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バイオダンジョン 05 隠し扉

 全ての部屋を探索し終わった四人は最後の部屋で車座に座って、床に広げた地図を見つめている。

 扉の向こうが通路になっていた箇所が二つ。

 部屋にもう一つの扉があり、奥へ行けた場所が一つ。

 判る範囲で行ける場所は全て探索し終えていた。


隠し扉(シークレットドア)ですね」


 ゼンが呟く。


「だろうけど、手がかりが全くなくて絞り込めないぞ」


「簡単に判ったら隠し扉の意味などなかろう」


「そりゃそうだけどよ。これはゲームだぜ?」


 ゼンは親指を顎に、人差し指で鼻の頭をトントンと叩きながら目をすがめて地図を見つめていた。

 やがて、


「調度品のある部屋が二箇所ありましたね」


 訊かれてサスケが地図上を指差す。


「こことここ。最初の部屋は奥への通路発見前でござるから見ての通り、何処かへ通じる道のある余地はないでござる」


「てことはこの部屋が怪しいってことか?」


 ジュリーがもう一方の部屋を指差す。


「ヒントになりそうなのはそれくらいです。もっとも可能性の高い場所ではないでしょうか」


「でも、あそこは一度調べただろ」


 実際、数少ない調度品が用意されていた部屋である。

 何かしらの攻略につながるヒントやアイテムが手に入るかもしれないと調べた場所だ。

 その結果何もないということで出て来た部屋である。

 これ以上調べて新たな発見があるのか?

 ジュリーの疑問ももっもだった。


「他に当てがないんならとりあえず行ってみるしかないんじゃない?」


「それもそうか」


 決断すれば四人は早い。

 安全の確認されたダンジョン内を走るように移動すると目的の部屋へ入る。

 部屋は寝室を模しているため板張りの床に漆喰の壁。

 簡素な木製のベッドは壁際に置かれ、燭台に洗面台、ベッドサイドの文机の上に日記だろうか?

 書きかけの本の他に数冊立てかけてある。

 本がシナリオ上の価値がないことは一度目に来た際に確認してあるし、燭台も洗面台もセットの一部という以上の意味はなさそうだった。

 漆喰の壁は隠し扉のような仕掛けを隠すには不都合で、実際改めて確認してもそれらしい痕跡を見つけることはできなかった。

 仮にベッドに何かしらの仕掛けがあったとして、それが隠し扉にどうつながるのか?

 ゼンは疑問に思いながらもサスケとジュリーに指示を出し、ベッドを起こす。

 ベッド自体は変哲もない木製ベッドで、やはり仕掛けなどはない。

 ベッドをどかした床には、ベッドの足の部分に当たる場所が窪んでいるのが見て取れた。

 ゼンは気になってその窪みに顔を近づけた。


「なるほど」


「何か見つけたんだな」


 言ってジュリーも這いつくばって窪みを見つめる。

 そこには不自然な窪みがあった。

 ベッドの足は四角い四つ足なのに窪みは丸いものが二箇所。

 よくよくみるとベッドサイズと同じ大きさの隠し扉らしき仕掛けを見つけることができた。


「これを見つけられるのは余程のマニアか乱暴者でしょうね」


 壁ではなく床に隠し扉を仕掛ける。

 アニメなどではよくある仕掛けだが、人間『隠し扉』と言われれば思い込みからつい壁面を探してしまう。

 そんな盲点を突いた演出がニクいと無意識に笑みがこぼれる。

 ゼンのいうとおり、これを発見できるのは微に入り細に入り慎重に仕掛けを探すよほどのマニアか、ベッドに当り散らして偶然見つけてしまえるような乱暴者くらいだろう。


「問題はどうやって開くかだな」


 ロムがくるりと部屋を見渡しながらいう。

 この手の仕掛けは開くための起動スイッチが必要だろうというロムの見立てだ。

 ゼンもそれは間違っていないと思っている。

 さて……と周囲を見回すが壁はもとより床にも天井にもそれらしいものを隠しているような場所はない。


(四角いベッドの足に丸い窪み……これがヒントだと思うのですが……)


 文机の足は確かに丸いが二箇所の窪みとは間隔が違うし太さも細い。

 これは違う。

 とすれば残るは燭台と洗面台だが洗面台の方は細い金属フレームの四つ足で上に洗面器を固定するタイプ。

 これでもなさそうだ。

 と最後に残った燭台に手を伸ばす。

 燭台は太い丸棒の上に油を入れる皿があり、脚は十字に固定された袴で自立している。

 これも違うようだと悩んでいると、サスケが燭台の中程を指差した。


「継ぎ目がござる」


 見るとなるほど継いである。

 ジュリーと協力して引っ張ると、それはダボ継ぎされた二本の棒になった。

 それぞれに燭台だった棒を握った二人は互いにうなずき合って窪みに丸棒を押し当てる。

 ずいと力を入れると仕掛けの床が深く沈み、ゆっくりと階下への入り口が口を開けたのだった。


「いくぞ」


 緊張が伝わる短い言葉で声をかけると、四人の冒険者は階下へと足を踏み入れて行く。

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