくなる。俺は思わず口角を上げた。



「…こちら、エージェントAH_PAM86、通称パムです。本部、応答願います」

窓から月明かりが差し込んでいた。暗い部屋の中で、電気を付けることも無く僕は通信機の前に座っていた。通信機には、桜のような星のような、よく分からない本部のマークが表示されている。

「こちら本部、定時連絡ご苦労。前回から何か変化はあったか?」

「例の彼ですが、わざと偽の文書を見るように仕向け、僕の方から自分は異星人だと明かしました。僕ではなく彼の目的を、さも自分も同じ目的で来てるのだと偽るためにそっくりそのまま伝えたところ、協力体制をとることに成功。引き続き様子を見続け、計画を実行しようとしたところを捕縛する予定です」

「了解した。お前は第三組織一の優秀なエージェントだ、期待しているぞ。忘れるなよ、宇宙の治安を守ることが我々『宇宙警察』の最重要任務だ。その為に、平和を乱すやつに情けはかけるな。例えそれが、一時の親友だったとしてもだ」

「…分かっていますよ、大丈夫です。必ずや本任務も達成してみせます」

「幸運を祈るぞ、期待を裏切ってくれるなよ、エージェント・パム」

ブツン、と機械特有の音を立てて通信機は電源を落とした。暗くなった画面には、未だに人の面を被ったままの僕の姿が見える。確かこの容姿は、数百年前に本部に流れ着いた人間の死体を元にしてるんだとか。まぁそんなことどうでもいいが。

「はぁ〜別に移民くらい粛清対象にしなくてもいいと思うんだけどな」

僕は煙草に火を付け、大きく息を吸いそして吐いた。醜い同族争いを繰り広げる人間は嫌いだが、彼らの生み出したこの煙草とかいう毒物はそうそう嫌いではない。

「…あ、たしかアイツは嫌煙家だったっけかな」

それならば消臭しなければ…と考えたところで、ふと、自分がターゲットに対して無意識に気遣いしてしまっていることに気がついた。最終的には宇宙警察本部に連行し、粛清しなくてはいけない存在だ。思い入れを強めてしまうのは危険すぎる。

「忘れよう…僕らしくもない」

僕は窓を開け、夜空を見上げた。美しい星空には、大きなまん丸の月が浮かんでいた。僕の母星は、一体どこだろうか。もう何年帰っていないのだろうか。脳裏に、故郷で眠る父母の存在が浮かぶ。二人とも厳格な人であったが、何だかんだで僕にかなりの愛情を注いで育ててくれたと他人伝えに聞いた。幼い頃からエージェントとして活動してきたから、最早今、彼らの墓がどうなっているのかすら分からない。

「…きっと僕は、家族の為に働く彼が羨ましいんだろうな」

ふぅ…とため息を着けば、有害物質を含んだ煙がもわっと溢れた。この煙に合わせて、胸のもやもやも飛んで行ってしまえばいいのに。僕はそう思ったが、どれだけ煙を吐き出しても、胸のもやもやが晴れることは無かった。


ここまで読んでくださりありがとうございます。本作のコンセプトは「シリアスを添えたほのぼのコメディ」です。コメディといっても爆笑出来るようなものではなく、思わずクスリとしてしまうようなものを目指しました。SF×コメディというあまり書いたことの無いジャンルへの挑戦ですので、少し至らぬ所もあるかもしれません。しかしこの作品を読んで、少しでも楽しんで頂けたのならば私としてはこれほど嬉しいことはありません…。本作は連載予定ですが、連載ペースは不定期になります。マイペースに連載していくと思いますので、どうかご了承ください。

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