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楽園の攻防戦 06 模擬戦 圧倒的な実力差

 ロムの抱拳礼を合図にサッとそれぞれに構えを取って間合いを図る。

 ジュリーは正眼に構えて切っ先をピタリとロムに向けている。

 サスケは少し前傾姿勢で腕に沿うように木刀を逆手に握る。

 対するロムは腰を落として右の拳を軽く握り、心持ち肘が曲がる程度に伸ばして脇を締めている。

 ジュリーとサスケは視線も交わさずロムを挟むように左右に移動する。

 その間、構えた拳の先を見つめたままロムは微動だにしない。

 やがてジュリーはロムの視界に残る程度の位置で止まり、サスケは死角まで移動して止まる。

 サスケが止まって半拍もせずにジュリーが動き出し真っ直ぐ木剣を打ち下ろす。

 それと連動するようにサスケも大きな体を低く屈めてショルダータックルでもするように体をねじりながらロムの腰をめがけて木刀を叩きつけようとする。

 どちらも骨も砕けよという勢いだ。

 しかし、ロムは先に振り下ろされたジュリーの木剣を彼の腕に手を巻きつけるように絡め取って右に流し、自身の身をかわしながらその木剣でサスケの攻撃を迎え撃つ。

 堅い木が打ち合う乾いた音が響いた。

 ジュリーは右足を引き横薙ぎに剣を振るも、そこにはすでにロムの体はない。

 サスケはその剣の軌道の向こうに飛び退っているロムを追いかけるように前進するが、跳んで返ってきたロムの掌底を横面に受けそうになって左の籠手でかろうじて受け止める。

 最初の攻防以降も攻撃は一方的にジュリーとサスケから繰り出され、そのことごとくをロムが躱し、受け凌がれるを繰り返した。

 時間にしておよそ十分というところだったろう。

 一振り一振りが渾身で全力の攻撃だった。

 もし、一撃でも当たっていたら大怪我必至の破壊力を秘めていた。

 レイナの目から見ると二人の戦闘力は見違えるほどで、怪物の襲撃に対しても十分な戦力として見込めるほどの成長である。


(そんな二人相手に徒手空拳で、わずかに息を上気させる程度で凌ぎ切るとか……)


 ヒビキは息が上がって手をつき膝をついて呼吸を乱している二人を見下ろしながら、背中をぞくぞくと駆け上がる感覚に打ち震えていた。


「バケモノめ」


 そう呟いたのは自警団の男たちではない。北門の西端にある建物の五階窓から様子を見ていた男だ。

 そこは()()()の一角であり、彼はシュウトの仲間の一人である。

 その声に六人の紅一点であり元々は死んだ仲間の情婦だった女との情事の後、ぼんやりと物思いに耽っていたシュウトが反応した。

 彼は女に貸していた腕を引き抜くと裸のまま窓際まで歩いてくる。


「例の新入りだよ」


 男があごで窓の外を指す。

 ことのあらましを聞いたシュウトは一つ鼻で笑うとこういった。


「あいつら相手ならオレでもできるさ」


 狂戦士バーサーカーの墓標亭では介入されるまで二人を相手に立ち回っていた記憶を思い返す。

 あの時、反撃こそ出来なかったがやられるイメージは一切湧かなかった。

 今なら一方的に殴り倒すことだって出来るという自信と、沸々と湧き上がるあの時の己の不甲斐なさがジュリーたちへの憎悪となってシュウトの心に暗い炎を燃やす。

 そして、自分のせいであることを棚に上げ、彼に好意を示そうとしないレイナへの無自覚な恋慕の感情が、ジュリーの妹という事実と混ざり合い嗜虐的な性衝動へと駆り立てる。

 シュウトはもう一度女を抱こうとベッドへ進みかけて足を止めた。


「なんだ?」


 また目の前で見せつけられるのかとうんざりしかけた男は、窓の外を振り返るシュウトに声をかけつつ自分でも窓の外に視線を向けた。

 ここ、五階の窓からは城壁が見下ろせる。

 その城壁の向こうに砂煙が見えた。


「敵だ。行くぞ」


 彼らがここをねぐらにしているのはこのためである。

 そもそもにおいて社会に適応出来ず、それゆえにすさみ暴力衝動が抑えられずその道に堕ちかけていた彼らは、庇護者となってくれていた充というくびきから抜け出しこの世界に流れてきた。

 ここは、怪物相手という条件付きだが暴力が肯定されている。

 いや、むしろ怪物相手の暴力なら称賛もされる。

 その複雑な心地の良さが彼らのアイデンティティであり、かろうじて街の構成員で居続けられる所以だった。

 シュウトは戦闘モードに切り替わると脱ぎ散らかして居た服を手早く着て階下へ降りて行く。

 残された男は下卑た笑いを浮かべると情事の後のまどろみの中にいた女の頬をいやらしく舐めて起こす。


「何? あんたもしたいの? シュウトは?」


 元の情夫が目の前で怪物に殺され、自暴自棄になってしまった二十代半ばの女はシーツを剥いで、傷だらけだが戦いで程よくしまった身体を男の前に晒す。


「そうしたいとこだが、シュウトが北門に向かって部屋を飛び出しちまった」


 そう言われた女の顔がそれまでのとろんとした表情から、感情の消えた暗く凄みのあるものに変わる。

 一糸まとわぬまま部屋をでると彼女の鎧を置いている自室へと悠然と歩いて行った。

 残された男は一度窓の外、動きが慌ただしくなった北門の自警団に目をやってから仲間を呼びに部屋を出て行った。

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