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始まりの迷宮篇 15 走れ! 逃げろ!

「典型的なモンスター待ち伏せ型の仕掛けですね。『ここが最後だ』と、教えているようなものです」


「マップでは、向かって左側面の壁に何かを納める小部屋があるでござる」


「ドラゴンの財宝へ繋がる道を守る守護獣? そんな存在必要か?」


 ジュリーが胡散臭そうに首をひねる。


「確かに最後にドラゴンが待っていることを考えると、ここにモンスターを配置するというのは安田氏らしくありませんねぇ」


 ゼンもその疑問に同意したようだ。

 おそらくロムの言った違和感というのに引っかかってもいるのだろう。

 彼はしばしブツブツと自身の頭の中を整理するために独り言をつぶやくと、ロムを振り返り確認する。


「第三階層は、敵を倒さなくても先へ進めましたよね?」


「だからってここもそうとは限らないだろ?」


 ロムは肩に担いでいた斧を下ろしてそう言った。

 その仕草にレイナは初めてロムが斧を持ち歩いていたことに気づく。


「まぁ、そうなのですが……演出的に考えると行けると思いますね」


「演出?」


「ええ。時代劇やヒーローものによくある仲間を先に行かせて『ここは俺に任せろ!』とかいうあれです」


「なるほど。そりゃクライマックスらしい燃える展開だ」


 ジュリーがニヤリと笑ってロムを見る。


「安田氏らしくはありませんがね」


「そうだな」


 ジュリーもRPGマニアの端くれだ。

 GMゲームマスター安田良のシナリオは色々とやり込んでいる。

 その経験から言えばこんな唐突な仕掛けをするような人ではないと思える。

 ゼンの見立てはもう少し具体的で、ここは安田氏に依頼された時点で既に決定されていたもの。

 つまりこのミクロンダンジョンは目の前の広間ありきで企画されていると考えていた。

 しかも、ここだけが異質なほど唐突であることを考えると安田氏もどんな仕掛けになっているのか知らされていないだろう。


「斧、持ってきてたんだね」


 レイナは三人がこの先の展開を予想し戦術を練っている間にロムに歩み寄り話しかけた。


「え? あぁ、そう言えば……」


「気づいてなかったの?」


「うん。……なんで持ってきたんだろう?」


 無意識なのだ。

 ロムは、その無意識を瞬時に肯定した。

 戦士の勘がこの場でこれを必要としていた。

 そういうことなのだろうと。


殿しんがりはオレがやろう。状況的に考えて中ボス一体ってパターンだ。オレが牽制している間にレイナ、サスケ、ゼンの順に階段を登るんだ。念のためロムはみんなが登り切るまでサポートしてくれ。あぁ、ランタンは階段下に置いといてくれよ」


「敵があのゴーレムだったらどうするの?」


 レイナが心配そうに兄を見る。

 彼は妹の視線にバツの悪そうな笑みを浮かべてこういった。


「その時はロムに手伝ってもらうさ」


 視線を向けられ、戦斧を胸に構えて思わずレイナに笑いかけるロム。


 レイナも微笑み返す。


「みんな、覚悟はいいか?」


 怪我をした左手が不自由でショートソードを鞘から抜くのに手間取ったジュリーが、照れ隠しに語気を強めていつも以上に芝居掛かった言い方をしてみんなを眺める。

 それぞれが小さく頷くのを確認すると大きく息を吸って号令をかける。


「行っけぇ!」


 レイナが飛び出しサスケが続く。

 ローブの裾が長いせいかそもそもの運動不足か、少し遅れてゼンが追いかける。

 ロムはジュリーの隣を付かず離れず軽い足取りで並走する。

 ロムたちが入るとすぐに左の壁、サスケが事前に指摘していた場所の扉が左右に開きだす。

 十分の一の世界で等身大のリアリティを演出するためだろう重い石の扉が開くようなサウンドエフェクトが壁から聞こえてくる。

 ロムはその隙間からの気配に寒気を感じ思わず立ち止まる。

 それに気づいたジュリーが歩速を緩めようとした時、背後の入り口が鋭い金属音を立てた棒によって閉じられた。


「予想通りだな」


 立ち止まったジュリーが後ろを確認し、扉に向かって剣を構える。


(まずい)


 ロムの直感、いやすでに勘とも言えない差し迫った事実としての危険が迫っていた。


「くそっ!」


「どうした? 敵はまだ出てきてない。俺たちが階段まで行く余裕は……」


 ジュリーには判っていないようだ。

 扉は演出なのか決して早くは開かない。

 光源のランタンは先行するゼンが持っているため壁の向こうの様子が判らない。

 しかし、その雰囲気は生き物のものだ。

 まごうことなき動物のものだった。


「余裕なんかねぇ! あんたも早く階段を登るんだ!!」


「オ、オレも!?」


「早く逃げろ!」


 その声は上半身が天井に隠れていたサスケや、ようやく螺旋階段に取り付き登ろうとしていたゼンにも届く。

 その鋭さ、意味に振り返るゼン。

 訳も判らず命令にも似たその指示に従うジュリーは螺旋階段へ駆け出す。

 天井から「おお!」という低い感嘆の声が降ってきた。

 レイナが現れたことで会場の観客がどよめいたのだろう。

 しかし、ロムの意識は扉の向こうに集中する。

 ゼンは部屋ができるだけ照らされるようにランタンを置く位置を工夫し、良さげな位置に据えると壁を見やる。

 そこにジュリーがやってきて同じように振り返る。

 完全に解放された扉からのっそりと出てきたのは──

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