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始まりの迷宮篇 04 その存在は思春期の少年にとっていささか刺激が強い

「ようこそ、冒険者の皆様!」


 五人の冒険者は受付のコンパニオンに出迎えられた。

 弘武たちの応対にあたった女性は弘武の印象では二十代半ばくらい。

 露出度の極めて高いビキニアーマーは革の鎧を模していて前腕と脛もプロテクターが覆っている。

 亜麻色のショートボブで北米先住民風のヘアバンドをしており、大きめの瞳はカラーコンタクトだろうか? 髪色に揃えてあるようだ。


「お客様情報作成にお時間をいただいている間に当社および本製品のご説明をさせていただきます」


 受付テーブルに用意された用紙にパーティメンバーの必要事項を記入する間、そのコンパニオンが話し始める。

 それは一見参加者に説明しているようにみせて集まった見学者に対して行われているのだろう、マイクを通してよどみなくアナウンスされていた。


「当社ジーンクリエイティブはミクロンシステムに無限の可能性を見出し、一昨年いっさくねん五月に起業いたしましたベンチャー企業です。今回ゲーム事業に参入したのは研究成果を広く知っていただくためでございます。テクノロジーの進歩により処理速度が初期モデル比で五十%向上していながらダウンサイジングされたミクロンシステムはご覧の通りのロッカーサイズ。この本体システムと独自アルゴリズムにより高速化したDNA情報解析プログラムで、従来DNA解析だけで半日かかっていた所要時間を一人あたりわずか五分に短縮。これに複数の一流大学病院と共同研究開発したバイタルデータスキャナーでの身体データ作成に五分。基礎データ作成をわずか十分で済ますことができるようになりました。これにより従来のゲームではプレイするために事前に予約しなければならなかったミクロンダンジョンが当日フラっと訪れて遊びたいなと思ったその場で遊べるようになります」


 何も見ないで行われるその説明はアナウンサーや俳優・声優としての訓練を積んでいるのか、よどみなく心地よい。


「ダンジョン内のトラップ・エンカウンターも自動制御されておりますのでシステムの処理能力から最大六パーティ三十人までの複数パーティ同時プレイも可能です。なお、今回は安全面を考慮して同時プレイは三パーティに制限させていただいております。さらに初回プレイ時に作成したDNA情報をICチップに記録したカードを発行いたしますのでゲームのたびに採血という無駄と苦痛を省けます。もちろんプレイ後は個人情報保護の観点からスキャンデータなどをホストコンピューターには残しません」


 記入が終わった五人は、説明の続くコンパニオンの後に続いてミクロンシステムの前を横切る。

 さながらガイドに連れられて歩く観光客のようだ。


「ミクロンシステムについてはご参加頂いている皆様ならご存知かと思いますが、DNA情報とスキャンデータを利用した有機生命体縮小復元システムなので、従来はスキャンおよび縮小復元の際は何も身につけずに行われていましたが、技術研究の成果である新開発の縮小復元システムにより生物由来の衣服であれば同時縮小が可能になりました。特に女性プレーヤーには朗報ですね」


 五つ並んだバイタルスキャナーのひとつの中で、服を脱いでスキャンを受けていた弘武はチラリと空港の手荷物検査機のような持ち物スキャナに目を向ける。

 参加するとは思っていなかったため、私服が何で出来ているのかなど考えてもいなかった。

 少し不安な気持ちで服を着なおし、外に出るとすでに四人は待っていた。

 ほぼ同時に縮小復元装置の上にあるランプがひとつ、またひとつ点灯しだした。


「一組リタイアしたようですね」


 装置から出てくるこれもまたコスプレ衣装だろうファンタジックな服装の青年たちに弘武たちを案内していたコンパニオンが「お疲れ様でした」と声をかける。

 そのパーティはもう一人が担当していたのだろう、腰まで届きそうな檸檬レモン色でゆるくウェーブした髪の少々太めで豊満なコンパニオンが受付スペースへと誘導していった。

 彼らが出ていった後の装置内を点検確認したショートボブのコンパニオンが弘武たちを振り返り、最上級の営業スマイルでこういった。


「お待たせいたしました。それでは当社ダンジョンをお楽しみください」


 言いながら発行されたばかりのDNA情報を記録したICチップ付きカードを手渡す。


「じゃあな、ロム」


 一番奥、端の装置の前に緊張した面持ちで立ちつくした弘武を早速ニックネームで呼んだのは隣の珠木理ジュリーである。

 彼らはミクロンダンジョンの経験があるのだろう、何のちゅうちょもなく装置の中に入っていった。

 弘武は少し大きく息を吸い、ゆっくり吐き出すとコンパニオンに声をかけた。


「あ、お姉さん」


「何でしょう?」


「俺、初めてなんですけど……」


 言いながらそれまでまじまじとは見ていなかった年上の女性と目が合ってしまい、思わず視線を下にらしてしまう。

 そこには極めて露出度の高いビキニ型の革の胸当てに収まっている胸があった。

 控えめながら胸当てによって寄せて上げられた存在感が思春期の少年の目をく。

 慌てて今度は改めてその女性の顔に視線を戻す。

 こうなると視線を外すことができなくなる。

 そんな少年の心の動きを知ってか知らずか、板についている営業スマイルでマニュアル通りに優しく語りかけてくれた。


「ご安心ください。縮小中に正面モニターにゲームの説明が音声アナウンスとともに表示されますし、ダンジョンアタック前に係りの者が再度ご説明いたします」


 縮小復元装置の中に弘武が入るとモニタが自動点灯し音声が流れてきた。


『ようこそ! ミクロンダンジョンの世界へ』


 音の方を見ると待っていたように音声が続く。


『一番スロットにDNAカードを挿入してください』


 画面にはスロットが映し出され、どこにどの向きで挿入するか判りやすくアニメーション表示されている。

 モニタの右側には画面と同じようにスロットが横三列縦二段に並んでいて番号が振られている。

 彼は音声に従い一番と書かれているランプが点滅しているスロットにカードを挿入する。

 画面はカード情報の認識に反応し人体モデルと「こちらを向いてまっすぐ立ってください」の文字を表示する。


『事前スキャンデータと現在状態とのマッチングを行いますのでモニターの正面に立ち、直立姿勢でお待ちください』


 言われた通りにすると前後の壁面から光線が照射され彼の体を上から下まで降りてゆく。

 それが終わるとまた音声ガイドが流れる。


『縮小プロセス終了まで十分ほどかかります。お待ちいただく間、ルール説明ビデオをご覧ください』


 画面が変わりチュートリアルが始まった。


『ようこそミクロンダンジョンへ。これから……』


 その映像は非常にわかりやすく実にエンターテイメント性に富む飽きさせない演出で何度も見たくなるようなプロモーションビデオといった出来だった。

 その面白さに真剣に見入っているといつの間にか縮小プロセスが終了していたらしい。


『──それではそろそろ縮小プロセスも完了していることでしょう。小さな冒険世界をお楽しみください』


 高い位置にあるモニタを見上げていた頭上からBGMとともに降ってくる音声にようやく我に返った弘武は、何もかもが大きくなった世界を初めて見回した。

 無意識に脱いでいたらしいベルトと右の靴。

 左の靴に突っ込んだ状態だった左足を抜きながら、ゆるくてずり落ちそうなズボンを抑える。


「俺、意外と天然素材着てたんだな」


 それから改めて部屋を見回す。

 モニタを正面に見て右手側が入り口。

 今や体感二十メートルの巨大なドアだ。

 左側を見るとこれもまた五メートルほど先にドアがある。

 今の彼のサイズに合わせた小さなドアだ。

 ご丁寧にドアの上には誘導灯が取り付けられている。

 左手でズボンを抑えながら出口へ向かった弘武はドアノブに手をかけフッと一息吐き出すと、意を決してドアを開ける。


「来たな」


 開けられた扉に最初に気づいたのはジュリーだった。

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