提案
白い光を纏ったシーザは無数の斬撃をビクターに繰り出す。上段、下段、刺突、斬り上げ、斬り払い、と見舞うがそのすべてをビクターの剣は受けきって見せる。
「………………」
何か考えている様子のビクターは黙ったまま、次は自分の番だと言わんばかりに反撃する。繰り出されるビクターの斬撃をシーザも同じく受けきって見せた。
「……ハァッ…………ハァッ……」
白い光のおかげか、ビクターの攻撃を受けても後ろにふっ飛ぶことはなくなったが……シーザの息づかいが余裕の無さを物語る。
「……本調子ではないようだな」
ビクターが残念そうに一言漏らす。
「上級騎士2人を最小限の力で片付けたのはそれが理由か……」
「……ハァッ……ハァッ……だったら……何だというのです、退いてくれるとでも?」
「戦いというものはいつだって非情で唐突で残酷だ、どのような状況下においても己の都合などお構いなしに闘争は迫ってくるものだ、そうだろう?騎士シーザ」
「〈元〉騎士……です」
「……だが実に惜しいな、万全な状態でない君をここで斬らねばならないのは……実に惜しい」
ほんの僅かな剣戟でビクターはシーザのコンディションを悟ったように話す。
「ネイナちゃん、お姉さん……もしかして……」
「うん、めちゃくちゃ病み上がりなの。奇竜花の治療の経過よりもレーコちゃんとバチバチに戦った時に無茶したらしくて……そのダメージがまだ癒えていないの」
ああ、やっぱり……。
(ところで〈レシベル〉って何だろう……?)
「本調子でないことは認めますが、勝ち誇るにはまだ早いと思いませんか?戴始爵様」
言葉の直後、シーザは隙をつくようにビクターに一際速い動きで一撃を繰り出す……ビクターはそれにも難なくガードし対応してのける。
シーザはガードを想定したかのようにすぐさま後ろに飛んで無駄のない動きで距離を取る。
距離を取ったシーザの足元には〈剣〉が落ちている。そこは撤退する兵士が回収するまで天翔騎士エルファーの倒れていた場所だ。兵士が回収し忘れていたのかエルファーの得物だけがそこに残っていた。
シーザはその剣を見る素振りもなく足で踏むように弾いて打ち上げ華麗にキャッチする。
「まだ手の内を全て見せたわけじゃありませんし……【あんまりナメてかかると痛い目見せますよ?】」
双剣を構えるシーザは威圧を放ち、更に速い動きでビクターに仕掛ける。
「ならば見せてもらおうか……痛い目とやらを!」
嬉しそうにそれに答えるビクターは正面から受けて立つ姿勢だ。
「ーーーーハァァアアッ!!」
勇ましく声を上げ、繰り出されるシーザの斬撃は先ほどとは比べ物にならないほど苛烈にビクターを攻める。双剣になったことで息つく間もない斬撃の手数にビクターはジリジリと少しずつ後退しつつも一本の剣で受けて捌く。
およそ人の手で繰り出されているとは思えないほどの剣戟の音が嵐の如く森に響く。
最中、後退しつづけるビクターの足がほんの僅かにグラつく。
「ーー…………っ!」
言葉はないが、ビクターの表情から少し焦りが読み取れる。次の瞬間、双剣による重い一撃でビクターの剣は守りの姿勢を大きく崩されたっ。
「ーーーーぐぅっ!!ーー」
体勢を崩された直後のビクターの脇腹にシーザの蹴りが見事に入るっーー!地面に足に付けたままズザザ、と後ろに飛ばされるビクター……。
「…………素晴らしい……実に素晴らしいよ【双剣士シーザ】……」
ついにビクターに一撃喰らわせたシーザ。だがビクターには大してダメージを負っている様子がない……それどころかますます高揚しているように見えた。
「認識を改める必要があるな…………君はこの私に届きうる逸材だ……故に……故にここで殺すのは実に惜しい……」
「……ハァ……ハァ……」
シーザへの評価を言葉を口にするビクターとは対象的に余裕のない息づかいで返すシーザ。
「そこで提案なのだかね……」
「…………?」
ビクターが切り出す。
「【私の妻になる気はないか?シーザ・ガルバンドール】」
『ーーーーはぁあぁああーーっっ!?ーーーー』
突拍子もないビクターの提案に大声で1番に反応したのはシーザではなくネイナだった。




