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バイオダンジョン 13 ファンタジーとサイエンス

「落ち着け! もういい、大丈夫だ!」


 ジュリーを止めているサスケも少し興奮状態にあるのだろう。

 いつもの「ござる」が出てこない。


「我を失っていては思わぬ反撃に遭います。落ち着いて」


 そういうゼンも決していつもの冷静沈着な真似はできていない。

 しかし、努めて冷静でいようという努力だけはしているようだ。

 ジュリーがようやく落ち着いた頃、キメラの命も尽きていた。

 その死を確認したロムはキメラを避けて音のした方へ歩いていく。

 そこには大量の撒菱まきびしがばら撒かれていた。

 ゼンの指示でサスケが投げた均衡を破る一策であったようだ。

 ロムはそれを一つ一つ拾い集めていく。

 そして三人はキメラの死骸を吐き気を抑えつつ検分する。

 毛並みを掻き分けても継ぎ合わせた手術跡などはない。

 やはり遺伝子レベルで合成されたもので間違いなさそうである。


「誰がこんなものを……」


 片手拝みに片膝つきで黙祷を捧げたジュリーが呻くように吐き捨てる。

 遺伝子を操作して生物を創造する行為は、倫理上問題があるとして国際法で禁止されている。

 穀物などの品種改良でさえ未だに議論になるというのに合成哺乳類を作り出すだけでなく、それをダンジョンに放して冒険者と戦わせるなど狂気の沙汰としか言えない。

 事実、これまでの探索では冒険者と思われる死体もあったのだ。

 ミクロンダンジョンが非合法であると言ってもやりすぎではないかという想いは拭えない。


「先へ急ぎましょう。このダンジョンをクリアして何としても組織の尻尾を掴まねばなりません」


 ゼンはジュリーの肩に手を置いて先を促す。


「ああ……そうだな」






 ()()がカウンターに座り、タブレット端末を見つめている。

 そこにはいくつかの項目と先ほどまで点滅していた光点の消えた画面がある。

 それは、キメラに仕込まれていた計測器から送られてくるバイタルデータを示す各種パラメーターである。

 点滅は心拍を、その他の数値はアドレナリンやドーパミン、体温などを十秒ごとに計測していたものだ。

 項目の横にある数値は今は全て「0」だ。

 体温も0なのは計測機器が機能を停止していてデータを送ってこなくなったためである。


「やるじゃないか」


 彼は昏い笑みを浮かべて端末を操作してOKをタップすると、アプリケーションを切り替えてどこかへ連絡を取る。


「ずいぶん修羅場をくぐった冒険者のようだし、()()()もさぞ喜こんでくださるだろう」






 四人の冒険者が陰鬱な薄暗いダンジョンを歩いているとダンジョンの奥で何か仕掛けが動いた音が響いてくる。


「なんだ?」


「何かの仕掛けが動いた音ですね」


「なぜこのタイミングで? オレ何かトラップでも発動させたか?」


「それはないと断言できるでござる」


「じゃあ一体……」


 ジュリーが不安げにゼンを振り向くと、ゼンも原因が判らないらしくいつもの考える仕草で眉間にしわを寄せている。


「このダンジョンは基本的にメンテナンスされていません。おそらくリアリティを追求するため構造的にもメンテナンスできない構造になっているものと思われます。なんらかの方法で外部から怪物モンスターを投入するようになっていて、今の音はその怪物を投入した音なのではないかと思われるのですが、なぜこのタイミングなのか……」


「俺たちがキメラを倒したからだろ?」


 さも当然のようにロムが後ろから言う。


「まぁ、十中八九その通りだと思うのですが……」


「オレたちが倒したって、どうやって知ったんだ?」


「カメラなどは仕掛けられておらぬと断言できるでござるぞ」


「ですよね……」


 ロムは頭をかいて先へ進むことを促す。


「発信機的なものでも仕掛けられてたんじゃないの? キメラに」


 言われてゼンがあっけにとられた表情でロムを振り返る。


「なるほど、わたしはすっかりSF方面に頭が働かなくなったようですね。野生動物の生態調査などに使う、体温か脈を発電動力にした発信機付きのバイタル計測器、あれでモニタリングしていたと考えれば納得です」


 冒険者はダンジョンを踏破していく。

 いくつかの扉を開けるがほとんどが空き部屋であり、彼らの前にアタックしていた冒険者が休憩か避難かで利用した痕跡がいくつかの部屋にあったくらいで戦利品の類は一切見つからなかった。

 そして……

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