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バイオダンジョン 04 気負いすぎてナーバスになる冒険者たち

 洞窟の奥、扉の向こうに広がっていたのはある意味見慣れた地下迷宮の通路だった。

 もちろんここも丁寧に作り込まれている。

 長方形に加工された敷石を斜子織バスケットウィーヴパターンで敷き詰めた通路は、ところどころ風化したようになっている。

 壁も典型的なストレッチャーボンド積みで、いかにもファンタジー世界の地下迷宮といったおもむきだ。

 かなり歩いていたのだろうか。

 隣を歩くサスケの手元を見ると洞窟から先の通路が一通り書き込まれていた。

 いつもの通り途中の扉を全て無視して通路を踏破したようだ。

 その感は特に問題ないという判断でゼンに声をかけなかったのだろう。


「明確な目的のないダンジョンだ。全部開けてくか?」


 ジュリーが訊ねてくる。


「そうですね。この先どういう状況が待ち受けているか判りません。ゲーム的にはフロアごとに敵のパターンというか傾向は揃えてくるのが基本的なシナリオ作法だと考えられますから、この部屋を開けてみるというのはどうでしょうか?」


 そういって地図を指差したのは通路に囲まれた十二畳ほどの空間である。

 どこかに通じている可能性はほとんどなく、部屋の広さから見て待ち伏せがあってもそれほど特殊な状況にはならないと思われる場所だ。

 四人は特に警戒することもなく目的地に移動し、その扉の前に立つ。

 扉は金属のフレームで縁取られた木製で、ノブではなく飾り気のないアーチ状の銅製の取っ手になっており、やはり閂による施錠がなされていた。

 閂を外し勢いよく扉の中に躍り込むと、そこには冒険者に反応して起動したオーガとみられる敵が動き出していた。

 とっちらかった総髪に整える気のないアゴヒゲ、デフォルメされているのかと思うほど頭が大きいため、五頭身で背は彼らより低めのずんぐりした体型。

 でっぷりとした腹は分厚い脂肪の塊と見える。

 ジュリーはすでに抜き放っていたショートソードを構えて部屋の中央へ歩を進め、サスケはジュリーのフォローをすべく短刀を逆手に構えてジュリーの右側に移動する。

 ゼンは二人が戦いやすいようにと、光源が二人の体で遮られないように左後方で杖を掲げながら待機。

 ロムは扉の内側にこそ入っていたが戦闘に参加するそぶりを見せずに部屋の中を観察した。

 部屋はリアリティなのか、オーガを閉じ込めていた部屋らしく暴れた痕跡を再現していて、ムッとくる血生臭さも表現されている。

 リアリティについては「レポートでも賛否あったな」と、ちらりと思いながら二人の戦いに意識を戻した。

 オーガはまみれで錆びついた大型のナイフを構えることもなく無造作に振ってくる。

 その動きは大振りな上に緩慢で、ジュリーは余裕を持ってその初撃をかわして胴をぐ。

 しかし、その攻撃は分厚い脂肪に受け止められたのか手応えがない。


「何で出来てんだ?」


 再び襲ってきたナイフを避けるために一歩後ずさり、今度は肩口から袈裟斬りに振り下ろす。

 肩に食い込むショートソードを引き抜くと、地面を強く踏みしめながら続けざまに剣を振るうこと七度。

 オーガはようやく起動を停止して仰向けに倒れこんだ。


「第一階層の敵にしちゃダメージ設定高すぎるだろ」


 ジュリーは悪態をつきながら剣を鞘に収める。

 完全に停止していることを確認したサスケがオーガの体をまさぐり始めた。


「ダメージ設定だけではござらんな」


 ボディはロボット骨格がシリコンに包まれているという構造だった。

 そのため動きが緩慢だったのだろう。

 足裏に充電用の金属部が露出しており、掃除ロボットのように定期的に部屋の隅にある充電端子に接続するようになっていたものと思われる。

 確かにこのダンジョンの凝りようは普通ではない。

 しかし、ダンジョン全体の敵が全てこんなギミックで用意されているのだとしたら、一体どれほとの費用をかけたのかとそれだけでも頭がくらくらしてくる。


「ナイフはどうですか?」


「金属製ではあるがおもちゃのナイフでござる。何か気になることでもあるのでござるか?」


「いえ、あの日のゴーレムの件もありますから。もしここが我々の追っている組織に関係があるのだとすればですが、そういう危険性もあるのではないかと」


「なるほど」


 ジュリーはあの時の痛みと恐怖を思い出したのか、心持ち顔が青ざめている。


「少なくともこのフロアは大丈夫だよ」


 ロムはジュリーの背に手を当ててそういった。


「レポートでそんな危険は指摘されていない。ま、先に進んだら判んないけど」


「そうですね、少なくとも第一階層は多くのプレイヤーが体験しています。その評価に身の危険を感じるような報告がなかったのですから、取り越し苦労だったかもしれません」


 ゼンもホッと肩から力を抜いて息をつく。


「少しナーバスになっているのかもしれません。気負いすぎなのかもしれませんね」


 冒険者は探索を進める。

 扉の中には大抵一体から三体の怪物が配置されていた。

 どの敵もオーガ同様特定の反応を示す簡易プログラムながらAIの補助なのだろう、自立思考しているようにこちらに合わせて攻撃や防御行動をとってくる。

 ダメージ設定も高いらしく、ともすれば戦い慣れて来たジュリーも押し負けることがあった。

 単体相手であればサスケの助太刀が、複数の敵の場合はサスケとジュリーで一体を。

 残りをロムが引き受けるという戦闘が続く。

 倒した怪物からは戦利品となりそうなアイテムは出てこないし、待ち伏せのあった部屋は戦うことに重きを置いてか、調度品などが置かれていない殺風景さだった。

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