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ラストダンジョン 09 負傷

 雄叫びを聞きつけた仲間が部屋に入ってくると、彼らは一様にミノタウロスに瞠目する。

 壁の向こうから部屋へと入ってきたミノタウロスは鼻息も荒く冒険者たちを見回すとダッと駆け出し、ジュリーに体当たりをかます。

 その俊敏さに身構える以上のことが許されなかったジュリーはその強烈な衝撃に失神してしまう。


「お兄ちゃん!」


「コー、レイナ。入り口付近でゼンを守れ!」


 クロの指示で三人は素早く動く。

 その間にサスケがロムに守られるようにジュリーに近づき、手早く診断する。

 幸いと言えるのか、ジュリーに大きな外傷は見られない。

 鎧が彼を守ってくれたようだ。


「脳震盪でござろう。運び出したいところだが、ダメージが判らないので不用意に動かしたくないでござる」


 ロムは牽制のために槍を振って威嚇しているヒビキと星球式槌矛モーニングスターを振り回しているシュウトを見やる。

 あの強く殺気を放っているミノタウロスに一人で挑むのは無謀だ。

 しかし、二人の武器は、特にモーニングスターはうまく連携しないと味方にダメージを与えかねない。

 今はまだ互いに牽制している段階だが、ミノタウロスの方にイラつきが見られる。

 人間同士の戦いなら好都合とほくそ笑むところだが、戦闘力の計り知れない怪物相手に楽観はできない。

 ジュリーを一撃で倒した突進力も侮れない。

 ロムなら避けられないものではないが、狭い空間では逃げられない状況にならないとも限らないからだ。

 どう攻略するのがいいか?

 それはクロもヒビキも考えていたことだった。

 しかし、結論が出る前にミノタウロスが行動を起こす。

 頭を低く下げるとシュウトに突進した。

 頭を下げた時の向きで自分に来ると直感したシュウトは、横にステップしながら頭めがけてモーニングスターを振り下ろす。

 星球がミノタウロスの背中に直撃すると、怪物はり吠える。

 しかし、分厚い筋肉は鎧の役目を果たしたようでいつものように一撃必殺とはいかなかった。

 そして、半端な攻撃によってミノタウロスの怒りに火がついた。

 彼は、東京のダンジョン以来の戦慄を覚える事になる。

 命の危険を強く感じたのだ。

 攻撃を受けたミノタウロスは暴れ牛のようにシュウトだけを執拗に狙い突撃を繰り返す。

 シュウトは煩わしさからあまり体を防具で覆っていない。

 申し訳程度で胸にプロテクター、腕のガードと脛当てをつけている程度。

 全身を覆っているジュリーと違って直撃など受けるわけにはいかない。

 威嚇に声を上げてモーニングスターを振り回すが怒りに任せて突進してくるミノタウロスはそれらに構う様子がない。

 滅茶苦茶に振り回されるモーニングスターは何度もヒットしているが、力の乗らない攻撃ではミノタウロスが止まらない。

 恐怖がシュウトの体を強張らせ、反応が少しずつ遅れてくる。

 完全に避けたつもりが避けきれず、肩がぶつかり、足が引っかかる。

 足がもつれて倒れ込んだシュウトに狙いを定めてミノタウロスが立ち止まった時、その左右から喉元めがけて槍と棍が突き出された。

 それはどちらも確実に喉を捉え、気道を潰す。

 ミノタウロスが天を仰いで声にならない絶叫をあげる。

 そこにクロが飛び込んできて体重を乗せた斬撃を頸動脈があると思われる場所に繰り出す。

 その両手には確かな手応えが伝わってきた。

 わずかな間がありミノタウロスの首から血が噴き上がる。

 血を出し尽くしたミノタウロスが自身の血だまりに沈んだ後、ジュリーがようやく目を覚ました。


「オレは?」


「大丈夫ですか? ミノタウロスの体当たりをモロに食らって脳震盪を起こしていたようです」


「ああ、思い出した」


 その後ヒビキとレイナがジュリーの状態を確かめ、コーがシュウトの手当てをしている間にゼンを中心に壁の向こうの施設を調べることになった。

 そこは一言で言えば自動化された研究施設ラボであった。

 制御用の機械は外部と繋がっていてそこで操作されていたのだろう。

 ボタンやスイッチなど入力装置は一切見当たらない。

 代わりにゲーム的な意匠としてそれっぽいデザインのコンピューターがいくつかのパネルとランプで、ミノタウロスの生命バイタル兆候サインを表示していたようである。

 そのミニチュアセット然とした外装を剥がしてみると、おなじみの基盤と配線が現れる。


「ジュリーに確認を取るまでもなく、基本的なコンピューターでござる」


「確かにうちのパソコンを開けても大差なさそうですね」


 もちろん目の前に広がっているのは見慣れた基盤ながら、彼らにとっては十倍の大きさだ。


「でも、こっちはパソコンにはないでしょ」


 と、ロムが指差したのは培養液や覚醒用の薬液を注入排出する機械などだった。

 こういった特殊用途の機械は需要が少なく受注生産や特注であることが多い。


「とは言え、ここから判ることなんてほとんどありませんけどね」


 組成などを調べることが出来れば、あるいは出所を特定できる可能性もあるだろう。

 しかし、ここにはそんなものを調べられる装置があるわけもなく、外見から得られる情報などほとんどない。


「お手上げでしょうか」


「そんなことはないぜ」


 と、ジュリーがラボに入ってくる。


「特殊な装置には案外特徴があるもんなんだ」


 言いながら人差し指で配管などを撫でていく。


「軍事チップと違ってこの装置はあっちの国の技術だな。あそこは自国技術にこだわる傾向があるから特徴が顕著だ」


「しかし、あの国は日本とは仲が良くないですよね」


「公式のチャンネルは関係ないだろ。どのみち非合法活動だぞ、これは」


「それもそうですね」


 ゼンはいつもの仕草で思考の海に沈みかける。


「そろそろいいか」


 そこにクロが声をかける。


「よくはないんだけどな」


 と、ヒビキがいう。


「オレなら大丈夫だ」


「大丈夫なわけないだろ。医者に見せたら最低二週間は安静にしろって言われるんだ。環境が許さないから仕方ないけど、戦闘は禁止だ」


「じゃあ、隊列を組み直さなければいけませんね」


「ああ、シュウトも先頭には回せないか……」


 クロはメンバーの顔を見回して眉間にしわを寄せる。

 戦闘力のほとんどないゼンと地図作成マッピングを担っているサスケを移動させるわけにはいかない。

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