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ラストダンジョン 07 残念な男たち

 冒険者の朝は早い。

 夜寝るのが早いからだ。

 一班二時間の見張りは特に問題もなく終わる。

 最後の見張りだったクロとシュウトに起こされたメンバーは、野営の後始末や食事などを済ませて隊列を組む。

 ジュリーが扉を開けると冒険者たちは通路の先へと進み出した。

 殿しんがりのコーが前を行くレイナに声をかけた。


「なぁ。昨日見張りの時、何を話してたんだ?」


「え?」


 振り向くレイナの頬がわずかに赤くなるのを隣を歩いていたゼンが見とめる。

 誰にも気づかれていないようだったが、先頭を歩くヒビキの耳も真っ赤になっていた。


「ど、どうして?」


 心の動揺が言動に繋がっているのだが、朴念仁の多いパーティでそれに気づける男どもはいないようだ。


「どうしてって、なんか様子が変だったというか何というか……」


 見張りの交代の際、コーはレイナに起こされた。

 その際の挙動が何となく不自然に感じたのだ。

 どこがどうとは言えない辺り、人気俳優といえど恋愛経験の乏しさゆえにその原因に見当をつけられないようだ。

 ところが同じ、いや、彼以上にそっち方面に疎いだろうゼンが期せずして核心に迫る疑問を口にする。


「そういえば、コーさんを起こすのがレイナちゃんというのも不思議ですね」


 その質問は人生経験の豊富なクロに明確に理由を判らせた。

 彼はニヤニヤと笑い出すと、前を行くヒビキに対して意地悪く質問する。


「そうだな。普段ならヒビキがコーを蹴飛ばして起こすんじゃないか?」


「ク、クロさん!」


「そういえばそうだなぁ。まぁそういう意味でレイナちゃんに起こしてもらってありがたかったわけだけど」


「コー」


 ヒビキがどすの利いた声で語尾を上げるように彼の名を呼び、コーが思わず肩をすくめる。


「おお、怖い怖い」


 通路の途中で扉を見つけるが、サスケの発案で地図の作成を優先する。

 朝一番で体が温まっていないうちに戦闘になることを避けるためだ。

 通路地図を完成させることになったため、ゼンはこの時間を利用して昨日のロボットを調べた結果を報告することにした。

 ロボットには一般市場に流通されていないパーツが多く、ジュリーの発見したパーツから某国の軍事技術をベースにカスタムスクラッチされたものだろうということ。

 弱点になる部分をあえて組み込んであり、プログラムがミクロンダンジョンというゲーム用にチューンされていなければ勝てたかどうか怪しいことなどを出来る限り平易な言葉(と、本人は思っている)で説明した。


「つまり、動く鎧(リビングアーマー)は本当ならもっとずっと強かったってことか?」


「ああ、パーツ強度だけ見ても戦闘で破壊するのは並大抵の攻撃じゃ難しかったと思う」


 先頭を歩くジュリーが後ろを振り向かずにコーに答える。


「構成パーツの八割が一般市場に流通していないものだったことも踏まえればもっと滑らかで俊敏に動かせたはずだ」


「あれよりもか!? あれ相当なものだったぞ」


「私もミクロンダンジョンで今まで見てきたロボットの中ではトップクラスの動きだったと思いますよ。市場で手に入るカスタムパーツで作られていたのであれば、間違いなくベストチューンと称賛します」


「含みがあるな」


「ええ、軍事目的のロボットパーツであの程度じゃ、三流技術です」


「確かに俺たちが攻撃入れられるようじゃ、戦場で使えないよな」


 この一年、毎日欠かさず剣を振り続けてきた成果は確実にある。

 実戦経験も積んできた。

 そこには確かに自負がある。

 しかし、ジュリーはそれで歴戦の戦士でございと自惚れられるほど実力を過信してはいない。

 今この九人の冒険者の中でいえば、戦闘能力を度外視しているゼンと戦闘力を護身に振ってるサスケの次であり、他の連中と比べ大きく劣っている。

 街での評価だっておそらく上位の戦力とはみなされないだろう。

 そんな彼の攻撃が曲がりなりにも決まるようでは戦闘ロボット失格ではないか。

 そう評価しているのだ。


「以前も話したと思いますが、この世界の設計者はゲーム世界であるという設計思想でダンジョンもモンスターも作っています。RPGらしくレベルという概念で配置するモンスターの強さを調整しているのも見て取れます。そこに何の意図が、どんな目的があるのかは知りませんが、多分その謎を解き明かすのが我々の使命です」


 行ける範囲の通路を地図に書き込んだ冒険者は、二日目の冒険を本格的に始める。

 最初に開けた部屋は例によって怪物がひしめいていた。

 みんな昨日より全体として体が重かったが、だからと言って遅れを取るほどのものではない。

 しかし、安全のため戦闘後の休憩を長めに取ることを取り決める。

 二つ目の扉の中は独房のような場所だった。

 便所があり水瓶が置かれ、藁の上に麻のシーツをかけられた寝床がある。


「……」


「……」


 レイナとヒビキが顔を見合わせ何か言いたそうにしているのに気がついたロムはトイレ休憩を提案し、順番に部屋で用を足すことになった。

 最初にヒビキが、次にレイナが用を足し、コーが入ろうとしたところでヒビキに止められる。


「なんだよ?」


「エチケットでしょ」


「なんのエチケットだよ?」


「そんなだからモテないんだよ」


「ウッセェな、何が問題なんだよ」


「ここで言わせる気?」


「言わなきゃ判んねぇだろ」


 そのやりとりを顔を赤くしてうつむきながら聞いているレイナの横でロムが頭を掻く。

 ジュリーがレイナのそばに寄ってきて話しかけようとしたところでロムが声を掛ける。


「ジュリー、先に入りなよ。コーはまだ時間かかりそうだから」


「ん? ああ、じゃあそうするか」


 と、ジュリーがあっさり中へ入るのを見てまたコーがヒビキに文句を言いだす。


「ホラ見ろ、ジュリーが入っちまったじゃねぇか。あいつは良くてオレはダメなのかよ」


「……ロムを見習え!」


「なんでそこでロムが出てくんだ!」


 二人がそんな痴話喧嘩をしている間にジュリーが出てきてサスケに耳打ちをする。

 サスケは頷いて部屋に入っていった。


「何かあったんですか?」


「ああ、まぁ……勘、かな?」


 ジュリーとゼンの会話に注意を払いつつサスケを待っていたロムは、出てきたサスケの覆面越しの表情からジュリーの勘が正しかったことを知る。

 入ろうとするコーを止めてサスケは言った。


「恥ずかしかろうがもう一人誰かと入るべきでござる」


「なんでだよ?」


「部屋に仕掛けがござった」

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