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雑なダンジョン篇 01 そこはあまりにも危険なダンジョンだった

 自作「ミクロンダンジョン」の改訂版です。

 読み返したら誤字脱字は言わずもがな、判りにくい言い回しとか読者に対して不親切なところがいっぱいあったので反省しきりです。

 公開されているものをいじくり回した結果スパゲティプログラムみたいになるのも忍びないので、新規投稿することにしました。

 しばらくお付き合いください。


 なお、こちらを脱稿しましたら元の小説の開示設定にチェックを入れますのであらかじめご了承ください。

 その迷宮ダンジョンは明らかに手抜き仕事で作られていた。

 ダンジョンマスターはよほどケチだったのか、内部の作りは一目で素人が造ったと判る雑な仕上げできょうめしてしまう。

マッピングされた第一階層の地図を見ても第二階層までほぼ一本道、ダンジョンというよりラビリンスだ。

冒険者を待ち構えるトラップはよほどの初心者でなければ引っかかる方がおかしいくらいの安直さで仕掛けられていたし、配置されているモンスターも申し訳程度だった。


「ハズレだな」


 列の後ろから藍色の拳法着に身を包んだ黒髪の少年はそう言った。

 筋肉の動きなどで技の始動を悟られないためだろうか、動きを妨げない程度にゆったりとした着こなしになっている。

裾は邪魔にならないように足首のあたりで布紐で縛られていて、袖は拳が見える程度に折り返してある。


「わかんねーぞ?」


 先頭を歩いていた銅褐色カッパーの鎧に身を包んだせ気味の青年が、少し熱血気味の芝居染みた言い方で返答する。

 綿を入れた亜麻あまいろのトレーナーのような上着を着込んでいるのは、鎧の負荷から体を守るためだろうか?

 銅褐色の鎧は胸当て、すね当てと前腕を覆い左腕には傷だらけの鈍色にびいろの円形の盾、革ベルトから吊り下げられている片手持ちの剣は黒光りする鞘に収められている。


「第二階層も同じ造りなら、ハズレでござる」


 全身柿色の忍者姿の青年は前を行く戦士の青年に言い放つ。

 ただでさえボソボソとした低めの小さな声なのに目だけを出した頭巾のせいで聞き取りにくいことこの上ない。


「そうですね、それを確かめるためにも第二階層に上がらなければなりませんよ」


 忍者青年の隣を歩いていた背の低い小太りの青年は鼻にかかった声で妙な節のついた話し方をする。

 こんきょういろの長めのローブのフードをぶかにかぶり、このダンジョンでの戦利品であるランタンを左手に右手に杖を持っている。

 四人の冒険者は、今まさに第二階層へと続く階段を上ろうとしていた。


「お前ら悲観的だなぁ……」


「ジュリーが楽観的すぎるだけですよ」


「……楽観的で何が悪い」


 言ったジュリーはひどく深刻な顔をした。

 もちろん先頭を歩いているジュリーの表情を後ろの三人が見ることはできなかったが、その声のトーンや後ろ姿から明らかに雰囲気の変わったことが容易に伝わった。


「すまぬ」


「いいさ、ここがハズレかどうかはクリアすりゃ判るんだ。さ、行くぜ」


 たどり着いた第二階層の扉を前に気合を入れ直したジュリーが勢い良くその木製の扉を開けると、そこは小さな小部屋になっていた。


「セオリー通りですね」


「ゼン、ジュリー、マッピングの準備をするので少々待ってもらえぬか?」


 ランタンで殺風景な室内を照らしているゼンの隣でふところから新しい方眼紙を取り出す忍者青年は第一階層を記した地図と重ね合わせ、大まかな現在位置をその新しい地図に書き込む。


「サスケ、このダンジョンは三階層だったよな?」


「うむ、外観的にも()()の立方体でござった」


 準備の終わったサスケはジュリーに目配せをする。

 それに頷いたジュリーは先へと続く扉を開く。

 ゼンの持つランタンの明かりに照らされた通路は、やはり一目で手抜きのやっつけ仕事と判る出来だった。


「ハズレですね」


 その光景に絶句し立ち尽くしていたジュリーの背中に、優しく押すように手を添えたゼンが声をかけた。

 それにようやく反応したジュリーが、芝居染みた努めて明るい声でこう言いながら歩き出す。


「しょーがねぇ、ちゃっちゃとこのダンジョンクリアして次のダンジョンにアタックだ」


 四人の冒険者は意図せず歩きづらくなっている通路をまるで子供が遊園地の迷路をクリアしようとするかのようなスピードで進む。

 やがて目の前に立て付けの悪い木製の扉が現れた。


「……罠あります……と看板掲げているようなものですね」


 ゼンが出来ることなら避けたいという気持ちを隠そうともせずにつぶやく。


「でも、避けるわけにいかないんだろ?」


 後列にいた拳士がジュリーの隣に移動する。


「ロムの言うとおりでござる。一本道である以上、罠と判っていても飛び込む以外にござらぬ」


 サスケがマップを懐にしまいながらジュリーを促すと、ジュリーはひとしきりガシガシと頭をかきむしり細身ではあるが厚みのある剣を鞘から抜いて構え、ロムに目配せをする。

 それに頷いたロムは、軋む扉を開く。


 部屋は八畳ほどの広さだった。

 その部屋の中央付近に大きな褐色のカマキリが一匹。

 八十センチ級のそれは音に反応したのか、ともすれば愛嬌すら感じさせるハート型の顔をこちらに向けていた。


「マジかよ……」


 ジュリーがつぶやき絶句する。

 ゼンが滔々(とうとう)とカマキリの蘊蓄うんちくを語り出す。

 カマキリは肉食の昆虫だ。

 基本的には自分より大きな獲物は狙わないと言われているが、餌の少ない環境なら自分より大きなトカゲやネズミを捕食するし共食いもするほど獰猛どうもうだ。

 ダンジョンにモンスターとして配置されたこの単独のカマキリ、いつからここに配置されているかは判らないがどう考えても満腹とは思えない。


「──つまり、今危険な状態ですよ」


 正直カマキリが人を襲うかどうかは判らない。

 しかし、可能性は低くない。

 ロムは自分に合った武術を求めて様々な道場を覗いた中で見た蟷螂拳とうろうけんつかい手を思い出していた。

 その演武はゆらゆらと揺れているようだったが、目の前にいるカマキリはどうだ。

 こちらに気づいてじっと見つめて微動だにしない。


「蟷螂拳と違ってゆらゆら動かないもんなんだな」


 それを聞きとがめるようにゼンがとげのある返答をする。


「カマキリは待ち伏せ型の狩りをする昆虫です。基本的にじっとして動かずに相手の隙をついて一気に襲い、生きたままかじりつくんです。小さい頃に観察したことはないのですか? 揺れるのはかくの時の仕草ですよ」


「……それってつまり、今目の前でじっとしているのは……」


 カマキリから目をそらさず、少し声をうわずらせるジュリーにこれもまた冷たくゼンは答える。


「ええ、十中八九ロックオンされていると思って、気を抜かないでください」


 それを聞き、ジュリーは周りに聞こえるほど大きな音を立てて唾を飲み込んだ。


「だが、いつまでも睨み合うというわけにもいかぬでござる。長引けば長引くほどこちらに不利となろう」


「た、確かに……」


「ガチでやりあって勝算あると思う?」


「もちろんありますよ。リスクを考えて避けることを勧めますがね」


 ロムの軽口に聞こえる質問に対して、ゼンが間髪入れずに答える。


「じゃあ、忠告に従いましょう?」


 無意識に左の肩を一度下げ、ロムはゼンの前に右手を出した。

 無言の要求にこれも黙って杖を手渡し、ジュリーとサスケを押すように壁際をゆっくり進み出すゼン。

 それとは反対側へとこれもまたゆっくり移動しながらロムは杖を大きく振り回す。

 カマキリは目の前で風を切る杖に反応し、ゆっくりと上体を揺すり出す。

 威嚇行動だ。

 思惑通りだったのだろう。

 口角だけを釣り上げ一度杖を床に打ちつけると流れるように杖を回して行く。

 人が見ればそれがじょうじゅつの演武であることが判ったはずだ。

 三人には、それが合図になる。

 彼らはそれまでのジリジリとした壁際移動から慎重ながらも速やかな足取りの退避行動に移る。

 ロムの演武はカマキリを強く刺激している。

 上体を起こして杖の動きに合わせてゆらゆらと揺れるカマキリは鎌状の前脚を体に引きつけ、バッとはねを広げて体を大きく見せる。


「!」


 目の前で翅が展開したことに一瞬足がすくんだ三人の気配にピクリと反応したカマキリをあえて挑発するように壁に杖を打ち付け、再び注意を自分に向けさせるロム。

 感情の読み取れないカマキリの顔が再び彼を捕らえ、まさに蟷螂拳のような仕草でこちらを威嚇してくる。


(むしろありがたい)


 ロムは最初の居合抜刀のごとき身じろぎもしないカマキリと対峙するより、慣れ親しんだ動きの流れの中に身を置くことに全身のこわりがほぐれるのを感じた。

 気を取り直した三人は再び慎重に壁際を出口の扉まで進む。

 カマキリは時折ジャブのように鎌を繰り出すが、ロムはそれを杖で弾く。

 しかし、決して攻めには転じない。

 その間に三人は出口へと辿り着き、扉を開けて外へ出る。


「ロム!」


 ジュリーの呼びかけを受け、ロムは初めて攻撃に転じた。

 攻防一体は拳士としての真骨頂である。

 繰り出される右の鎌腕を絡め取るように杖で巻き込み関節にしょうていを打ち込むとピシリと亀裂の入る音が聞こえた。

 絡めた杖をさっと引き、素早く体を攻撃した右側に移動する。

 カマキリが鎌を構えてロムを正面に据えようとするのに合わせ、彼はさらに移動する。

 一気に移動しない慎重さと、なおも挑発するように杖を振り回す豪胆さ。

 扉を開けたままロムがたどり着くのを待っているジュリーの目に映る姿は頼もしさとうらやましさを彼の心に感じさせる。

 最初に出会い、彼をこの過酷な冒険に付き合わせることになったのも彼が強かったからだ。

 本来ならその日、あのダンジョンを共に冒険すればそれでサヨナラだったかもしれないロムとのこれが三度目のダンジョンアタックである。

 戦士として、剣士として共に戦いたい。

 せめて隣で協力したい。

 ジュリーはギリリと奥歯を噛み締めた。

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