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ラストダンジョン 04 パワープレイ

 ゼンの指摘通り、隠し扉は通路の行き止まりの床面にあった。

 壁の一部に不自然な三つのくぼみが見つかったので、そこに手に入れた宝石をはめ込むと床が開いてくだり階段が現れたのだ。

 第二階層に降りると想定通り最初の小部屋(セーフティルーム)になっていた。

 準備を兼ねて三十分程休憩をした彼らは第二階層の探索を始める。

 第二階層は第一階層とは打って変わって単純な構造で出来ていて、通路は複雑さのかけらもない代わりに扉が六つ。

 それが彼らを悩ませた。


「ミクロンダンジョンの規格通りならある程度第一階層の地図を参考に類推もできるのですがねぇ」


 ゼンがため息交じりに呟いた通り十分の一であったとしてもオープンセットや室内設置された規格品と違い、直接地面を掘って作られた本物の地下迷宮ダンジョンである。

 どれほどの空間が広がっているのか皆目見当がつかない。


「とにかく虱潰しだろ?」


「簡単に言いますけどね、ジュリー。階層一つ潜ってるんですよ」


「ああ、それはやばいな」


「どう言うことだ?」


 クロが問う。


「RPGの世界では地下に潜るほどLVレベルが上がるんです」


「それ端折はしょりすぎ」


 ロムに突っ込まれてゼンは説明をし直す。

 ロールプレイングゲームにはレベルという概念がある。

 一般的には強さの数値化として認識されている物であり、主にキャラクターの成長を実感できる仕組みである。

 そしてこの目に見える指標がゲームを継続するモチベーションにもなる。

 実はこのレベルの仕組みはゲーム全体に施されていて怪物モンスタートラップなどにも適用されており、ダンジョンにおいては次の階層へ移動するということはすなわち難易度レベルが上がることを意味しているのだ。


「つまり、より強い怪物が出るってことか?」


「RPGの文脈で言えばその可能性が高いです」


「それは厳しいな」


「それだけじゃないと思うな」


 コーとゼンのやりとりに割って入ったのはロムだった。

 あくまでも自分の勘であると断ってからこう言うのだ。


「ゲームエクスポのダンジョンと同じ流れじゃないかと思うんだ」


「──というと?」


「あー、だからパワープレイ……だっけ?」


「なるほど。コンセプト、ダンジョンを作った作者の設計思想が感じられるのでござるな?」


「ってことはやすりょう作ってことか?」


「ジュリー、それは違いますよ」


「え? だってあのダンジョンは……」


「確かに安田良氏による設計となっていましたが、この手の仕事は大抵発注の段階で『こんなダンジョンを』と頼まれるのが普通です」


「そうか、黒幕のコンセプトってことだな?」


 ジュリーが一人で納得している横でヒビキがゼンに訊ねる。


「なぁ、そのパワープレイってのはなんなんだ?」


「戦闘ばかりが続くコンピューターゲームでよく見られるシナリオのスタイルです。ゲームとしてはプレイしている実感が湧くので子供や初心者に喜ばれるのですが……」


 RPGにおいて筋書きを先に進めるための情報収集や日常パート、全然先に進まない謎解きよりも単純明解にしてプレイに参加しているという実感を得られる戦闘は、特に初心者に好まれがちである。

 しかし、実際には戦闘ほど全てにおいて無駄な行為はない。

 現実世界では体力を消費するし時間も浪費する。

 まして怪我でもすると回復薬や魔法一発で治るなどと言うことがそもそもありえない。


「ここじゃそれはまさに死活問題だな」


 と、クロが言う。


「だけじゃありませんよ。油の消費具合から見てあと一、二時間もすれば夕方という頃合いです。そろそろ宿営キャンプのことも考えなければなりません」


「だが、通路で宿営というのも現実的ではござらんな」


「──っても、最初の小部屋に戻るのは早すぎんだろ」


 ここまでほとんど議論には加わろうともしなかったシュウトが珍しく自分の意見を話す。


「確かに。しかもあの小部屋でこの人数は手狭にすぎます」


「でも、死骸の残る中で寝るのも勘弁して欲しいな」


「まったくだ」


 コーに同調しつつもクロは最初の小部屋から近い部屋を順に開けていくことにした。もし、本当に彼らのいう通り『パワープレイ』スタイルの階層ならば、奥へ行くほど強い怪物が出てくるに違いない。

 そう断定しての決断だった。そしてその考えは残念なことに当たってしまう。

 最初の部屋にはゴブリンがいた。

 例によって開錠を合図に仕掛けが働き、室内をゴブリンで満たす。

 その数七体。

 疲労の見え始めたヒビキを一列下げ、代わったシュウトが迎え討つ。

 その嗜虐的な笑みを浮かべながら放つ攻撃は、時として隣に立つジュリーや二列目のヒビキ、クロにも及びかけるほど乱暴で無造作で、破壊力に満ちていた。

 以降開ける扉は全て怪物が送り込まれる部屋になっていた。

 配置されていた怪物は多岐に富んでおり、狼や蜥蜴トカゲなどの獣人や街の防衛戦で強敵だった単眼巨人サイクロプス、彼らが拉致されたダンジョンで最大の試練として現れた様々な合成獣キメラと戦うことになった。

 彼らは疲労による被害を抑えるため前衛をローテーションで勤め先へ進んで行く。

 どの部屋も開けた扉以外に出入り口はなく、冒険者たちは開けては怪物を倒し、倒しては次の扉を開けるを繰り返してとうとう最後の扉の前にたどり着いた。

 流石に連戦で息も上がり、防具のおかげで軽く済んではいるが打撲などの怪我を負っている。

 サスケが扉の罠を調べ解錠する間に息だけは整えて、九人の冒険者は扉の向こうに躍り込んだ。

 中には扉を背にした石像が立っていた。

 ライオンの体に胸から上の女性が乗っており、腕は鷲の翼になっている。

 その姿は古代エジプト王朝の守護者ではなく、ギリシャ神話の怪物スフィンクスのそれだ。


謎解き(リドル)ですね」


 ゼンが呟いたのがきっかけだったのか、スフィンクスの石像は目を見開いて冒険者たちに問いかけてくる。


「汝らに問う。朝には四本足、昼は二本足、夜になると三本足になるのはいかなるものか」


「古典中の古典だな。答えは『人』だ。赤ん坊の時は手と足でハイハイをする。大きくなると二本の足で立って歩くようになり。やがて年をとると杖を使って三本足になる」


 自慢げにジュリーが答えると、スフィンクスはおもむろに立ち上がって場所を譲る。

 石像が背負っていた扉が自動的に開き、その先の通路が口を開けた。


「閉まらねぇのか?」


 そう言ったのはシュウトだった。

 冒険者の視線が彼に集まる。

 誰もが彼の意図を測りかねているかに見えたが、ただ一人ロムだけが思い当たったようで開いた扉を閉じようと試みた。

 しかし、自動開閉の仕掛けはベルト式ではなくギア式であるようで動きそうにない。


「先へ進むしかなさそうだな」


 シュウトが呟いたことでゼンもようやく彼が何を考えていたのか判った。


「スフィンクスに襲われる危険もありますからね。先がどうなっているか判りませんが、行ける所まで行きましょう」


 その先は通路の行き止まりに扉があり部屋の中には怪物モンスターが現れるを繰り返す、危惧通りの一本道だった。

 そんな不毛な戦闘を四度繰り返した後、彼らは再び行く手を塞ぐフルプレートアーマーがあるだけの部屋にたどり着いた。

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