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楽園のヒロイン 06 シュウトの処遇と不穏な気配

 円卓を囲んでいる六人はそれぞれに苦い表情を浮かべていた。

 議題はもちろんシュウトの処遇についてである。

 夕番を終えたレイナがクロに話を持ち込んで開かれたこの会議には、クロとレイナの他にコーとヒビキ、いずれも街中で武器を所持することが許されているメンバーだ。

 それに新しく来たメンバーの中からシュウトと関係のなかった東北訛りの体育会系青年ケンジ、シュウトの知り合いからは角ばった顔立ちで筋肉質の男イサミが呼ばれていた。

 日付はとうに変わっている。

 その日までの経緯と、仮の措置としてシュウトに北門の見張り用仮眠室で夜勤番と一緒に寝泊まりさせていることまでが説明されている。


「武本さんのとこで暮らしちゃダメだったんですか?」


 ケンジが緊張した面持ちで発言する。

 無理もない。

 目の前に居並んでいるのはウルトラマンの主役で人気の俳優(あさ)こう黒川くろかわりく、今世紀最強のアクション女優と言われるひびすずであり、話題に出ているのはサッカー元日本代表だった武本たけもとしゅうである。

 ヒビキの隣にいる少女も彼女に見劣りしない輝きを持っている。

 これにミクロン番組で一躍人気者になったもちねばると、共演していた女子プロ野球選手()とう亜里香ありかまでいると言うのだ。

 そして隣には明らかにその筋の男。

 しがない新入社員だった一般人が、なんの因果でこんな状況に置かれているのかと頭を抱えたくなるのも仕方がない。


「我々は安全のために二人を一緒にすべきじゃないと判断しました」


「賢明だ。下手したら怪我だけじゃ済まなくなる」


 そう発言したのはイサミ。

 クロがシュウトの知り合いの中から彼を選んだのは、初日の様子からもっとも話の通じそうな人間と見たからである。

 一見して堅気ではないのはレイナにも判った。

 しかし、ほかの連中がチンピラの域を出ていない中で、彼だけは別の雰囲気を醸し出していた。

 彼らと違ってミクロンダンジョンなどにアタックするようには見えない。

 なのに彼はここにいる。

 理由は推し量れないが、彼がメンバーにならなければいけない事情があったのだろう。


「身内の恥だからここだけの話にしてもらいたいんだが……遠藤えんどうしゅう、あいつがうちのもんと東京のダンジョンで行方不明になったってことで追ってきたのがオレたちのパーティだ。どうも先行した奴らは何をしでかすか判らなくてな、オレと組んできたのもオレの直接の舎弟じゃあないんで正直オレでどこまで抑えられるか判らねぇ。だが、組のメンツってのがある。できる限り協力しよう」


「よろしく」


 クロとイサミの視線が交差する。

 こちらも肚の座りようは尋常じゃない。


「で? あんたはどうしたい?」


「しばらくは怪我の具合がひどいショウゴくんの看病ということでシュウトくんとヒロノブくんを空いている家に住まわせようと思っている」


 即座にコーが反対した。

 イサミの見立てでは内々で話し合われているはずの案件だ。

 ここでは六人しか集まっていないが内政組が一人もいない。

 街の現状はあらまし聞いた。

 絶対的に不足している防衛戦力を維持することがこの街の生命線であり、街の代表が自警団のトップであるクロに任されていることから考えて、彼の発言力に多少の優位性はあるだろうとしても街中の運営について内政を執る人物が別に存在しているはずだ。

 基本、配給と自足で賄っている世界に救護と職工で専属従事者がいる。

 そこには班長と親方がいると説明を受けている。

 つまり少なくともどちらかとは(怪我人ショウゴが関連していることから少なくとも救護班長とは)事前に了解を取り付けているはずだった。

 にも関わらずコーは反対の意思を表明している。


「特別扱いは街の秩序を乱します。ルールは守るべきだと思います」


「ルールの中で秩序を乱してるから特別な処置が必要なんじゃない」


 反論したのはヒビキである。


「ならば罪には罰じゃないのか?」


「牢にでも閉じ込めておけって?」


 街に人が来てから一度も使われていないが、確かにここには地下牢ダンジョンもある。


「何か問題でも?」


「人手不足なのよ」


「協力の意思がないヤツが何をしてくれるっていうんだ」


「最初から戦闘に協力的な人なんてほとんどいなかったでしょ」


 むぐとコーは言葉を飲み込んだ。

 実際コーも持ち前の正義感から即座に協力は申し出たが、実際初陣では足手まといと言っていいほど何もできなかった。


「コー。これは治安の維持という観点からの措置なんだ。彼が、いや、小さないざこざも含めると彼らが街に与えている影響は放っておくわけにいかない」


「でもですよ、クロさん」


「コーちゃんは融通が利かなすぎ」


「ここでちゃん付けすんな」


 コーはむすっと腕を組むと、不承不承と同意の意思を示した。


「クロさん、戦闘には参加させるんですか?」


「ん? んーん……まぁ、人手不足は深刻だからな」


 レイナに質問され、ちらりとケンジに視線を向けると、彼はビクリと体を震わせた。

 実際、怪我の程度にもよるが軍役はほとんど強制に近いものがある。

 男も女も関係ない。

 例外は医療知識と技術がある人間が救護班に配属されるくらいで、職工に専従している者はほとんどが戦闘力を失っている。


「班割りは後日改めて考える。その時は協力をお願いします」


 クロはイサミに頭を下げた。


「努力しましょう」






 レイナとヒビキが我が家に戻ったのは二時を回った辺りだったろう。

 暖炉には火が残っている。

 リビングにマユの姿はない。

 おそらく自室で寝ているのだろうと二人はまず薪をべて冷えかけた部屋を暖めてから部屋着に着替えようとして、その異変に気が付いた。

 主戦力である二人は戦闘や会合などでよく呼び出しを受ける。

 夜遅くに帰ってくることも多く、いつもなら明かりが付いているはずだった。

 たまたまかと思おうとした矢先、二階からギシリと音がしたのだ。

 二人はさっと互いに視線だけで意思を確認するとレイナは腰に佩いたレイピアを抜き、ヒビキは三節棍を取り出す。

 共に大きな音の出る金属製の鎧は身につけていない。

 なるべく音を立てず階段を登り、音の出所を確認するため耳をすます。

 ヒビキの三節棍を握る手が震える。

 それは恐怖によるものではない。

 彼女はレイナに来るなとひと睨み利かせると修羅のようにマユの部屋に突入した。

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