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ハイテクダンジョン 08 第二階層

 第二階層の最初の部屋(セーフティルーム)で、サスケの準備を待つ間、ジュリーはゼンと雑談をしていた。


「蒼龍騎がこのダンジョンのことをハイテクダンジョンなんて呼んでたけど、第一階層を回った限りそんな印象なかったよなぁ?」


「そうですねぇ……トラップもオーソドックスでしたし、配置されているモンスターも他所よそのダンジョンと比較して抜きん出たハイテク感はありませんでした。でもダンジョン全体にカメラが設置されていて我々の行動が逐一モニタリングされている……ということを持ってハイテクダンジョンなどとは呼ばないでしょうし、この先どうなるか判りません。気を引き締めるに越したことはないと思いますよ」


「だよな」


「準備はできたでござる」


「じゃ、行きますか」


 ジュリーは第二階層の入り口となる扉の木製のドアノブに手をかけ押し開く。

 扉の先は通路になっていてその道幅は第一階層の倍幅になっていた。


「これはあれだな」


 ジュリーが振り向き声をかける。


「ええ、おそらく」


 ゼンが頷く。


「あれってなんだ?」


「ヒントですよ」


 ロムの問いかけに答えたつもりなのか、ゼンがニヤリと笑ってみせる。


「伏線ってやつかい?」


「物理的に必要だから道幅が広くなっているのでしょう。むしろ第一階層の道幅が半フィートだったことが伏線だった……と考えるべきでしょうね」


 彼らの会話はダンジョン内に設置されているマイクによって観戦している観客にも届けられている。

 それを聴きながら店長は感嘆の声をあげ、観客からも賞賛が漏れた。

 非合法遊戯(ゲーム)であるミクロンダンジョンはその性質上、主催者側は参加者を厳選している。

 たいていの場合組合(ギルド)と呼ばれる会員制になっていて、会員数はどこも決して多くない。

 そんな状況下この『下町の迷宮亭(ギルド)』でダンジョンアタックの観戦が許されているのは観戦専門のギルドメンバーとダンジョンをクリアした者に限られている。

 理由はRPGであるミクロンダンジョンで、他の冒険者のプレイは攻略のヒント・ネタバレになるからだ。

 そんな彼らが賞賛したのは第一階層の道幅を伏線だったと見破ったことにある。

 今回観戦している中のダンジョンクリア組で最初のアタックでそれを見破ったものはいなかった。

 観戦専門組は観戦しながらあーでもないこーでもないと話している中で可能性として出てきたが、それは冒険者がダンジョンを徘徊している間中議論をしていたから思い至ったものであり、彼らのように初見で、しかも一目見ただけでその可能性に言及できたものはいない。

 冒険者は地図を作成するために極力扉を無視して進む。

 第二階層全体の三分の一ほどをめぐるような地図が完成すると、それ以上先へは進めなくなった。

 そこから近くの扉を順番に開けていく。

 最初に開けた木製の扉の先は十二畳ほどはある広間で、中には自律行動型のネズミ型怪物(モンスター)が三匹置かれており、扉を開けたことで起動したらしくランダムに動き出した。

 サイズは体感で三、四十センチ級。

 実際のサイズで言えばミニカーといった感じだろうか?


「初めてのタイプだな。戦うべきか?」


「部屋の奥に宝箱がありますね。開けたいです」


「判った」


「手伝わないよ」


「いーよ。初めっからそのつもりだ。俺が二匹、いいよな? サスケ」


「うむ」


 二人は武器を鞘から抜き、小さな敵を追いかける。

 小さなボディで軽快に走り、不規則に蛇行する相手に翻弄されて攻撃するまで至らない。


「あれは苦労するんだ」


 とは、観客の一人でヒゲにオールバックの三十半ばといった男の感想だ。


「でも、つい追いかけたくなるんですよね」


 解説好きのやや太めの男が相槌を打つ。


「だからと言って迎え撃つのも難しい」


 今戦っているネズミにはランダムに曲がるだけでなく自動車などに搭載されている障害物を感知するセンサーが前面に取り付けられていて、進行方向に障害物や人などを感知すると回避行動を取るシステムが組み込まれているため、正面に立つことも難しいのだ。

 ロムはしばらく彼らの追いかけっこを観察していてそれに気づいた。


「壁にぶつからないなぁと思っていたんだけど、障害物を避けてるな」


 あの日本物に噛まれた左肩の傷跡を無意識にさすりながらそういうと、そばで聞いていたゼンが改めて追いかけっこの様子を観察しながらロムに聞き返す。


「なるほど、回り込むのも難しいですか」


「そうだな……俺も手伝おうか」


「おや、いいのですか?」


「別にあんたが手伝っても構わないんだけど?」


「私が?」


「ああ、鬼ごっこで複数の鬼が一人に狙いを絞って捕まえるってことあるだろ?」


「言いたいことは判りましたよ。そうですね、ここは私が手伝うべきでしょう」


 ゼンは持っていた光源である杖をロムに手渡すとネズミを追いかけている二人に声をかけながら近寄る。


「ジュリー、サスケ、一匹づつ仕留めますよ」


 追いかけるのをやめた二人は作戦会議のために部屋の中央に集まり、ゼンから概要を聞く。

 少し息が上がっていたジュリーは膝に手をつきながら確認する。


「つまり、ゼンとサスケが部屋の隅に追い詰めてオレがトドメを刺すってことだな?」


「そなたも手伝え、三方から包囲せねば追い詰められぬ」


「どれからいく?」


「あれにしましょう」


 三人はゼンが指差したネズミに狙いをつけて追いかけ始めた。

 戦略が決まればどんなに運動神経に難のあるゼンでもやりようはあった。

 サイズ的に考えて高性能な処理はさせられないと踏んだゼンは、衝突回避のパターンを確認するようにネズミの前に立ちふさがる。

 するとネズミはやはり特定のパターンを示した。

 左から進行方向を塞ぐと右へ、より遠くに逃げるようにプログラミングされていることが判ったのだ。

 そのパターンを利用して三人はゼンを中心に壁際へ、そして部屋の隅へとネズミを誘導し、逃げ場を失ってぐるぐると一箇所で回り続けるネズミをジュリーが叩く。

 一匹仕留めてコツを掴んだ後は残りの二匹など造作もなかった。

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