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ハイテクダンジョン 11 観客の興味

 スピーカーから流れてくるロムの言葉は観客を動揺させる。


 「大袈裟な」と言うのが大半の反応だが、言葉に込められている真剣さには何人かの琴線きんせんを震わせる力が確かにあった。


「彼だよな、ネズミと戦ったの」


 彼らは非合法ゲームに手を染めるほどのミクロンダンジョンのファンでありマニアである。

 「ゲームエクスポミクロンダンジョン崩壊事故」の経緯は、噂やガセも含めて大抵の観客は知っている。


「そういえば、本物のネズミが怪物モンスターとして配置されていて噛まれて大げがした被害者がいるって情報あったな」


「最上階までたどり着いたのは彼らのパーティだけだろ? ネズミは第三階層にいたって話なんだから当然あの四人の誰かが戦ったってことで、可能性からいえば彼ってことになるな」


「さらわれたジュリーの妹……」


「ありえない。目撃者はたくさんいるんだ、彼女に怪我はなかった」


「彼がそうだとすれば、戦って倒したって話だが……」


「倒したってのは噂だろ? それが事実なら相当強いなんてもんじゃないぞ」


 観客の視線は自然、戦闘中の二人ではなくロムに向けられる。

 興味はいつ彼が戦闘に加わるかだ。

 サスケはオークの攻撃を避けながら反撃のチャンスをじっとうかがっていた。

 二対一のジュリーには難しくてもサスケにはチャンスがあった。

 リズムは一定だ。

 攻撃にも特定のパターンが見つかった。

 そこは腐っても元運動部である。

 避けるのにも余裕が出てきた。

 あとは反撃を試みるだけだった。

 上から振り下ろされる棍棒を右にひねりながら左に交わし、ひねりの反動をつけて一気に巻き込むように右腕で押さえつけるように短刀を顔面に叩き込む。

 体重が乗せられなかったのだろう、初撃は弱かったようで倒しきれない。

 しかし、百八十センチ超と言う体格がそれを補い、オークを少し後退させることには成功した。

 一瞬グラリと傾いたオークだったがジャイロ機構があるのだろう、持ちこたえて再度攻撃に来ようとする。

 が、態勢の立て直しはサスケの方が早かった。

 ここまでくれば主導権はサスケが握っている。

 彼は姿勢を低くしてしっかり体重を乗せ、今度は胴体に攻撃する。

 先に倒した一体が二太刀で倒せたのだから設定されているライフポイントの残りは高が知れている。

 彼はサッカーのシュートを打つようにオークを蹴り飛ばすと果たせるかなオークは戦線を離脱する。

 これで二対二だ。

 それぞれが一体を倒せばいい。コツの判ったサスケはもとより、ジュリーだって二体の攻撃を捌き続けていたのだから隙をついて攻撃に移ることが可能になる。

 まして彼の武器はサスケと違って細身ながら厚みのある刀身を持つ、防御にも適した剣で破壊力がある。

 相手の攻撃を剣で受けて弾き上げると右から胴を払い、最上段から撃ち下ろす。

 体重の乗った打撃は設定値を上回りオークは壁際に移動する。

 それを確認した後、隣を見るとサスケもどうやら最後の一体を倒したようだった。

 観客席からは低い歓声と拍手が湧く。


「すごいけど、ちょっと残念だな」


 若い男が呟く。


「確かに拳士君の活躍が見たかったねぇ」


 観戦専門の白髪の男も顎を撫でながら同意した。


「二人だけでクリアすんじゃねぇか?」


 そういった紅蓮の鳳凰を否定したのは痩せぎすの男だ。


「第二階層はもしかしたら二人でクリアできるかもしれないけど、第三階層が難しいのはみんな判っているだろうよ」


「あぁ、()()()()はパーティ全員で攻撃しなきゃ難しいかも」


()()()はダメージの判定が累積型だからいずれ倒せるだろうけど、その攻撃を当てるのが至難の技だし、もう一体はまさに鬼モードだからな」


 冒険者たちは二人の息が整うのを待って、部屋の向こうにあった木製ドアノブの扉を開ける。

 中には書棚があり、書籍や巻物スクロール、平底フラスコのような薬瓶が並べられている。


「ポーションはファンタジーRPGにつきもののアイテムですが、現実世界では効果がありませんしね」


 言いながらゼンがポーションの一つを手に取ろうとしたが、棚に固定されているらしく動かすことはできなかった。


「しかし、リアリティの追求というだけで無意味な部屋を用意するわけがありません。ましてこのような特徴的な部屋には必ず意図があるはずです。単なるフェイクだとすれば上級者のために仕掛けられたフェイク。高度すぎます」


 ざっと探すと動かすことができたのは部屋の奥に本が一つと、扉横の棚の下に積まれた巻物のうちの一つ。

 表紙に食人鬼オーガ空押からおし加工された本には開いても何も書かれておらず、こちらは目くらまし的なものかと思われた。羊皮紙を模した合成皮革だろう巻物を開くと中には一編の詩が詠まれていた。


宝珠ほうじゅ まもるしょうしゅしゃ

 三面さんめんろっしゅして うはけん

 三面さんめん かいすかし ろっ すべてを

 しゅしゃまえむくろ やまきずき 宝珠ほうじゅ いまだそこにあり』


「ふむ、この宝珠というのを手に入れるのが目的ですね」


 ミクロンダンジョンはアスレチック要素の強い体験型RPGではあるが、RPGらしくシナリオというものが存在している。

 一般的にモンスター退治型のシナリオかお宝探索型のシナリオが採用され、各ダンジョンの特色を彩っている。

 このダンジョンには魔法使いの秘宝が眠っているという設定があり、冒険者は未知の『秘宝』を求めてダンジョンを探索しているというシナリオになっている。


「宝珠ってぐらいだから玉なんだろうな」


「ですね。どんな色か、大きさか? とにかく玉を見つけるのが目的と判りました」


「さて、探索を続けようか」


 ジュリーが言う。

 四人は通路に戻り手近な扉を目指す。

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