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始まりの迷宮篇 13 アトラクション(ゲーム)を超えた戦闘遊戯(ゲーム)

 部屋を出た冒険者は通路を進む。

 一つ二つと角を曲がると突き当たりにドアがある。


「次の敵は何だっ!?」


 叫びながら勢いよく扉を開けるジュリー。

 部屋の中央には大型で石像風の、斧を持った人型人形が置いてある。

 扉が開いたことに反応したのか目が光り、斧を振り上げ始めた。


「ストーンゴーレムですね」


 ゴーレムは頂点まで振り上げた斧をブンと振り下ろす。

 その瞬間、ロムの背筋を冷たい怖気おぞけが登った。

 まさに「ゾッ」としたのだ。

 しかし、それはやはりロムだけの感覚だった。

 ジュリーは腰に帯びていたショートソードを引き抜きながらアニメの主人公のように叫ぶ。


「敵は一体、一気に行くぜ!」


 言うと同時に走り出す。

 慣れているのだろう、レイナもレイピアを抜いて挟み撃ちになるようにしなやかに移動する。

 台座に乗せられたゴーレムは自身の身の丈の三分の二はありそうな斧を振り上げながら、ジュリーを正面に捉えるように回転する。


「こいつ、音か何かに反応してるぞ」


 サスケは少し遅れて正面切って戦うことになったジュリーの側に移動する。

 戦闘力に大きな差のあるジュリーをサポートするためだ。

 そのジュリーは、第三階層でのそれまでの戦闘同様相手の攻撃を鎧で受けつつ牽制し、サスケやレイナが倒すのを待つ作戦を実行しようとした。


「レイナ、オレが気を引くからその間に……」


「ダメだ! 受けるなっ、逃げろ!!」


 それまでとは一転、有無を言わせぬ凄みを持ったロムのそれは命令に近いニュアンスが込められていた。

 その凄みゆえにジュリーの気がれ、反応が一拍遅れることになる。

 そこに斧が振り下ろされた。

 反応の遅れは結果としてジュリーを窮地から救うことになった。

 振り下ろされた斧は左腕のPSポリスチレン製アーマーを叩き割り、鮮血が飛び散る。

 斧を受け止めるために踏み込んでいたらどうなっていたか判らない。


「お兄ちゃん!」


 蒼白な顔で叫ぶレイナの声に反応したゴーレムは、振り向きながらレイナに向けて斧を振り上げる。


「レイナ! こっちだっ! こっち向けコノヤロー!」


 後ろからサスケに羽交い締めされながらジュリーが叫ぶ。

 しかしゴーレムは無情にも反応を改める様子がない。

 流血に構うことなくジタバタともがくジュリーを必死に抑えるサスケがいつもの言葉遣いも忘れてジュリーを諭す。


「ダメだ! ターゲットロックされてる!」


 レイナは木偶でくのようにゴーレムを見つめていた。

 体が動かない。

 いや、頭が働かないのだ。

 目の前の出来事に思考が停止し、ただただ斧が振り上げられ、今まさに彼女に向かって振り下ろされようとしているそれを他人ひとごとのように見つめていたのである。


「逃げろレイナ! 逃げろ!」


 兄の悲痛な叫びも届かない。

 最上段に振り上げられた斧が彼女の脳天めがけて振り下ろされようとしたせつ、ぱぁんという乾いた音が響く。

 ロムの掌底が斧頭の側面を撃ち抜いたのだ。

 ゴーレムは軸がぶれ、斧の遠心力に振り回されるように横倒しにどうと倒れる。

 刃先がわずかにレイナの袖口を掠めていった。

 ゴーレムの倒れた大きな音に我に返ったレイナの目の前には、彼女を庇うように立つロムの大きな背中があった。


「完全に動きを止めないとジュリーの手当てができんぞ」


 サスケの声に反応し視線を下に向けるとゴロゴロと地面をのたうちながらキリキリと斧を振り上げては下ろすゴーレムが動いている。

 ロムがかなり無造作に近づき、やおら斧頭を両手で掴むと片足をゴーレムにかけてその握る手から斧を引き抜いた。


「ロム?」


 左前腕の傷口を押さえながら眉根を寄せるジュリーの表情は、ロムの行動に対してなのか痛みに顔をしかめているのか?

 ロムは無言で斧を振り上げると力任せにゴーレムめがけて振り下ろす。

 粉々になるまで何度も何度も振り下ろす。

 サスケはテキパキと傷口を確かめ、腕を動かし、ジュリーに具合を訊く。


「動脈は大丈夫。神経も問題なさそうでござるな」


「助かった……」


 安堵のため息をつくジュリーにサスケは間髪入れずに言った。


「助かってはござらん。応急で止血はするが消毒もできぬし、傷が深い。重傷でござるぞ」


 懐から取り出した帯状の布と脚絆きゃはんの裏から取り出した膏薬こうやくらしきペースト状のもので手早く処置する。


「いくら何でも危険すぎないか? この斧、刃が研いであるぞ」


 ゴーレムを破壊し終わったロムが四人の前に近づきながら斧を見せる。

 見た目からして作業用の斧とは一線を画した戦斧だ。斧は柄の長さだけでも百四十センチ(実際には十四センチ)はあり、半円形の斧頭は刃渡りで七十センチには達していそうである。


「確かに」


 ゼンがランタンを近づけてまじまじと斧を観察しながら呟く。


「リアリティを追求するにしてもゲームとしての安全性に問題がありますね」


「そういえば二階でこのゲームに違和感があるって言ってたよね?」


 レイナがロムに問いかけた言葉を聞きとがめ、ゼンがロムを見据える。


「違和感?」


「ん? ああ、RPGには詳しくないしミクロンダンジョンは初めてだからうまく説明できないんだけど……どんなにリアリティを追求していたとしても『ゲームにはゲームとしてのゲームらしさ』ってのがあると思うんだ」


 彼は言葉を選びながら訥々(とつとつ)と自分の中の違和感を、自身の感覚を思い出すように説明して行く。


「一階じゃ感じなかったんだけど二階を進むうちに違和感に気づいて……」


「第一階層と第二、第三階層で何か違いがあるということですね?」


「あるな。一つ決定的なやつが」

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