天翔騎士エルファー
「お姉ちゃん!なんか凄いイケメンが出てきたよ!」
「……ネイナはあんな感じなのが好みなの?」
「いや、別に!」
姉妹の会話の最中、向かってくるイケメン騎士の姿がフッと消えた。
『やれやれ……出会ったばかりだというのにもう僕の取り合いをしているのか女共』
消えたイケメン騎士が声と共に現れたのはお姉さんのすぐ隣……瞬間移動といわんばかりの速さだった。驚いたお姉さんは瞬時に反応して斬りかかる……が、既にイケメン騎士は消えていて空を切る。
イケメン騎士はお姉さんの剣が届かない元の位置まで再び距離をとって言葉を続けた。
「僕に興味津々な2人のために自己紹介をしてあげるよ、上級騎士の中で最も速く、若く美しい僕の名は天翔騎士エルファーだ」
「……なんじゃコイツ……」
ネイナが呟いた、なんじゃコイツ……と全く同じことを思ってしまった。お姉さんの顔も同じこと思っているような何とも言えない表情をしていた。
「残念だけど王命の邪魔するなら2人とも殺す、でも安心して……僕がちゃんと美しく殺してあげるから」
物騒なことを言ってニッコリ笑うイケメン騎士。
「……怖っ」
呟くネイナ。全く同感だ。
「…………」
お姉さんは黙したままエルファーに向かっていく。
「向かってくるなら君から殺してあげよう〈元〉王妃直属騎士」
お姉さんはエルファーに斬りかかるが、またもや空振り……そこにエルファーの姿はない。
「君の速さでは決して僕を捉えられない!」
エルファーご自慢の速さで縦横無尽に動き回り、姿は見えないが声だけが聞こえる。その中でお姉さんは立ち尽くすように微動だにしない。
「ハッハッハ!怖いだろう?どこから攻撃されるか検討もつかないだろう?そのまま僕のご尊顔を二度と拝めないままーーーー」
ふと、お姉さんの背後にエルファーが現れた。
「ーーーー死ねぇええ!」
お姉さんの頭に真っ直ぐ振り下ろされるエルファーの剣。
お姉さんはそれを振り向いて見るでもなく頭上を剣でガードして背後からの斬撃を受け止めた。
「ハッ!まぐれで防いだか!」
エルファーは再び消え、縦横無尽にお姉さんの周りを動き回り翻弄する。本人はその速さでかき乱しているつもりだろうが、お姉さんの挙動に焦りや翻弄されているような気配は見てとれない。ただジッとして様子を伺っている。
「次は……足だ!」
宣言と共にお姉さんの斜め後方に現れたエルファーは低い姿勢で横に剣を振りかぶる。
「…………ハァ……」
ため息を漏らすお姉さんは少しジャンプをしてエルファーの下段攻撃を難なく躱す。
「ハッ!運がいいな、〈元〉王妃直属騎士!だが次はーー」
『ーーーー遅いっ!』
お姉さんはエルファーの言葉を遮って叫んだ。
「はっ!?遅い、だって?この僕に……この天翔騎士エルファーに向かって言ったのか!?」
エルファーは距離を取ってお姉さんの言葉の真意を問いただす。
「あなた以外に誰に言うのよっ」
「……僕の美しさと速さに嫉妬して負け惜しみを言っているのか?」
「負け惜しみじゃなくて事実よ……移動するスピードは確かに速いけど、そこから攻撃に転ずる速度が〈遅い〉と言ってるのよ。…………あと嫉妬するほど〈美しい〉とも思えないわ……」
「ーーなんだとっ!?」
エルファーのイケている面が怒りを帯びていく。それが〈速さ〉指摘されて怒ったものなのか〈美しさ〉を否定されて怒ったものなのかは分からないが、整った顔ほど怒ると怖い……。
「そんな速さじゃ私の妹すら斬れないわよ……?」
まるで煽るように言葉を続けるお姉さん。
「ーーなっ……!?騎士ですらない小娘にすら劣るだと!?」
「あと、妹……ネイナの方が綺麗だし美人だわ……」
更に煽るお姉さん。
「お姉ちゃんの方が美人だよ!お姉ちゃん!」
天然で便乗するネイナ。
お姉さんは何故か少し横にズレて、エルファーの目線にネイナが入るように移動した。
エルファーの顔は鬼の形相へを変貌する。
「だったら……先をお前の妹から葬ってやるよ!」
完全に頭に血がのぼって、いとも簡単に挑発に乗った怒れるイケメンはご自慢の俊足で砂埃を巻き上げフッと消える。
「僕を侮辱したことを後悔して……死ねぇえーーーーーーっっっっグごっぉぉぉぉーー!!!!ーー」
憎悪に満ちた言葉の最後にうまく聞き取れないエルファーの声とグシャっと何かがひしゃげ潰れるような音がしたーー。
エルファーが俊足で動いた瞬間にお姉さんも同時に動いていた。コマ送りの様に2人が消えた次の瞬間の光景は……。
直線でネイナに向かっていくエルファーの顔面に、跳躍したお姉さんの膝がメリメリとめり込んでいる画だった。飛び膝蹴り……というよりはエルファーの進路上、顔の位置に自身の膝をもっていって、エルファー自身に激突させた感じだ。
「ーーーーフ…グぅぅぇ……ぁーー」
エルファーはそのまま体を折りたたむように膝を折り、潰れた顔面で仰向けになったままお姉さんの下をくぐるように地面をズザザっとスライディングして……ネイナと私の前で程なくして止まった。
「うっっっっわぁ…………痛っっっっそう……」
ネイナの言うとおり……何とも痛々しい。
「あなたの速さは速いだけで【制御】出来てないのよ……それに動く前の目線や挙動で何処に動くのかも、タイミングも全部手に取るように分かったわ……だからこんな風に逆に利用されるのよ」
なんとも滑稽な格好でピクピクしているエルファーに向かって、お姉さんは淡々とダメ出しをした。
「お姉さん……本当に強いのね……凄いわ……」
瞬く間に上級騎士2人を倒して見せたお姉さんに私は思ったことをそのまま口から漏らす……。
「アタシの!お姉ちゃんだからね!アタシの!」
そう答えるネイナの顔は微笑ましい程良い顔していた。




