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崩壊からの帰還 02 冒険者は再会を果たす

(あれは……)


 と、目をこらすとそれは彼の想定通りゼンの杖の明かりだった。

 可搬性を追求するため小さな電池一つで連続十二時間以上の持続時間を追求するため光量は小さく、日が傾いているとはいえまだ明るい外界ではよほど注意していないと気づかないかもしれないが、このまま暗くなると流石に光源は人の目につく。

 辺りには警察もいるのでここで発見されるのは最悪だ。

 そんな事はゼンも承知のはずである。

 にも関わらず消していないという事は気が動転しているか、あたりの明るさにつけているのを忘れているかのどちらかだろう。

 彼はゼンに知らせなければとその手段を考える。

 声を出すなど論外だが、まずこちらに気づいてもらわなければならない。

 懐をまさぐってみたが地図と筆記具に撒菱まきびしないがあるだけだ。

 人造人間と戦っていた時に持っていた刀と帯の後ろに挿していた短刀も無くしていた。


(撒菱を投げても苦無を投げてもこのサイズでは届かなかろうし、変に音を立てて人に見つかっても困る……さて、どうしたものか?)


 サスケは再び野次馬と消防士たちの方を見る。

 ゼンとジュリーのいる場所は野次馬の反対方向なので、そちらへ出ても彼自身は死角にに入ることができるそうだ。

 問題は事故現場で行き来する消防隊員や救急隊員の方だろう。

 灰色のコンクリートの瓦礫から出るには黒の忍者装束は目立ってしまいそうだが、今は人の目を盗んで這い出るより他にはない。


(忍びの腕の見せ所でござる)


 サスケは覆面の下で右の口角だけを上げ、天井となっているコンクリート片を持ち上げてみようと試みる。

 瓦礫は思った以上に重く持ち上げられそうになかったが、力の具合によってわずかに野次馬側に傾いた。


(崩れて潰されたら万事休す。だが、うまくすれば…)


 彼はコンクリート片を支えている柱がわりの瓦礫の位置を確認すると持ち上げる位置を調整する。

 やがて彼の思惑通り、野次馬と救急隊から隠れられる物陰を作る事に成功すると、ゼンたちに向かって大きく身体を動かしてみせる。

 数分そうしていただろうか、ようやくゼンが彼のことを見つけてくれると今度は杖の明かりを消すようにジェスチャーで指示を出す。






「あれは……サスケです!」


「何!? あ、本当だ」


 ゼンが見つけたと判ると、サスケは何かを伝えるべく手をにぎにぎして見せたり胸の前でバツを作ったりの仕草をしてくる。


「何かを伝えようとしていますね」


「ジェスチャーゲームは得意だぜ」


 そう言ったジュリーは野次馬に対するリスクを避けつつサスケにジェスチャーを送る。

 なるほど得意というだけあるようで、サスケはジェスチャーをやり直し始めた。


「……パカパカ? 何かがダメだってことだな? …………目がどうしたって? お日様が沈むと……目立つって何がだ? パカパカじゃねーな、ピカピカ……かな?」


 そこまで様子を見ていたゼンはハッと気づいて急いで杖を確認すると、案の定杖の明かりがついていた。

 明かりを消すとサスケから大きな丸が送られてきた。

 それから彼は自分の体に瓦礫から粉や埃をなすりつけ、手近な瓦礫を背負ってゆっくりこちらに近づいて来る。

 時折、ヤドカリよろしくよりよさげな瓦礫に持ち替えて見事に合流を果たした。


「見事な木遁もくとんの術でしたね」


「オタク知識は役に立つでごさるよ」


「あとはロムだけだな」


「彼のことです。我々がこうして無事なのですからどこかに避難していると思われますが、さて……」


 サスケもゼンもかなり注意深くあたりを観察している。

 それでも見つからないのだからよほど上手に隠れているのか、もしやと不安もよぎるがその考えはあえて深く沈めておく。


「野次馬には近づかないよな」


 ジュリーが言う。

 多分隠れている場所にあたりをつけようと言うのだろう。


「まだ崩壊の危険があるトラック周りも避けているでしょうね」


「警察や消防の動線も当然考慮しているはずでござる」


「だからと言ってそう遠くまで行けるとも思えないし、行ったとは思えない」


「とすれば、我々のいる場所の近く?」


 言ってゼンは改めて周囲を見回す。

 事故現場からは離れたが、ここはまだ瓦礫の散乱する規制線の内側であった。

 まだまだ隠れられる物陰は多い。

 何かサインになるものはないか?

 ロムはああ見えて慎重な性格だ。

 あとの現場検証などで足のつく可能性があるようなメッセージを残すようなことはしそうにない。

 同様に不用意に動かない可能性は十分にある。

 みんながそれぞれ仲間を探して動き回ることのリスクを計算に入れ、探し回るだろう仲間も想定しているに違いない。

 とすればあとは残らないが仲間が見つけてくれることを前提とした何らかのサインを出しているはずだ。


(どんなサインでしょうか?)


 ロムはあまり荷物を持っていなかった。

 武器の棍は最後の戦闘中に折れていた。

 サスケは崩落の際に両方失くしているようだしジュリーも腰に吊るしているショートソードがあるだけだ。


(あとは非常食くらいでしたか……ん?)


 ゼンは見覚えのある袋が瓦礫片に引っかかってたなびいているのに目を留めた。

 その非常食が入っていた袋の意味するところは明確だ。


「いました!」


 ゼンが指を指すと二人も視線をそちらに向ける。

 距離にして三、四メートル先だろうか。


「日が沈んだら見つけられないところだったな」


「日没までまだ三十分以上あるし、日が暮れると今度は緊急車両から照明が照らされるはずでござる」


「そこまで計算していたとすれば、さすがとしか言えませんね。さ、移動しますよ」


 三人はサスケを習って木遁の術を利用して彼の元へ急いだ。

 まだ日の沈みきる前に四人は合流した。

 もう十分もすれば黄昏時だろう。

 もっとも、東京の表通りに「かれ」と問うほどの暗がりなどほとんどない。

 それでも街灯の明かりには十分の一サイズになっている彼らが紛れられる程度の暗がりくらいは存在する。

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