覚悟
臨戦態勢で睨み合うシーザとビクターの両者は隙を伺うかのように微動だにしない。ただ空気だけが重たく張り詰める……。
お互いに仕掛けない時間が数秒過ぎる……。
「あれ?おかしいな……」
沈黙を破ったのは隣にいるネイナだった……。
漠然とした疑問を口にするネイナはしきりに自分の足を見て首を傾げる。
どうしたの?と、聞こうとした瞬間に……
「ーーーーうっぁ!!ーー」
前方からシーザの声と共に剣と剣がぶつかる音がした。視線をネイナに向けていたその一瞬に両者のどちらかが仕掛けたのだろう……。とっさに視線を戻すとシーザが背中をこちらに向けて飛んできた。すぐ横を通過せんばかりの勢いで飛んでくるシーザを止めるため左手でシーザの腰を掴んだ。
細っ!……いや、今はそれどころではない。
「だ、大丈夫ですか……シーザさん」
「ーーくっ……あ、ありがとう……レーコさん」
さりげなく下の名前で呼んでくれたのが少し嬉しかったが……今はそれどころではない。
「……素晴らしい……今の刺突を難なく防ぐか……」
前方のビクターはブツブツと独り言を漏らしながら自身の得物を眺めて感銘を受ける素振りを見せる……。
「あの……レーコさん、以前のような木を生やすことは出来ますか?逃げる手伝いをしてほしいんですが……」
小声で話すシーザ。
「今は能力が使えないんです、ごめんなさい」
「いえ……謝らないでください、手足をそんなにしたのは私ですから……」
悪くなんて1ミリも思っていないのにシーザは申し訳無さそうに謝ってくれた。
それよりもずっと疑問に思っていたがある。私の修復中の箇所についてはシーザを含め、上級騎士やテイブや他の遠征部隊の騎士達も誰も言及してこないのは一体何故だろう……。
修復箇所は今も切断部分から伸びるよう薄緑に光を帯びて輪郭を形作っている。
【要するに物凄く目立つはずなのだ。】
にも関わらず、誰もそのことには触れてこないのは一体どうして……。
……まるで見えていないかのよう。
確信のない思考を遮るかのようにシーザが言葉を続ける。
「じゃあネイナ……レーコさんを支えて逃げる準備をしておいて、ってネイナ聞いてる?」
「え……?ちょ!今それどころじゃ……わわわっ!!痛っーー」
自分の足を凝視しながら立ち上がるネイナはすぐにバランスを崩して尻もちをついた。
「ちょっと、ネイナ何やって…………」
ネイナの様子はちょうど初めてスキーをする人特有の尻もちのつき方のように見えた。足を思うように動かせず両手で仰ぐよう振ってバランスを取るが後ろに倒れてしまう。
シーザはネイナの足に手をやるが……透明な何かに阻まれて触れない。足はその何かに固定され地面から決して動かせないでいた。
「……これは……魔法……?まさか……【魔導卿】か……」
シーザは疑いの視線をザビティ・グレンに向ける。
「………………」
ザビティ・グレンはただ黙ってこちらを見ている。何かアクションを起こしたことすら悟らせない素振りだった。
「…………逃げる、って選択肢を潰されたってことね………………ふぅー……」
大きく息を吐いた後、シーザは覚悟を決めたような表情ですくっと立ち上がった。
「霊装騎纏・白っ!」
白い光がシーザの身体を纏い出す。
「美しいっ!実に洗練された霊装騎纏だ……さあ!かかってきたまえっ」
ビクターは嬉々としてシーザを様相を語る。それに呼応するように一歩踏み出すシーザに私は声をかけた。
「シーザさん、私……あと数分……いや数十分程で能力が使えるようになります……なので、そうなったら……ーー」
「ーー……一緒に戦ってくれますか?レーコさん」
共闘を提案したシーザの言葉とは違って、私が言いかけた言葉は『私を置いて逃げて欲しい』という真逆の提案だった。
こんな自分を助けに来てくれた2人を失いたくない……そんな一心で無意識に思った提案を再度、口にしようとした時……隣のネイナがニコっと笑顔で言った。
「お姉ちゃんとレーコちゃんの最強タッグでボコボコにしちゃってよ!」
……この2人は〈私〉を【切り捨てる】という選択をしない……【助ける】という姿勢がブレないシーザとネイナに私は口にする言葉を改めた。
『ええ、一緒に戦うわ。シーザさん!ネイナちゃん!』
それを聞いて果敢にビクターに向かっていくシーザの背中を見送りながら私は自身の右脚の修復に樹力を集中させる作業を今一度再開した。




