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ラストダンジョン 11 獅子奮迅の代償

 レイナが到達したとき、それまで気づかなかった戦闘音が通路の先、曲がり角の向こうで聞こえてきた。

 急いで剣を抜き駆けつけると、そこには累々と倒れる怪物たちのしかばねがあった。

 ざっと見ても十や二十ではない。

 通路としては幅の広い空間とはいえ、所詮通路である。

 クロ、コー、シュウトが横一列の壁となって全身血みどろで武器を振るっている。

 シュウトも流石にモーニングスターでは戦えないと踏んだのか第二階層で敵から奪った釘打ち(スパイク)棍棒クラブで応戦している。

 乱戦の奥を見通すと、まだ十数体がいるようだ。

 その後ろからサスケが戦利品のダガーなどで戦闘補助をしている。

 彼女の体を怖気おぞけが走る。

 視線が素早く通路内を見回し、ロムを抱えて中腰になっている兄ジュリーを見つけ出すと屍をかき分けるように近づいていく。


「お兄ちゃん」


「おお、コーさんが押され始めてる。代わってやってくれ」


 荒い息の中ぐったりしているロムの容体は気になるが、今はそれどころではなさそうだ。

 レイナはグッと奥歯を噛み締めると、腹から声を出して戦線に突入する。

 レイナの参戦から数分後、ゼンとヒビキが到着し、シュウトの代わりにヒビキが入ってさらに数分。

 彼らはようやく敵を全滅させた。

 ゼンが数えたところによると総数五十二体。

 誰もが無傷ではいられなかった。

 サスケも、ジュリーもクロが呼吸を整える間、何度か戦線を支えいた。


「何があったんですか?」


 幾らか余力が残っていたヒビキが通路の先の安全を確認しに行く。

 その先には第二階層の終りを告げる階段があり、彼らは戦闘跡を離脱。

 第三階層の最初の小部屋(セーフティルーム)で持っていた水を全て使い切って全身を洗浄し、包帯を巻くなどする間、ゼンがクロに経緯の説明を求めたのだ。

 それによると、クロが来た時にはすでにロムが通路を埋め尽くす怪物たちと戦っていたのだという。

 つまり、少なくともロムはクロが来るまでの数分間をたった一人で持ちこたえていたことになる。

 それもこの広い通路で一体も通さずに、罠を抜けてくる仲間のために安全を確保し続けていたのだ。

 それがどれだけ至難の技か、この場に判らない者などいない。

 コーが来て、シュウトが到着し交代するまでロムは戦い続けていたというのだから、ゼンはその鬼神の如き活躍に肌が粟立つ。


「で、容体は?」


 ヒビキは手当てに当たっているレイナとサスケに心配そうに訊ねる。


「体力的に相当消耗しているが怪我の程度はそこまでひどくない」


「よかった……」


 レイナが包帯を巻きながら涙ぐむ。


「しかし、深刻だな」


「何がだ?」


 クロの呟きにシュウトが反応した。


「水を使い果たした」


 この旅のために彼らは一人当たり飲み水換算で一週間分用意してきたつもりだった。

 それ以上持てそうになかったというのもあるが、それだけあれば十分足りるだろうと誰もが思っていたからだ。

 ところがどうだ。

 度重なる戦闘で怪我の手当てのためにも水を使い、気づいたら使い切ってしまっていた。

 人は食べ物はなくても一週間は生きていられるという。

 しかし、水はなければ二日と持たないと言われている。


「大丈夫だと思います」


 と、言ったのはようやく落ち着いたロムだった。


「根拠は?」


「ここがゲーム世界だからです」


「言っている意味が判りません」


「ゼンが言ったことだろ?」


「私が?」


「意図を持って作られてるって」


「確かに言いましたが……」


「なるほど、RPGとして作られているのならそろそろあってもおかしくないな」


 合点のいったジュリーが呟く。


「何がだよ」


 コーが訊く。

 それに答えたのはサスケだ。


「回復の泉」


「現実世界にそんなもの」


「確かに回復の泉なんてものはあり得ないにしても、こんな大規模なダンジョンでプレイヤーのフォローをしないマスターとは思えないんだよね」


「それは楽観に過ぎないか?」


 ロムの考えにはヒビキも賛同しかねるようだ。


「どのみち先へ進む以外に手はないわけで」


 と、ロムは立ち上がる。


「焦らず急ぎましょう」


「その前に現在の状態を確認しましょう」


 と、ゼンが手を広げる。

 怪我の程度と持ち物、特に装備品の状況を確認しようという提案だった。

 全身を覆うジュリーの鎧はミノタウロスの体当たりにも耐え、損傷はいたって軽微だった。

 ジュリーの鎧を参考に急ぎで作らせたクロとコーの鎧も簡易ながらその防御力を遺憾無く発揮していた。

 実力差によるものかコーの鎧の方がダメージがあるようだが、防御力を損なっているわけではない。

 サスケの防具は忍び装束の中に着込んでいる鎖帷子でこちらも壊れている様子はない。

 もっとも鎖帷子は刃物を通さないのであって打撃を通さないわけではなく、あちこちに打撲の痣が見て取れる。

 ロムとヒビキは鎧というよりプロテクターであり、拳法家が防御に利用する前腕と脛のプロテクターがそれなりに傷ついているくらいだろう。

 戦闘では主に二列目で支援を担当することが多いレイナの鎧はその立ち位置の関係か回避技術の高さなのか、怪我の程度も他のメンバーより軽いようだ。

 損傷の一番激しいのはシュウトの鎧だった。

 九人の中で唯一、カスタマイズがなされていない街支給の軽鎧だからか、戦闘スタイルが攻撃に偏重していることにも起因しているようだが、防御を鎧任せにしているとしか思えない。

 それでいて鎧のない場所は目立った怪我をしていないのだから天才的な戦闘バトルセンスというべきなのだろう。

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