マジ切れ
正面切ってシーザの相手を申し出た塾年の紳士は貴族のような整った気品ある風貌でそれは立派な口髭を蓄えている。その紳士の隣には見覚えのある者の姿も見える。何時ぞやの瞬間移動で現れた3人組メリー、セザン、イーデンに〈師匠〉と呼ばれていた仮面の紳士だ。
2人の登場に周りの兵士や騎士、魔術師から「おおっ!グレン様……」と湧く声がチラホラ聞こえる。
「あの仮面の男……まさか……」
ポツリと呟くシーザ。
シーザは仮面の紳士を見るなり表情が険しくなった。抱えていたネイナを私の側で離し、改めて武器を抜いて……ゆっくり向かっていく。
「……特級討伐にあのザビティ・グレン……【魔導卿】が出張ってくるなんて、過剰戦力にも程があるでしょ…………」
小さな声で愚痴のように独り言を漏らすシーザ。そして、私とネイナからある程度距離置いたところで止まり彼らの様子を伺いつつ警戒する。
一方のザビティ・グレンはこちらを気にする様子はなく、その周りには数人の遠征部隊の騎士、魔術師が集まっていく。現状報告と、その説明を行っているように見える。すぐに指示を受けたのか、仮面の紳士と口髭の紳士に一礼した後、他の者に伝令し、遠征部隊はその場を後退していく。
特に口髭の紳士に対しては驚いたような様子を見せ、実に深々と一礼をするのが印象的だった。
『おい!お前っ!』
遠征部隊が後退していく中でテイブは1人だけ、口髭の紳士に声を上げて向かっていく。
『あの女は生け捕りにしろ!殺すなよっ!オレが屋敷で番犬として飼うんだからな!あと、特級モンスターのトドメはオレがやるから置いておけよ!いいなっ!?』
高圧的な態度で命令するテイブに後退中だった騎士の1人が甲冑をガシャガシャと揺らしながら焦った様子で全力で走ってくる。
「ーーテ、テイブ様っ!先程も言ったようにその方は戴始爵様ですっ!本当にやめたほうがいいですよっ!」
「ーーハッ!何が〈タイシシャク〉だっ!要は〈子爵〉だろう!?俺の親父は公爵だぞ!」
すぐ近くにいたザビティ・グレンはテイブの言いように呆れてため息をつくような素振りを見せた。すると、口髭の紳士は自身の整った口髭を撫でながらテイブをじろりと睨みつける。
「貴様の父親の名前を言ってみろ小僧」
「小僧だとっ!子爵風情がナメた口利きやがって、聞いて後悔しろよ?俺の父親は〈ガドルネ・ビスタバン〉。名家ビスタバンの現当主で国の金を管理する国財機関のトップだ!俺はその息子で長男だ!騎士の予算だって俺の父親が決める!だからお前も俺の言うことを黙って聞いてりゃいいんだよっ!!」
テイブのまくし立てるような講釈に口髭の紳士は表情を微動だにしない。それを見てテイブは次第に狼狽えだすが口髭の紳士は淡々と言葉を返す。
「私は騎士の所属ではない」
「う、うるせぇ!それでも〈子爵〉のテメェは〈公爵〉に従うしかねぇんだよっ!」
「小僧……爵位で優位に立とうするなら、〈戴始爵〉というのが何なのかぐらい把握しておくんだな」
「は?なんだよ……おい!どういう意味ーー」
『ーー子爵じゃないんですよ、ご子息』
ザビティ・グレンが割って入った。
「簡単に説明すると【〈戴始爵〉は〈公爵〉よりも高い爵位】だということです、これは騎士学校で習うはずなのですが……」
「し、知らねぇよ!そんなの!お、俺がそんなくだらない学校なんぞで物を覚えるわけねぇだろうがっ!」
口髭の紳士はジロリと睨みつける眼光そのままに体の向きを変えてテイブを見下すように迫る。
「騎士学校の卒業は騎士になるための必須項目の一つだ……まさか父親に頼んでビスタバンの圧力と金で騎士の資格を買ったのか?ん?どうだ答えてみろ」
「……え…………いや……」
「まあいい、後にガドルネ・ビスタバンはこの私ビクターが直々に出向いて調べるとしよう……余罪が出てくれば、それも白日の下に晒ねばなぁ……」
「あ……あの…………」
「貴族……ましてや公爵ともあろう者が爵位を振りかざして汚職に手を染めているようであれば、それなりの沙汰を言い渡すだけだ」
「……え?沙汰って……?」
見る見る顔色が悪くなっていくテイブは助けを求めるようにザビティ・グレンに目線を送った。それに対して仮面の紳士は【沙汰】について言及した。
『戴始爵の中でも【血の選定者】と呼ばれるビクター様は〈爵位の剥奪権〉を持っておられます、つまり……ガドルネ・ビスタバンは〈公爵〉ではなくなるということです』




