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ラストダンジョン 14 こっちの駆け引きはロムに分がありヒビキに不利で

「ロム……」


 ヒビキがレイナの肩を借りて近づいてきた。

 二人とも洗いざらしの濡れた髪が色っぽい。


「あぁ……」


 と、ロムが横を向く。


「あっ……」


 と、レイナが顔を赤くして心持ちヒビキの後ろに隠れるような位置になる。


「ありがとう」


 と、ヒビキが手を差し出す。

 視線の向ける場所に困ったように目を泳がせながら、ロムはその手を握り返した。


「見られたかな?」


 そこは大人の女性ということか。

 敢えてそこに踏み込んでくる。


「あー……まぁ、じっくり見たつもりはないんだけど……その……うん」


「そうか。気を失っていた間のこととはいえ、そうと判ると恥ずかしいな、やっぱり」


 ちらりと伺ったヒビキの顔も少し赤い。

 化粧品の用意ができないこの世界では、誰もが素顔(ノーメイク)である。

 際立って整った顔立ちはまさに顔でも別()ぴんだ。

 そんなヒビキが恥じらえば大人の魅力の付加価値がつく。

 ましてちらりと一瞬だったとはいえ、一糸纏わぬ姿を見ているロムの脳裏にはチラチラとその姿が浮かぶ。

 小刻みにふるふると首を振り、頭の中からイメージを追い払うと、辺りを見回す。


「俺は悲鳴を聞いてここに来たわけだけど、他のメンバー誰も来てないね」


「ああ、ある意味ありがたいけど、どうしたんだろうね」


「……と、とりあえず。こいつ縛っとこうか」


 言葉の向こうにある意味で再びイメージが湧き上がるのを無理やり押さえ込んだロムは、ヒビキに手伝ってもらってシュウトを縛り上げる。


「レイナは大丈夫だったのか?」


 ヒビキに問いかけられたレイナは消え入りそうな声で「ひ……ロム……に助けてもらったから」と答える。


「そりゃよかったな」


 ヒビキはレイナの仕草でおおよそ察しがついたらしく、それ以上追求することはしなかった。


「それにしたって確かに他の連中はどうしたんだって話だよね」


「もうしばらく待って誰も来ないようなら、移動します?」


「そうしようか、ね? レイナ」


「え? うん。お任せで」


 三人は荷物を片付けて一箇所に集める。

 ジュリーたち三人は冒険者らしく荷物を持ったまま移動しているのでここにはない。

 クロとコーの荷物も毛布などキャンプ用具の類が置いてあるくらいで、武器や食料、応急セットなどは持って歩いているようだ。

 このあたりは流石と言えるかもしれない。


「なんだかんだでコーちゃんも冒険者だね」


「あいつはどうする?」


 移動するために荷物を振り分け終わった時、ロムがシュウトに顔を向けて言う。

 まだ意識を失ったままのようだ。


「ここは安全地帯のようだ。君たちが言っていたようにゲームの作法みたいなものに則っているんだとすればここに残していても大丈夫じゃないのか?」


「そうですかね?」


「人道的にどうかと自分自身思わなくもないが、たとえ怪物に襲われてもと思っているんだ」


「率直ですね」


「君はそう思わないのかい? ロム」


「一緒に居たくないってのには同意しますけどね」


「レイナはどう思う?」


「え?」


 ヒビキにふられて戸惑うレイナをおもんぱかってか、ロムが助け舟を出す。


「配慮不足ですよ。ヒビキさん」


「ああ、そうだな。レイナに聞くことじゃなかったかもしれない」


「縄はほどいておきましょう。最低限の良心として」


「武器はどうする?」


「まぁ、モーニングスターはこいつのもんですし、取り上げちゃうと怪物と戦えませんからね」


「案外お人好しだな、君は」


「何度やっても負ける気しませんし」


 さらりと言ってのけるロムを見て呵々と大笑しながら、ヒビキはレイナの腰を抱える。


「どう思う? レイナ。こんな男」


「ヒビキさん!?」


 慌てて抗議するレイナの仕草が年相応で、ロムはなぜかホッとした。

 初めて会った時からどちらかといえば控え目でおとなしい女の子だと思っていた。

 兄の友達とはいえ、男ばかりの中にいたのと初対面の自分に遠慮していたのもあるだろう。

 ただ、そんなところが自分の知っている明け透けで、ともすればガラの悪い印象を与えてくる同年代の女の子たちとは違っていて新鮮と言うか、好ましいものという感慨があった。

 再会したレイナは過酷な環境によるものか、大人しいという印象以上に老成した印象があった。

 ヒビキや同居していたマユとのたわいない会話にも十代の少女というよりヒビキたちと同じ「お姉さん」の雰囲気みたいなものを感じていた。

 だから今目の前で十代の、思春期の少女らしいレイナに自身の恋心を刺激されていることを自覚する。


「実際どうだろう? レイナちゃん」


 などと笑いながらいうロムにレイナは顔を真っ赤にして拗ねてみせる。


「ヒロムくんまで……もう、知らない!」


(ヒロムくんときたか)


 と、思いつつヒビキはさらに意地悪したくなり、こう追い討ちをかけた。


「自分で聞いといてなんだけど、やめといたほうがいいぞ、レイナ。こいつなかなかの女たらしと見た」


「あ。ひどいな、ヒビキさん。コーさんに言いつけてやる」


「な、なんでコーなんだよ」


「え? だめですか?」


 この手の会話では芸能の世界にいながら思いの外スレていない恋愛に奥手なヒビキより、確かにロムの方が一枚も二枚も上手なようだ。

 クロではなくコーを引き合いに出すことでジョークを装いつつ、しっかりと色恋の牽制をしてきた。


「行きましょ、ヒビキさん」


 しどろもどろになるヒビキに助け舟を出したのは、ことの発端とも言えるレイナだった。

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