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楽園のヒロイン 08 彼我の戦闘力

 北門に着くとすでに戦闘が始まっていた。

 門を開き外へ出る前に救護班の一人に声をかける。


「今日はオークばかり二十七体、一分くらい前に戦闘が始まったばかりです」


「多いな」


「増援は全員来てます」


 増援の他にヒロノブが呼び出したシュウトら新規組六人もいる。

 つまり、彼らが最後だったということだ。


「オレたちはどうすればいい?」


 イサミがクロに訊ねる。


「今日は見ているだけでいい。そこの階段で門の上に登ることもできる」


 と、鞘から抜いた刀で指し示しすと門の向こうへ走り出した。

 レイナとヒビキもそれにつづく。


「皆さんはどこで見物しますか?」


 タニに訊ねられたイサミは自分が呼びにやった六人を見回す。

 彼らはオドオドとしながら言い訳などしつつ門の上へ登っていく。

 ヒロノブとシュウトは門の外へ出ることを主張した。


「なら、これを持っていくことだな」


 タニに差し出されたのは初日に押収されていた彼らの武器だった。


「自分の身は自分で守る必要があるからな」


 受け取った三人が門をくぐると、目の前に広がっていたのは本物の戦場であった。

 イサミがカチ込んだ抗争現場以上の凄惨さで、ましてやシュウトが経験していた街の不良たちの喧嘩などまさに子供の喧嘩でしかないことが実感できた。

 自警団は基本三人一組でオークにあたっている。

 二人が左右からできる限り怪我を負わないように牽制しながら攻め立てている。

 もう一人は乱戦で襲われないように後ろを守るっているようだった。

 それをローテーションで役割分担しているところを見ると、単にサポートというよりは休憩も兼ねているようだ。

 その戦闘を見るに一対一でも勝てなくはなさそうだが、豚に人の手足をつけたような不格好なオークは百二、三十センチと小柄ながら棍棒を持っていて、恐怖を知らないのか怪我も恐れずゴリゴリと攻め立てて来る。

 戦い慣れていないものにはなかなかおぞましい相手だ。

 そんなオークを逆に二体、三体と相手にしている男たちがいる。

 その中にヒビキやレイナを確認して、イサミは先ほどの裁判でのクロやタニの言いたいことがよく理解できた。

 彼女たちがいなければ他の戦士が三人一組での戦闘はできない。

 今でさえ、彼女たち以外の組はオークに殴られたりして少なからずダメージを受けている。

 一対一ではこれほど優位に戦闘を進められないだろう。

 戦闘力と人数を考えれば最終的に敗けはしないだろうが、下手をすると犠牲者が出かねない。

 相手の勢力規模が判らない戦いでこちらに犠牲者は出したくない。

 クロたちの言いたいことが良く判る戦場だ。

 こんなのが十日と開けずに襲って来るなど、自分たちの抗争とは規模も質も違う。

 これはまさに戦争だった。

 イサミは改めてその単独で戦っている男たちを見ていく。

 一人はクロだ。

 所作が綺麗で一見して剣術でも習っていたことが見て取れる。

 自警団長というのもその実力で選ばれているだろうことは一目瞭然だった。

 次に目を惹いたのはヒビキだった。

 彼女はイサミでも知っているアクション女優ではあったが、実際に戦闘センスも高いようで三節棍を自在に操り敵を寄せ付けない。

 三人目はコーと呼ばれていた青年だ。

 どこにあのメーター級の幅広い剣身を持つ両手持ち剣を振り回すりょりょくがあるのかと思える細身の体で、こちらもオークと切り結ぶことなく一刀で斬り倒していく。

 目をひいたのがもう一人、レイナは対照的にヒラリヒラリと相手の攻撃をかわしながら、細身の剣(レイピア)で相手を刺していく。

 攻撃力という点では三人とは比較にならないが、イサミをして勝てる気がしないという点で引けをとらない。

 あとは一体ずつ受け持ちながらも互いに協力している雰囲気のある男女ネバルとアカリサッカー選手(シュート)など四、五人の実力者がいて、いずれも今のイサミでは一対一タイマンで勝てそうにない。


(結局、オレたちが普段堅気の連中に怖がられてるってのも報復を恐れてってことか? 喧嘩の強さってのも雰囲気と場数によるものってことだな。経験値が違いすぎる)


 彼は自分の周りが安全なのを確かめた上で一緒にいる二人を見、上から見下ろしている他の連中を見上げて見た。

 皆一様に震えているようだ。

 これを自分たちもやらなければならないのかという恐怖が見て取れた。

 ヒロノブでさえその目に恐怖の色が浮かんでいた。

 ただ、シュウトだけは違うようだ。

 彼の目には別種のたかぶりが宿っている。

 狂気のだった。


(こいつはヤバイタイプだ)


 その道で何年も生きているイサミをして背筋を凍らせる狂気である。

 いや、この手の狂気に幾度か出会っている。 そんなイサミだから感じられるものであったかもしれない。

 そして、その狂気の視線の先にいたのは、その視線に気づいたのか、こちらを振り向いた「レイナ」であった。

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