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始まりの迷宮篇 12 ゲームとしての違和感と戦士の勘

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 第一階層同様、奥への通路が開かれる。

 ロムは先へ進む四人ではなく、機能停止している魔女の人形を難しい表情で見つめていた。

 それに最初に気づいたのはレイナである。

 レイナに漫画のキャラクターのような「気」を感じる能力などがあるわけではない。

 しかし、その時のレイナは確かに「気」づいた。

 ロムが付いてこないことに。

 レイナが立ち止まり、振り向いたことで先頭を歩いていたジュリー以外の二人もロムを振り向く。


「どうしたのですか?」


 ゼンが尋ねたことでジュリーも気づいて振り返る。


「ミクロンダンジョンってのは、こんなに危険なゲームなのか?」


 率直な感想だ。

 それまでの遭遇した(エンカウント)敵キャラ(エネミー)と違い、この魔女は下手をすると怪我どころでは済まない攻撃力を秘めていた。

 そんなロムの疑問にゼンは少しズレた答え方をする。


「確かにT社S社E社のミクロンダンジョンをプレイした経験から言えば、最新技術でよりアクション性を求めたこのダンジョンの難易度は少々高いですね。しかし、試作品というのは往々にしてゲームバランスなど細部の調整が甘いものです。我々のような招待をされた人間は、テストプレイヤーとして不具合を報告する……そんな役割もあるのですよ」


「そーだな、魔女のスピードは難易度が高すぎるって報告しなきゃなんねぇだろう。さ、先を急ごうぜ。時間がもったたいないぜ」


 ロムには釈然としない想いだけが残った。

 STシューティングゲームを得意ジャンルにしているロムはロールプレイングゲームに関してはそれほど深い知識を有していない。

 ゲームオタクとしては、もちろん大作と言われるいくつかのコンシューマーゲームをプレイしているしRPGの面白さの本質くらいは判っているつもりだ。

 テーブルトークロールプレイングゲームというジャンルがあることも知識としては知っている。

 その範囲の中であれば確かに特に不自然さはない。

 ゼンの言うようにゲームの試作品にバグや難易度設定に詰めの甘さが存在することも理解している。

 しかし、ロムが感じているのはそれらとは違う。

 そんな漠然としたモヤモヤを抱えるロムなどにお構いなくダンジョンアタックは先へ進む。

 第三階層はロムの感覚から見ても非常にバランスがいい。

 程よく分岐した迷宮ダンジョンと巧妙に配置されるトラップ遭遇エンカウントする怪物モンスターはバリエーション豊かだ。

 ゲームデザイナー安田良の面目躍如といったところか。

 そんな第三階層も終盤に差し掛かる頃、戦闘が終わった後のわずかな休息中にジュリーが何気なく呟いた一言がゼンを思考モードへと変えてしまう。


「この部屋にもアイテムなしか?」


 それは、倒した怪物を物色しているサスケに対してのものだった。


「うむ、宝箱どころかモンスターからも何も出てこぬでござる」


「変……ですねぇ」


 彼は、眉間にしわを寄せて杖の頭、節くれだった木のこぶのような部分でこめかみをトントンと叩きながらブツブツと思考を声に出し始める。


「ダンジョンを攻略するのにアイテムを必要としない……。RPGの作法からすればアイテムの取得というのもゲームの欠くべからざる構成要素だと思うのですが……最初に手に入れたこのランタン以外、特に必要なものがないなんて……いや、アイテムを仕込む手間を考えればなくは……」


 側から見ると不気味にも映りかねない、いやはっきり不審なそれを横目にレイナに近づいたロムは彼女にこう訊ねた。


「なぁ、何一人でブツブツ言ってんだ?」


 思ったことをすぐ口にしてしまうのはロム自身よくないことだと判っているのだが、なかなか治らない癖のようなものだった。

 しかし、時には有効な働きもする。


「ああ、多分『ゲームならこうあるべき』みたいなことを考えてるんじゃないかな? ゼンさん仕事でTRPG? とかいうゲームのシナリオを作ったりしてるんだって。見ての通り戦闘には一切参加してくれないけど、謎解きとか頭を使う場面の担当なの。……独り言はちょっと気になるよね」


 と、彼女は屈託ない笑顔をロムに向ける。


「ちなみにお兄ちゃんはRPGは好きだけど考えるのは苦手なタイプ。理系の大学生なのにね」


 そんなジュリーは一人ブツブツと呟き続けるゼンを無視してサスケと何やら話し込んでいる。


「君はどうして一緒に参加してるの? 言っちゃなんだがあの三人と一緒にいるタイプとは思えないんだけど」


 言われてレイナは苦笑まじりにこう答えた。


「佐藤さん……サスケさんもあんな見た目だけど運動が得意じゃなくて……」


「おいおい、年下の女の子用心棒にしてんのかぁ?」


「あ・それ言っちゃう?」


 実際、このフロアの怪物はその大半をロムとレイナで倒している。

 二人は目が合い、クスリと笑った。


「でも……」


 と、ロムは言った。


「このゲームには確かに違和感がある。RPGは専門じゃないから『どこが』と訊かれても答えられないけど、なんか危険な匂いがするんだ」


 そう言われてレイナは少し表情を曇らせた。


 実のところレイナはオタクではない。

 ゲーマーでさえない。

 いたって普通の少女だった。

 ただ、運動は得意でクラスでも割と上位の成績を収めている。

 本人がロムに言った通り、運動が苦手な三人の代わりにこのアスレチックゲームをクリアするために手伝っているに過ぎないのだ。

 もちろん、生まれた時からコンピューターが身近だった世代であり、兄がゲームオタクでもあったので小さい頃からゲームは色々とやってきた。

 が、ただそれだけのこと。

 ゲーム的な違和感だのと言われても全く判らない。

 しかし、ロムの言葉は気になった。

 彼の身ごなし、強さは格闘技の素養を感じさせる。

 そのロムが違和感を感じるというのだ。

 戦士の勘が警鐘を鳴らしているのである。


「敵キャラも武器振ってるし、怪我しないように注意しなきゃな」


 深刻な顔でうつむいていたレイナは三人に呼ばれて歩き出したロムの後を追う。

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