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楽園の攻防戦 14 決意表明

「……好きにさせたらいい」


 クロは言ったがそれはなかなか難しい。

シュウトはその性格・行動に問題があるとしても今や貴重かつ重要な戦力となっている。

会議はおよそここにいる戦士の大半が冒険者となることで決着がつきつつある。

すると彼が街に残れば実質彼が実力最上位ということになるだろう。

実際今の彼の実力はすでにクロ、ヒビキの下。

ロム・レイナと並んで五指に入ると見て間違いない。

いや争いごとを双方で避けているので判らないが戦い方によってはクロにも匹敵するかもしれない。

少なくともレイナは一対一では太刀打ち出来ないだろうと思っている。

が、彼が冒険に出ると言えばそれもまた問題だった。

冒険中の不和は避けられない。

街中であればそりが合わなければ避ける・関わらないという選択肢もあるが、パーティを組んでの冒険となればそうはいかない。

それでもクロは同じ言葉を繰り返す。


「好きにさせたらいい」


「じゃあそういうことで」


 と、タニはまとめに入る。


「冒険に出るのはここにいる八人。明日広場にみんなを集めて今日の話し合いの結果を伝え、明後日出発。シュウトに関しては彼の意思を尊重する……でいいんだな?」


 円卓を囲む面々の顔を見回すとそれぞれが肯定の意思を表わす。

 広場に人々が集められたのは翌日の昼過ぎである。

集合時間に昼食をとり空腹を満たした後を選んだのはタニである。

おおよそ集まることができた住人が揃ったのを見計らって、演説用に組まれた壇上に八人の戦士とタニが上がる。

 騒つく人々を手振りで鎮めたタニがこれまでの街の経緯と昨日の戦果、これからの展望を語ってたびの探索隊を送り出すことを発表した。

 住民の反応は様々ではあったが肯定的な意見が優勢なようにロムは感じていた。

 タニは続ける。

 壇上のタニの後ろに控えている八人を順に氏名フルネームで紹介し、いかに優れているかを力説する。

 そうしてこの冒険によって必ず道が開かれるだろうと演説を結ぶ。


「なかなかにカリスマですね」


 住民が沸くのを見下ろしながらゼンが呟いた。

 その声は顔を向けられた右隣のロムにだけ届いた。


「これだけできれば最悪の事態も、彼らを煽動して防衛戦に駆り出すこともできるかもね」


「怖いこと言いますね」


「でもゼンもそう思ったんでしょ?」


 そう問われたゼンは言葉を濁して苦笑で返す。

 集会は探索隊のリーダーを任されたクロの決意表明が続く。

 こちらもなかなかどうして堂に入っており、高揚感と期待感を煽る。

 これにはゼンの左隣に立っていたサスケが反応した。


「さすがは自分で舞台脚本を書く役者でござるな」


「ええ、いいスピーチライターであり、さすがは演技派で鳴らす俳優ですね」


 タニが今後の方針と予定を伝えて集会が解散すると、一気に人がいなくなり寂しく感じる広場にイサミがシュウトを連れてきた。

 クロの前に立つ二人にクロが訊ねる。


「どちらを選んだんだ?」


 シュウトはチラリとレイナを一瞥し、パーティに参加することを告げると、用は済んだとばかりに踵を返す。

 イサミはかすかに苦笑を浮かべててクロに片手を上げると後を追う。

 クロの周りに八人が集まる。


「出発は明日早朝。夜明けとともに北門を出る」


「じゃあ北門集合ですね?」


 ヒビキに問われて彼は頷いた。


「各自自分の準備に戻ってくれ。ああ、食料の準備は別途必要だな。ゼンとサスケはこれからオレと食料保管庫に」


「何日分の食料を用意するつもりですか?」


「一週間分だ」


「結構な量でござるな」


「でもTRPGでも食料は一週間分を基本単位として売られてますよね?」


「確かにそうでござるな」


「クロさん」


 と、難しい顔をしてジュリーが声をかける。


「一週間ってのは行って帰ってくる分ですか?」


「そうだ」


「……判りました」


 八人はそれぞれに準備をして日の暮れる前にいつも通りに夕食をとった。


「ごめんね」


 ヒビキはマユに謝った。


「何? 急に」


 マユは明日から別の家に移ることになっている。


「ずっと一緒にいてあげられなくて」


「そんなこと気にしないでよ。スズちゃんってそういうとこ少女おとめよね」


「な……何言ってんの!?」


「それよりいい? 街の人たちは私も含めて元の世界に帰りたいと思っているの。強く、強く想っているんだからね?」


「うん……絶対手掛かり掴んでくるね」


 涙ぐむヒビキにマユと顔を見合わせて苦笑したレイナはこう提案した。


「今日は三人一緒の部屋で寝ない?」


「いいね! ガールズトークで夜を明かそう」


「いや、明日探索に出発するんだから寝なきゃ」


「スズちゃんお堅い」


「マユ!」






 ここは縮尺十分の一の地下世界だと知られている。

 淀まないように空調で外気が取り込まれ照明で昼夜を分かたれており、それはおおよそ外界、つまり現実の世界の四季とリンクさせてあると考えられていた。

 季節は冬の終わり。

 ここが北海道釧路地方だろうというゼンの見立ては、読者なら正しかったことを知っているだろう。

 関東ならそろそろ桜も終わろうとしている頃であり、レイナがレッドドラゴンにさらわれたゲームエクスポミクロンダンジョン崩壊事故から二年が過ぎている。

 まだ薄暗い北門前に白い息を吐きながら冒険者たちが集まってくる。

 寒さはずいぶん和らいでいたが、朝はまだまだ暖房が必要なほど冷える。

 八人の冒険者はそれでも背筋を伸ばし、決意の表情でそこに立ち出発の合図を待っていた。

 見送りにタニとやっさんが立ち会う。

 もちろん常駐している見張りの自警団も見送ってくれるようだ。

 そこにシュウトが現れる。

 それを確認したクロが自警団のメンバーに北門を開けるよう指示を出す。


「まだ暗かろうよ」


 やっさんは言うがクロは「街が見えなくなる頃には十分明るくなっているだろう」と荷物を担いだ。

 それを合図にパーティメンバーも荷物を担ぐ。


「じゃあ、言ってくるよ」


 まるで朝の出勤であるかのような穏やかさで宣言すると、九人の冒険者は北門を旅立って行った。

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