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ハイテクダンジョン 12 実力か? 偶然か?

 石を模した扉で鍵穴などはない。

 レバータイプのドアノブも石造り。

 ジュリーが開こうとすると渋く反応が重い、いかにも石のような反応だった。

 力を込めて押し開くと、途中で何かのスイッチが入ったようなカチリとした感触を感じた。

 開けた扉の先は今までと少しおもむきの違う通路が伸びていた。


「床が磨かれたように平らですね」


「まるで大理石を敷き詰めたようでござるな」


「ここから先はダンジョンの主人である魔法使いの領域……そんな演出なのか、あるいは……」


 ジュリーはそう言いながら鞘から剣を引き抜き肩に担ぐ。


「『あるいは』の方でしょうね」


 ゼンも同意見のようだ。

 隊列が組み直される。

 先頭をジュリーが勤めサスケ、ゼン、ロムと一列に並ぶ。

 やることは変わらない。

 これまで通り通路を地図に起こ(マッピング)してその後、扉を調べていく。

 しかし、その作業は途中で一度中断させられた。

 徘徊する(ワンダリング)怪物モンスターとの遭遇エンカウント戦である。

 とある角を曲がった出会い頭に三体のコボルドと。

 こちらは序盤三対一の戦いをジュリーが守りきり、地図をしまってサスケが戦闘に参加するとあっさりと撃退できた。

 実はその後二度目の遭遇があった。

 それも背後から。

 ゴムのタイヤで音もなく接近してきたのは闇に沈むような黒い毛並みと爛々(らんらん)と輝く赤い目をした五匹の黒妖犬ヘルハウンドで、ダメージ設定低めながらサイズの小ささから小回りのきく攻撃の当てにくい怪物で、常連にはまことに厄介な相手だった。

 しかし殿しんがりを勤めるロムにとっては何ほどのこともなく、演舞のように棍を振ると前を歩く三人に黒妖犬の存在を気づかせることなく撃退する。

 観客の間ではその戦闘とも言えない一連の出来事に対してちょっとした議論が起こった。

 ロムがこのダンジョンアタック中、時々棍を振る仕草をしていたからだ。

 それはちょうどスポーツ選手が自分の出番までに行う一連のルーティンワークのようなもので、体のこわりを生まないためであり不測の事態に素早く対処するための心構えでもあったのだが、その一連の行動にたまたま黒妖犬が巻き込まれたように見えなくなかったからである。

 ロムの実力に懐疑的な観客がそれを主張し、実力に期待する層が接近に気付き迎撃したものであると主張した。

 通路の地図を完成させたサスケがそれを見せつつ今後の方策を相談する。


「ここでループしていたんですねぇ」


 と、ゼンが指で地図上の通路をなぞる。


「場合によってはコボルドに後ろから奇襲されていたかもしれないんだな」


「ロムなら奇襲にも一人で対処できますよ。うちの殿は前衛より硬い」


 黒妖犬に背後から襲われていたことなど知る由もなく、ブルリと身震いしたジュリーにこちらもとんと気づいていないゼンが答える。


「その言い方、事実だがクサるなぁ」


「通路に囲まれた中はどうする?」


 大袈裟にいじけてみせるジュリーを無視してサスケが問うと、ゼンが間髪を容れず主張する。


「確認します。宝探しのシナリオはヒントの収集が肝ですからね」


 冒険者は宝珠を手に入れるためのヒントとなる情報や攻略の鍵となるアイテムを収集するために扉を開けてゆく。

 扉は例の石の扉以外は概ね木製で鍵穴はなく開けることには苦労はなかったが、中の状況は対処に苦労した。

 配置されている怪物が多様な動きでジュリーとサスケを翻弄し、一つ一つでは意味が理解できないような、本当に手がかりなのかも怪しいアイテムが数多く手に入る。

 第二階層をすべて制覇する頃には持ちきれないほどのアイテム数となっていた。


「第三階層へ行く前に少々情報とアイテムを整理させてくれませんか?」


 と言うゼンの提案を受け、この階層で一番広い部屋に陣取る。

 ゼンはアイテムを床いっぱいに広げるとブツブツと独り言を呟きながらアイテムを右へ左へと移動させる。

 三人は倒した怪物と並ぶように部屋の壁に背を持たれ、用意していたご飯粒や水で腹を満たす。


「手伝わなくていいのかい?」


 スマートフォンサイズのご飯粒をかじりながらロムが訊く。


「変に触ると怒られるからな」


 ジュリーが手の甲で口を拭い、続ける。


「一見無造作に広げられているように見えるだろ? 最初は確かに無造作なんだ。だからオレたちも手伝った。けど、右や左に移動しながらアイテム同士の関連性を確認してるのさ。そうなると良かれと思って手伝ったとしても、ゼンの頭の中の関連性と切り離されちまうらしい。ま、小さな親切大きなお世話ってやつだな」


「触らぬ神に祟りなしとも言う」


 けっで瞑想をしていたサスケがぼそりと呟く。


「違いねぇ」


 ジュリーも呵々(かか)たいしょうで受け入れた。


「まぁ、RPGの謎解きに関していえばオレたちが額を寄せるよりゼンに任せる方が確実、間違いないぜ」


 時間にして三、四十分だっただろうか。

 ゼンは天を仰いで大きく息を吐いた。

 彼の目の前にはラバーグリップが巻かれたペンのような金属の棒と詩の書かれた巻物、表紙に食人鬼が空押加工された本、それに第一階層で使った鍵だけが残されていた。


「それだけ?」


「ええ、アイテム数は多かったのですが大半がフェイクで残りは情報としてのヒントでした。おそらく今現在手に入れたアイテムの中で第三階層で使う可能性のあるのはこの四つだけだと思われます」


「第一階層で使った鍵がまだ必要なのか?」


 ジュリーが疑問を挟む。


「ええ、第二階層で開けていない扉はあと一つ。その扉には鍵穴がありましたよね?」


「うむ」


「鍵のかかった扉があるのに第二階層で鍵は手に入らなかった。この鍵を使うと考えるのが当然の帰結というものです」


 ロムにはやや強引な帰結とも思えたがあえて口にはしない。

 幾度かのダンジョンアタックでゼンの考え方はほとんど間違っていなかったからだ。

 時々ジュリーが口にする「RPG的思考・お約束」というやつなのだろうと思うことにしている。

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