深緑の鱗
シーザの首には深緑色の鱗のような柄がチョーカーのように浮かび上がる。
深緑の鱗はビクターの刃を通さず、かすり傷すら残さない。
「ーーっ!?なんだこれはっーー!?」
狼狽するビクター。
その隙をついてシーザは動く。
左肩を貫かれ左腕を上げられず、反対の右手の剣はビクターに踏みつけられ動かせないシーザは剣から手を離した……。
次の瞬間……おもむろにビクターの胸ぐらを掴み、およそシーザのような麗人がすることは思えない強烈な頭突きをビクターの顔面にブチかましたっ。
「ーーーーんブゥフッッッッ!!ーーガァッ!!ーー」
血をまき散らし、鼻を潰されたような声を上げるビクターに2発目をかます予備動作に入るシーザ。
「ーーナぁめるなぁっ!!」
2発目を喰らうまいと激昂するビクターは胸ぐらを掴むシーザの手首を掴み、力を入れて撚るように曲げる。
とても鈍くて嫌な音がした。
「ーーグッッぁあああっっ!!」
悲痛に声を上げるシーザは手を離す。ビクターは掴んだシーザの手首をそのまま自分の方向に引っ張り身体を逸してシーザの後ろを取る形で剣を振り上げた。
「ーーフンッ!!ーー」
ビクターは鼻息荒らげにシーザの背中を袈裟斬りにするっ。
「ーーーーク……ッ!」
だが、先程と同じくその刃はシーザの身体に傷を付けることなく衣類だけが裂ける。
「ーーこざかしいっ!!」
声を張り上げ苛立ちを見せるビクターは剣の柄の部分で突進するようにシーザの腰の辺りに打撃を加えるっ。
「ーーーーガァハッッ!!ーー」
勢い良くこっちに飛ばされたシーザはちょうど私とネイナの目の前で転がって止まる。
「ーーお姉ちゃんっ!!」
ネイナの呼びかけに反応することなく、シーザは体勢を立て直し起き上がろうとする……が、身体は小刻みに震え……左腕はダラんと力なく垂れ、右手首は折れてしまっている。
もはや戦える状態ではないのは明らかだった……。
「まさか…………発症した【奇竜花】を霊装騎纏で【制御】したというのか……」
ビクターは何かをブツブツと語り、鼻血をダラダラと流しながらも確かな足取りでこちらに向かってくる。
迫りくるビクターを見て慌ただしくネイナは焦りだす。
「ーー考えろ!何かないか!何かっ!……」
ネイナは独り言を漏らしながら自身が腰に下げたポーチを再度ゴソゴソと漁る。
「考えろっ!!魔法……抗魔作用……魔物避け植物…………性質……いや魔障治癒効果……あった!」
ネイナはポーチから取り出した青い液体の入った小瓶をおもむろに開け、足を固定している箇所にぶっかけた。
「………………」
……変化はない。
「ーーダメかっ!じゃあこれはどうだっ!」
今度はポーチから取り出した、小さな赤い実が無数についた植物を同じ箇所に雑に押し付ける。そのまま手で塗り込むように実を潰す。更にまた袋から小瓶を取り出し、中身をぶっかける。
「ーーこんの!抜けろっ!抜けろぉおっっ!」
顔が赤くなる程に力を入れて固定された足を引き抜こうとするネイナ。
一見、ヤケクソになったようにしか見えなかったが…………次の瞬間……。
「ーーーーハッ!!」
……ネイナの左足がその場から抜けて自由になった。
「ーーうっっし!!次は反対ぃ!!」
ネイナのぶっかけた瓶の中身や植物の実が魔法にどんな作用をもたらしたかは分からないが見事に左足はそこから脱することが出来た。ネイナはそのままの勢いで右足も引き抜こうと顔が真っ赤になるまで引っ張る。
だが、ビクターは迫り来る。
最愛の姉にとどめを刺しにもうそこまで。
「ーーーークッッッソォオオオオッッ!!!」
ねじるように身体を動かし叫ぶネイナはその場を脱っし、シーザとビクターの間に滑り込む形で両の手を広げた。
「…………痛ッ!!……ハァ……ハァ……」
苦しそうに息を荒げる中腰のネイナの右足首を見ると異様に腫れ上がっているのが見えた。
無茶をしたんだ、と一見して分かるほどに。
「……そこを退け……小娘」
「……ハァ……ハァ……もう勝負をついてるでしょっっ!!これ以上お姉ちゃんを傷を付けないで!」
僅かな問答の直後にビクターはネイナの首を元に剣の切っ先を添えた。




