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悪名





「ーーーーっぐえ!」



 お姉さんの小脇に抱えられていたネイナはドサっと地面に落ちて声を漏らす。



「重いから下ろすね、ネイナ」

「ふがっ!……下ろす前に言ってよぉ!」



 落ちたときに鼻を打ったのか涙目で顔を抑えるネイナは……警戒もせず私の近くまで来て、地に伏していた私のために膝を折って目線を下げてくれた。



「ネイナ!そんなに近づいたらーー」

「大丈夫、心配しないでお姉ちゃん」



 お姉さんの心配を他所に至近距離で私の顔をしっかり見つめるネイナ。



「あのね……【銀汕(ぎんせん)】を作ってくれて……ありがとう…………お姉ちゃんを救ってくれて……本当にありがとう……」



 ネイナのその言葉を聞いた瞬間……心が救われる想いでいっぱいになった……。こんな姿になっても正しくあろうともがいた自分が今この一瞬ですべて報われた気がした。


 私は無意識に左手でネイナの手を取って握った。





 私の方が……

 私の方こそ……だ。

「……っ……りがとう…………ありがとう……来てくれて…………ありが……とう…………」



 森のざわめきにさえかき消されそうな乏しい声をネイナは握った手を振り払うでもなく優しい表情でただ聞いてくれた。



 一方、横目に見えるお姉さんの方は私がネイナに危害を加えないか気が気でない様子だった。



「おいおいおいぃ!急に出て来てなんなんだぁ?お前らぁっ」

「………………ふん」



 不意に現れたネイナとお姉さんに驚いた巨体の騎士の斧槍をお姉さんは小馬鹿にするような鼻息の後、横にいなしてを地面に落とした。



「まあいいさぁ、今回の討伐は王命だぁ。バケモノをかばうってんならお前らもなぶり殺しにしてーー」



 物騒な言葉を吐きながら斧槍を横に振りかぶる男の声が途切れ……ドシンッと斧槍が地面に落ちる。







「ぉぉ……ぉおおおお……おおお、おれのぉおおおぉ俺のぉおおおおおお【手】がぁあああああああああーーーーーーーー」



 落ちた斧槍の柄の部分には手首から切り落とされた男の【両手】が握られたままになっていた。



 ……一瞬のことだった。


 男が斧槍を振りかぶると同時に凄まじい剣速の斬撃をお姉さんが放った。



「轟天騎士アンクス……あなたの悪名を知ってるわ、上級騎士の名の下に訓練や懲罰と称して兵士を痛めつけて悦に至る……【拷問騎士】」

「ぉお前がぁあああ……俺のぉおお手をぉおお…………」

「あなたの胸糞の悪い趣味のせいで命を落とした兵士もいたわ、テンバリオン将軍直轄の上級騎士だからといって不問されていたらしいけど……良いザマね」

「……るさねぇ!許さねぇぞぉ!!女ぁあっ!!」



 切断された手の痛みに悶えていた男が怒りに満ち、無い手でお姉さんに掴みかかろうと迫る。



「そんな長くて重たい武器のあなたが懐に入られたら普通は距離を取るところを、あなたはその場で武器を振りかぶろうとした……隙だらけにも程がある。これまで自分より格下で体格が小さい非力な相手としか戦ったことのない証拠よ」

「ーーぁあ黙ぁれぇえええ!!」



 迫る男をひらり、またひらり躱して淡々とダメ出しをするお姉さんは躱した反動で回し蹴りを男に見舞った。



「がぁあっーーーー!!」



 

 甲冑をバキバキに凹ませながら男は数メートル先の木に激突し気絶した。



「さすがお姉ちゃん!さすが王妃直属騎士ジュリアンナイツ!」

「やめてよ、それに〈元〉王妃直属騎士ジュリアンナイツよ」



 ネイナは自分のことのように自慢気に声高らかにお姉さんを褒める。







『〈元〉王妃直属騎士ジュリアンナイツですか……どうりで少しは腕が立つわけだ。デカいだけのアンクスに【まぐれ】とはいえ勝てたのは頷ける』



 鼻に付くセリフを喋りながら、こちらに近づいてきたのは傍観していたもう1人の上級騎士だった。






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