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ハイテクダンジョン 10 あえて二人で

「どれから倒す?」


 ジュリーが標的ターゲットを物色すると、ロムが答える。


「右から二体目。右端をサスケがフォローしてあとは流れだ」


「了解!」


 言われた通りに右から二体目に狙いを定めるジュリー。

 サスケは右端を攻撃しないで様子を伺う。

 オークの攻撃パターンはひどく単純で一体一体はそれほど苦労はしそうにない。

 落ち着いて正眼に構えタイミングを見計らって剣を振り下ろす。

 ダメージ設定は高めに決められているのか一撃では撃退できなかった。

 そして予想通りと言えるのか、オークはジュリーを包囲するように動き出す。

 包囲されないようにと二度目の攻撃は牽制も兼ねた左から右への横薙ぎで、剣は二体を斬り払う。

 そのせいか最初の一体へのダメージが浅く、倒しきれなかったようだ。


「チッ!」


 結果としては選択の失敗だが、戦略的には間違っていないとロムは見る。

 今の相手は意志を持たないコンピューター制御の人形なのでダメージにかまわず突っ込んで来るが、相手が生き物であれば十中八九今の攻撃で一度退いただろう。

 そう言う意味でジュリーの戦闘センスは決して悪くない。

 ただ、どうせ薙ぐなら右から左だったのではないかとも思う。

 上からの振り下ろしという動作の流れからいえば左から斬り払うのが自然ではある。

 右から斬り払う動作には少々の窮屈さも感じるだろう。

 ここはやはり実戦経験の乏しさかもしれない。

 ジュリーは返す刀で改めて横に払い、最初の標的を倒した。

 サスケは、動き出した右端のオークに逆手持ちの短刀による斬撃を繰り出す。

 体重を乗せ体ごと体当たりをするよう体をひねり、腕で短刀を押し込むような動作だ。

 こちらも一撃必殺とはいかなかったが、押し弾かれたオークに対して手首を返して逆向きにした短刀に左手を添えてさらに突き飛ばすように迎え撃つ。

 これで二体目がダメージ判定で退却する。

 しかし、その間に残った三体が二人を取り囲むように迫っていた。


「ここ、人数少ないパーティにはえげつないっすよね。オークのダメージ設定やたら高めにされてるし」


 高校生の一人が言う。観客は皆一様にうなずく。

 この部屋の攻略は狭い部屋なので同士討ちの危険もあるのだが、一人一体受け持って倒すと言うのがセオリーになっていた。そんな部屋で人数的に不利な冒険者が、しかもあえて二人で対処すると言う経験者からは暴挙とも取れる行動をしている。

 初遭遇では似たようなヘマをしたパーティもあるが、彼らは戦闘前にその行動パターンを事前に予測していた。

 にもかかわらずだ。


「合法時代から戦闘には参加しないって話だったゼンはともかく拳法着のやつがほとんど戦闘に参加してないよな。会話からいうと一番戦闘力あるのは彼だと思うんだけど、なんであえて戦わせないんだろう?」


 紅蓮の鳳凰が不思議そうに言う。


「話し振りからは戦士君と忍者君の経験値を上げる目的なのは判るんだけど、なんでそんなことするんだろうね」


 おそらく六十近いとみられる白髪の目立つ観戦専門の男も不思議がる。

 事情を知っている店長と蒼龍騎はあえて何も言わず、黙ってモニターを見つめている。

 もっともそんな二人もロムがどれだけの戦闘力を持っているかは判っていない。

 ゼンに言わせれば一番効率のいい戦略は両端をジュリーとサスケが受け持ち中央三体をロムが倒すことだ。

 過去の経験から考えれば、強くなった二人の成長分を考慮に入れてなお、二人がそれぞれ一体倒すよりも早く三体を倒すだろう。

 しかし、ジュリーの言うようにそれではこの先レイナを見つけ出し助け出す過程できっと起こるであろう戦闘で、三人はロムの足手まといにしかならない。

 他の二人も運動能力は十人並みかそれより下と思われるが、努力と経験で補える程度にはある。

 ところが、ゼンの運動神経のなさは自分でも情けなくなるほど深刻で、これまではそれを補うために知識を増やしリスクを避ける方向で生きてきた。

 しかし、これから先の冒険では避けて通れないリスクが確実にある。

 ゼンはこれまで培ってきた知識を総動員して自分自身にあった戦い方を模索し、試行錯誤を繰り返している。

 今回のダンジョンでは試す機会もないだろうと千葉のダンジョン探索用に作製したスタッフを持ち込んでいたが、自宅の部屋には対生物を目的とした攻撃用杖の試作品が二、三用意してある。

 今日のダンジョンでもイメージトレーニングとして戦闘時は常にシミュレーションをしていたが、脳内でさえ勝てるイメージがわかなくてその都度凹んでいた。

 二人の戦闘は続いている。

 二体を倒すことに成功したことで壁を背にすることはできた。

 これで背後を取られることだけは避けられる。

 それでも数的不利は残っている。

 今も防戦一方で攻撃に移れないでいた。


「助けないのですか?」


「うん……攻撃力は高くないみたいだし鎧は着てるし、これも経験ということで」


 ロムの言いたいことは理解できた。

 これまでの戦いは絶対有利な戦いだった。

 もちろん一部の敵は武器を振ってきたがそれは攻撃というよりも防御のための行動であり、一定の距離さえ取っていれば打撃を受けることはなかった。

 積極的に攻撃を受ける機会というのは防御面での貴重な経験になる。

 オークの攻撃は緩慢で単調でもあり、よく観察していれば避けられないことはない。

 事実上一対一のサスケは反撃こそできていないが全て避けることには成功している。


「しかしジリ貧ですね。攻略法はありますか?」


「攻略法も何も避けて打つ以外に何がある?」


「それは簡単なことではなさそうですが」


 事実、ジュリーもサスケも攻めようとはしている。


「そろそろダメージ覚悟の相打ちも選択……」


()()なら大したダメージにならないだろうけど、あの程度で捨て身にならなきゃいけないなんて命のやり取りになった時に勝ち目がない」


 遮るようにロムが言った。


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