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崩壊からの帰還 03 いざ! フィールドアドベンチャー

「まずは位置関係を確認して帰還ルートを決めましょう」


「最短ルートじゃダメなのか?」


 ジュリーが問う。


「地図もなく、周りの景色が大きく違って見えるのにどの道が最短ルートか確認するのは難しいと思うけど……」


 ロムはジュリーの意見に否定的見解を提示する。

 しかし、ゼンの提案には別の観点から批判的なようだ。


「かといって明るい幹線道路沿いは誰かに見つかる危険性が高いんですよね」


「だが一度は越えねばならぬのも事実でござろう」


 「下町の迷宮亭」に戻るためにはどうしても主要幹線道路を一つ越えなければならない。


「少し遠回りになりますが、川沿いを行くのが安全なのですが……」


「こっから飯も食わずにいつ野生動物に襲われるか、人に見つかるかっていう危険を冒して『旅』をしなきゃならないんだぜ。そんな道程が倍になるような遠回りできないよ」


「倍になるのはオレも遠慮したいな」


 そんな話をしていると、ガラガラと瓦礫が崩れる音と消防隊員のものらしい怒声が聞こえてきた。


「考えていても埒があかぬ、いつまでもここにいるわけにもいかぬでござるぞ」


「ですね。仕方ありません。いつもの隊列で出発しましょう」


 四人は事故現場を照らす照明が照度を増していくのを横目に移動を開始する。

 「帰らずの地下迷宮」のあったテナントビルは狭い路地に面していた。

 野次馬は事故現場に意識が集中している。

 今ならばまだここから逃げ出すことは造作もないだろう。

 実際、かなり大胆に路地を移動した彼らに目を止めた人はいなかった。

 路地を抜け出し広い道に出た四人は朝の記憶を頼りに来た道を戻る。

 もちろん道ゆく人目を避けながら、植え込みやスタンド看板の陰に隠れながらの移動だ。

 この辺りは事務所が入った雑居ビルなどが多く、土曜の夕方ということもあり人通りはそれほど多くなかったが誰も通らないというほどでもない。

 それでも街灯による明かりが暗がりを作り出し、そこに紛れることで順調に帰り道を進む。

 冒険者は一時間ほどでその通りを踏破し最初の難関、交差点の手前までたどり着いた。


「思った以上に大変だな」


 最初に根をあげたのはジュリーだった。

 他のメンバーと違い、鎧を身につけている分疲労度が高いのだ。

 秋も深まった季節というのも金属鎧を身にまとっている彼には堪える原因だったろう。


「鎧を脱いだらいいんじゃないのか?」


「戦闘になったら大変だろう?」


「鎧着てても武器がないんじゃ戦いにならないだろうに」


「オレは持ってる」


 ジュリーはベルトに吊るしているショートソードに手を当て、ロムに言い返した。

 しかし、実際問題この状況で出会う可能性があるとすればドブネズミやクマネズミ、ゴキブリの類に違いない。

 そんな相手になまくらのショートソードが気休め以上の役に立つとも思えない。


「帰還することを最優先に考えましょう。ジュリー、この後夜も更ければ金属鎧など体温と体力を奪う存在でしかなくなります。愛着もあるでしょうが脱ぎ捨てていきませんか?」


「……だな」


 ジュリーはゼンとロムに手伝ってもらい鎧を脱いだ。


「さて、改めて……どうやって渡ろうか」


 首を回したり肩を回したりと体をほぐしながらジュリーが言う。

 ここからは目の前の交差点を渡らなければ先に進めないのだ。

 人通りはともかく車の交通量はそれなりにある。


「タイミングを見計らってダッシュ以外にないんじゃないの?」


 交差しているのはセンターラインのある片道一車線の道路だ。

 縮小された彼らの目測で百メートルはない。

 実際にはあって八メートルと言うところだろうか?

 どんなに足が遅くとも普通に走れるのであれば二十秒もかからない。


「そのタイミングが難しいのですよねぇ……」


 縮小されているとはいえ十分の一サイズ。 背の低いゼンでも十六センチ、サスケに至っては十八センチを超えている。

 そんな体で横断歩道の手前、点字ブロックの上で待っていると言うわけにもいかないだろうと言うのがゼンの意見だ。


「でもここからってわけにはいかないだろう? せめてガードレールの所までは行っとこうぜ」


「ここはまだ歩行者に見つかるリスクは低かろう。今注意すべきは車でござる」


「車通りだって途切れることがあるし、ここは何とかなるでしょ」


 三人に説得される形で、ゼンは渋々従うことになる。

 ヘッドライトに照らされないように交差点のガードレールまでスルスルと移動し、三度青信号をやり過ごすとそのチャンスは来た。

 車も人の通りも途切れ、赤信号が青に変わる。


「今だ!」


 ロムの合図に合わせフライング気味に駆け出した四人は、滑る白線の上に出来るだけ乗らないように横断歩道を走り抜ける。

 その際遠くにヘッドライトを確認したが、運転手には目撃されていないだろう。

 仮に目撃されていたとしても小動物の類だと思われていると願うのみだ。

 横断歩道を渡りきり、ガードレールにもたれかかるようにゼンが息荒く喘いでいる。


「せめて、これっぽっちで息が上がらない程度には走り込みをしなきゃダメですね……」


 走っているときに見たヘッドライトの車だろう、街の電気屋の軽自動車が何事もなかったように通り抜けていく。

 あの様子なら冒険者たちを気に留めたと言うことはないだろう。


「さて、先へ進もう」

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