ハイテクダンジョン 04 いい仕事してますねぇ
「全員、小さくなったようだな」
最後に縮小されたロムがダンジョン入り口前の待機所に現れると彼らの上から声が降ってきた。
店主の声である。
「ダンジョンの入り口の向かって右側に更衣室が用意してある。君たちの用意してきた装備品がその前に置いてあるから判るだろう? 一応、午後一時スタートの予定だ」
と、縮小された彼らからは壁掛け時計大にも見えるアナログ式の腕時計を見せて説明する。
冒険者はそれぞれに頷くと装備品を確認しながら更衣室に入る。
ゼンは肘・膝にバレーボールなどで選手がするようなサポーターを巻き、アウトドアベストのようなポケットだらけの中衣を着て漆黒のローブを羽織る。
右手にはファンタジー的デザインではなく、機能を優先させた杖を握っている。
サスケは木綿の下着の上から非常に細かく編まれた鎖帷子を着込み、ファンタジー的にアレンジされたものではなく時代劇などで着られている着物に伊賀袴という和装然とした墨染の忍者装束で金属製の手甲、籠手、脛当て、目だけ露出させた覆面頭巾姿といういつもの格好だ。
だが武器は一回り大きいものを用意している。
刃渡り二十五センチ級の短刀を帯の後ろに差し込み、腰には厚手の生地で作られた巾着袋。懐にはダンジョンマップを書き込む方眼紙にシャープペンシルの芯らしき筆記具をしまい込む。
もっとも装備が変わっているのがジュリーだろう。
紫紺に塗られたシンプルな鞘に収められたショートソードは身長に合わせて七十センチ級と短くし、代わりに両手でも握れるように柄を長くして腰に佩いている。
盾を持つことをやめたのは剣を両手で扱うことを想定した戦術的変化だ。
代わりに綿入りのトレーナーの上に着込んでいる鎖帷子はチタン製で七分袖・膝上丈の筒型衣のようなデザインに。
その上に練色の麻製袖なし筒型衣を着る。
防御力向上のために鈍色のアルミ合金製プレート装甲に変更された鎧は、西洋的デザインながら南蛮胴に小具足という当世具足を参考とした機動力に配慮されたパーツ構成になっている。
そして今まで被っていなかった特撮ヒーローものの防衛チームが被るヘルメットのような兜も用意していた。
逆にもっとも変化のないのがロムである。
筋肉の動きなどで技の始動が悟られないよう配慮されたゆったりとした藍色の拳法着で、裾は邪魔にならないように足首のあたりで布紐で縛られていて、袖は拳が見える程度に折り返してある。
千葉のダンジョンの教訓から二メートルサイズの棍を持ち、腰には水と炊いた米が一粒それぞれ袋に入れて提げられている。
もっとも重装備のジュリーが更衣室から出てくる頃には予定時刻が迫っていた。
「今日は満員御礼の盛況だよ。千葉のダンジョン唯一の完全制覇パーティ。君たちの噂は『ギルド』の中でもそこそこ知られているようだな」
「ギルド?」
ロムがジュリーの方を向く。
「ギルドってのは中世世界の組合のことなんだが、RPGの世界じゃ冒険者組合ってのがあってな……まぁ、ここじゃ『下町の迷宮亭会員』くらいの意味かな?」
「一度にこんなに集まると警察にマークされないかヒヤヒヤなんだが……仕方ない。さ、時間だ。楽しませてくれ」
ブザーが鳴り入り口が開く。
ジュリーが先頭に立ち、ゼンとサスケが並んで続く。
殿をロムが務めるいつもの隊列だ。中はやや狭目の通路で棍を振り回すことは出来そうにない。
床も壁もレンガを積んだようになっている。
「というか……実際に積んでますよね? このレンガ」
十分の一というスケールにサイズを合わせたレンガを丁寧に積み上げているのはモデラーの真骨頂と言えるのだろうか?
彼らが千葉で作ったダンジョンはらしくは見せているが実際のレンガではない。
サスケは壁をコツコツとつま先で蹴飛ばし
「積んでいるのではござらんな。何らかの板にプレート状のレンガ素材を貼っているのでござる。根気のいる作業ではあろうがな」
と、地図作成に戻る。
「だろうな、多分パネルモジュールを作ってダンジョンを組み立てているんだと思うぜ。なるほど、賢いやり方だ。これならメンテナンスやリニューアルも簡単だ」
「非合法になってからリアリティ志向だったり一攫千金狙いの安易なダンジョンが規格を無視している中、サイズは違えど規格を決めて製作されているならマッピングもしやすいかもしれぬな」
「ハハッ、すごいね」
客席下手側に設置されているスイッチングブースで店長が感嘆の声を上げる。
下町の迷宮亭はダンジョン内のいたるところに設置してある小型カメラとマイクによって、実況中継を楽しめるようにしてある。
最初はダンジョンアタック中の安全確認のためだったのだが、ギルドメンバーが他のパーティのアタックをスポーツ中継のように楽しみたいと要望し、今のようになった。
このカメラ設置や遭遇戦の仕掛けなど制御の都合もあり、ジュリーが言った通りモジュール化したパーツの組み合わせでダンジョンを作っていた。
ただサイズは古典的TRPGの単位に従ったフィートをあえて用いているので、合法時代からの一ブロック十センチという統一規格とスケール感が異なっているのだが、予備知識のない最初の挑戦でしかも入り口をくぐったばかりの彼らに気づかれたことが嬉しい驚きだったのだ。
客席は長時間座ることを想定して雛壇に座布団を敷いているのだが、今日はその三段に座りきれずに床に直接座っている客がいる。
そんな彼らは始まったばかりの四人の冒険が映し出されるメインモニターを食い入るように見つめていた。
メインモニターの左右に三つづつ配置されているサブモニタには通り過ぎた後のカメラやこれから彼らが進むだろう先のカメラ映像が映し出されている。
と言ってもそれらの映像はまともな光源がなくほとんどが暗闇を映している。
今、ダンジョンの中に存在している光源といえば、ゼンが持つ杖の先だけだった。




