表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/140

楽園に繋がる迷宮 07 抗うな、捕まれ

 ジュリーは両手を挙げながら数歩、人造人間に近寄る。

 三人もジュリーに倣って後に続く。

 人造人間は互いに顔を見合わせると、二体が両開きの扉を開いた。

 リーダー格なのだろうか、中央にいた人造人間が冒険者を指差した後に扉の向こうを指差す。

 そこは暗闇の広がる通路のようだった。

 どうも彼らは人間と意思の疎通が出来るようだ。


「チンパンジーより知能がありそうですね」


 ゼンが隣を歩くサスケにようやく聞こえるほどの小声で呟く。


「不用意な発言は控えた方がよかろうと思うでござる。どんなスーパー感覚センスを持っているか知れぬでござろう?」


「おっと、そうですね」


 冒険者たちは、人造人間に促されるままに奥の通路を進む。

 先導するリーダー格は無防備に前を歩くが、彼らの後ろをついて歩く二体の強い気配が不意を衝こうと言う気を起こさせない。

 もっとも比較的広いとはいえ、通路で馬鹿力の持ち主であることを知っている人造人間と戦闘をするほどこちらも馬鹿ではない。

 何より彼らははなから抵抗せずに捕まる気でいたのだ。

 やがて突き当たりに扉が見えてきた。

 一貫して中世ファンタジー的リアリティで造形されてきたこれまでの内装とは違う、超近代的なその扉は先頭を行く人造人間に反応して自動的に開く。

 その先には眩しい空間があり、現実世界が広がっていた。

 そこで彼らは更に二体の人造人間に囲まれて、ジェスチャーで武装解除させられる。

 武器や鎧はひとまとめにされて二体の人造人間によって原寸のジュラルミンケースの一つに放り込まれた。

 四人はそれを無言で見つめる。

 一連の様子を見るにつけ、人造人間の知能は相当に高いと見て間違いない。

 その後、用意された二つのジュラルミンケースに入ることを要求される。

 ここで人造人間はなぜか三対一に別れるように指示してきた。

 ケース内は三つの空間に間仕切られており、どうやら一つのケースを埋めてから次のケースを埋めていくと言う発想であるようだ。


「俺が一人になるよ」


 ロムはそう言って人造人間の指差す方へ歩いて行った。

 そこは低反発素材で間仕切られており、シートベルトのようなものがあるだけのいたって簡素な空間だ。

 指示通りに仰向けに寝そべると、不器用な手つきで股下、腰、肩を固定するように取り回したベルトを繋いでいく。


「これきつくない?」


 ちょっとした軽口は独り言に毛の生えた程度のものだったのだが、人造人間はロムの顔を覗き込んでニヤリと笑みを浮かべた。


(こいつ、人の言葉を理解してやがる)


 背筋に寒いものを感じつつも彼は努めてお気楽を装って大仰にため息をついてみせると、人造人間が最後にポンポンと肩を叩いて去って行った。

 閉じられたケースの中でロムは、目を閉じ思考の底に沈んでいく。

 ここまでで人に出会ったのは受付の女性従業員二人だけ。

 彼女たちは十中八九事件には無関係だろう。

 つまり、組織は身バレを極端に警戒していると言うことになる。

 だから知能の高い人造人間をわざわざ造り出して使役しているのだ。


(それにしても……)


 理論的・技術的には可能とは言われていた遺伝子操作による合成生物キメラだが、類人猿を超える知的生命体を生み出すところまで研究していたとは驚きである。

 しかし、なぜそんなことを研究し実験をするのか?


「軍事研究?」


 その疑問は三人の会話の中にも出ていた。


「違法承知で民間企業が、でござるか?」


「まさか、これは確実に国家が絡んでいますよ」


「前にもそんな陰謀論語ってたな」


「陰謀論で片付けないでください」


 暗闇の中でゼンが憤慨する。


「しかし、日本にそんな蛮勇を持った政治家などいなかろう」


「主導しているのは日本じゃないでしょうね」


「だって……」


 反論しようとしたジュリーを遮ってゼンは自説を滔々と語り始めた。


 曰く、日本に話を持ってきたのは十中八九我が国の最大同盟国であろう。

 しかし、その国単独の発案でもないだろう。

 なぜ自国で実験しないかといえば二重三重に国際法上の問題を抱えており、致命的スキャンダルとして国を傾ける可能性があるからだ。


「その点日本は……」


 熱く語っていたゼンに突然猛烈な眠気が襲ってきた。


(これは……)


 薄れゆく意識の奥で麻酔ガスと言う単語がかすかに浮かび意識とともに消えてゆく。

 数分後、三つのジュラルミンケースは作業着姿の男たちによって現金輸送車のような車の荷台に積み込まれ、釧路へと運ばれて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ