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始まりの迷宮篇 10 どのフラグが立った!?

 冒険者は先へ進む。

 第二階層はダンジョンとしては平易な一本道構造だった。

 しかし、完全に戦闘に特化したシナリオ設計がなされていて「速やかに」「効率的に」怪物を倒し先へ進む必要があるスピードと体力勝負のダンジョンになっていた。

 待ち受ける怪物は遭うごとにその行動パターンを増やして行く。

 腕を振り回すヤツ。

 台座の上で左右に揺れるヤツ。

 怪物特性を活かしたものもあった。

 例えば骸骨戦士スケルトンは胸骨の奥、心臓部に配置されたセンサーを直接攻撃しなければ倒せなかったし、ケルベロスは三つの頭それぞれにセンサーがついていて全てヒットしなければ倒せなかったりといった具合だ。


「次は何だこんにゃろう!」


 ジュリーが無造作に扉を開けると、バネ式の発射音がして四本のミサイルが飛んで来た。


「ぬおっ!?」


「ぐぬっ!」


 一本は真正面からジュリーの額に、一本は筆記具を握るサスケの右手の甲にそれぞれ直撃。

 残りの二本のうち一本はロムが難なくかわし、最後の一本はロムに肩を引き寄せられたレイナの居た場所を通り過ぎる。


「──ってぇ……何があった?」


 額に出来たコブを痛そうに気にしながらジュリーがゼンに問いかける。

 サスケは手がしびれているのか落とした筆記具を拾いあぐねている。

 ゼンは扉と部屋の中、ミサイルの飛んで来た壁を調べると言った。


「ドアを開けるとおもちゃのミサイルが飛び出す仕掛けだったようですね。TRPGによくあるトラップですよ。戦闘続きでトラップのことを忘れさせられていました。ゲームマスター的にはしてやったりでしょうね」


 人をたばかる心理的な罠の配置について三人が唸っている横で、レイナはモジモジと上目遣いでロムを見上げる。


「あの……」


「ん?」


「ありがとう」


「あぁ。まぁ、とっさにやったことだし……肩、痛くなかった?」


「…………うん」


 頷いたレイナはそれきりモジモジとうつむいたままでいる。

 やがて、痛みの和らいだジュリーが自分の額を強打したおもちゃのミサイルを拾い上げ、ふるふると鉛筆のように振ると舌打ちをしてこう言った。


「この先これより過激なのがあったりして?」


 半分は冗談だった。

 少なくともジュリーはそのつもりだった筈だ。


「怖いこと言わないでくださいよ」


 ゼンが肩をすくめてみせる。


「でも、気をつけた方がいいよね?」


 歩き出すジュリーを追ってレイナが声をかける。


「あぁ、痛いのは嫌いだ」


 彼らは知らない。

 それが現実のものになることを。

 今はまだ。






「このフロアで通路が曲がっているのは初めてですね」


 ゼンの言う通り、第二階層の通路はここまで部屋と部屋を結ぶ直線でしかなかったのだが、ここに来て数ブロック先で左に折れている。


「フラグぷんぷんだな」


 曲がり角まで来たジュリーは抜き身のショートソードを右手に構え、ゼンから受け取ったランタンと一緒にそっと顔だけのぞかせる。

 通路はかなり長いのだろう、光が届かず先が見えない。


「拙者のマッピングが正確なら、この先直線で突き当たりがこのフロアのゴールになるはずでごさる。ただこのフロア、モンスターの制御の都合だと思うが空白が多くてトラップの予測がしかねる」


 書き込まれた地図には確かに通路と部屋の他にいくつもの空白が存在する。

 それは怪物モンスターにつながる制御棒やトラップの仕掛けを用意するための空間だったり(実際書き込まれた地図にはサスケの注釈として「ミサイル発射用の仕掛けのため」などと書かれている)、罠のカモフラージュに配置されている本当にただの空間(デッドスペース)だったりするのだ。

 ロムが覗き込んだ地図にも通路そばにいくつかの空間が見て取れた。


「仕方ねぇ、『慎重かつ大胆に』それがダンジョンアタックだ」


 ランタンをゼンに返したジュリーはいくぶん強張った面持ちで先に進む。

 ロムは右の壁、折れた通路では背後に当たる壁のレンガをランタンの揺れながら遠ざかる明かりを頼りに目を凝らす。

 地図にはあからさまに怪しいデッドスペースがあった。

 巧妙に隠された縦の線が天井まであるように見えなくもない。

 しかし、それ以上は調べようがない。

 他のみんなはとうに先に進んでいる。

 仕方なく彼らに追いつくべく歩く通路は、それまでの床と違い随分と歩きにくかった。

 それまでの床は怪物が乗せられた台車がスムーズに移動できるようにという配慮もあってか非常に平ら(フラット)で歩きやすかった。

 ところが角を曲がったところからこの道だけは妙に凸凹でこぼこといびつにレンガが組まれている。


(みんなは気づいているのか?)


 それはゆうであった。

 その変化にはちゃんと他の四人も気づいていた。

 あまりにも不自然だ。

 ただ、なぜこんな不自然な細工をしているのかがわからないでいた。


「見えて来たぜ」


 通路の突き当たり正面に例のキーパッドが見えて来たとき、それは動き出した。

 背後の暗がりで何かが立てるかすかな電気駆動音だ。

 次いで電動自動車のようなモーターとゴムのタイヤで悪路を走って迫りくる音。


「よけろ!」

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