テイブ様
西洋風の銀の甲冑を付けた騎士が3人、黒いローブの魔術師が2人。見た目の印象と先程の会話から身分をそう断定して間違いないだろう。騎士の3人の内1人は肥満体型で兜を被っておらず、真ん中で分けた長い前髪から覗く細い目がバカにしたようにこちらを見下す。
「キュー……キュー…………」
「あ?なんださっき殺し損ねたアルピラの子供じゃねぇか、バケモノに助けてもらおうってのか?ハッハッハッ!」
不愉快な内容と声が集中力を阻害する。それに聞き捨てならない内容だった。
「あなたがこの子の……アルピラ……?(この動物の名前なんだろうか)……の子供を斬ったんですか?」
「おっ!?バケモノがなんか喋ってんぞ!?なんだコイツっ!!言葉が喋れるのかよっ!すげーな!なぁ!?」
「そ、そうですねテイブ様」
他の騎士の対応とテイブと呼ばれた太った騎士の粗暴な振る舞いに明らかに身分の差を感じる。
「………………」
「っんだよ!黙んじゃねぇよ!そうだよ!オレがやったんだよ文句あんのか?バケモノっ!」
「どうして、そんなことを……」
「うるせぇなぁ!ただ試し斬りしただけだっつーの、騎士になって初の討伐遠征ってことで親父が最高級の剣を買ってくれたわけよ、そこで森で目に入った獣共を手当たり次第に切ったわけ。わかるっ?」
クズだ。こんな人間と1秒だって接していたくない。でも、分かった……動物の群れはこの人達から逃げていたんだ。
「まあ、なんでもいいわ……」
そう言いながらテイブはその最高級の剣をおもむろに抜いて切っ先を私に向けた。刀身を雑に拭いたのか襲った動物達の血が残っている。
「とりあえず特級モンスター討伐の手柄はこのオレのもの……っだ!」
耳障りな講説の最中に振り上げた剣を勢いよく私に振り下ろした。
「ーーぐぁああああっ!」
私は振り下ろされる剣を避けるでもなく構えもせずただ受けた。その結果、レイスの身体に傷一つ付けることが出来ずに折れ飛んだ。最高級の剣の折れた刀身が甲冑をつけていない黒いローブの魔術師の脚に刺さったのだ。そして、激痛から声を上げる魔術師。
「なんだコイツ!切れねぇ!」
「テ、テイブ様!魔術師が……」
「うるせぇっ!お、おい!剣貸せ!剣!」
テイブは他の騎士から奪うように剣を取った。
「さっきは甘く見てただけだ……今度は本気の本気で斬ってやるぜ!」
テイブは足を広げ両手で剣を持ち、振り上げる。
「死ぃいいねぇえええっ!!」
溜めが長い振り上げからの渾身の一撃を先程と同じく、ただ受けた。
「ぐっぁああぁああ!!痛ぇっ痛ぇよ!」
今度の被害者はもう1人の魔術師で負傷箇所も同じく脚だ。経緯も全く同じで折れ飛んだ剣の刀身はまたもや甲冑をしていない魔術師を襲った。
「ーーあぁんっ!?何で切れねぇんだぁ!くっそっ!……手がっ!クソっ!」
「テ、テイブ様、魔術師が……」
「おい!てめぇの剣もよこせっ!さっさとしろ!!オレの父親は公爵なんだぞ!分かってんのかぁっ!?」
「あ、はい」
渾身の力で剣を2回も振り下ろしたテイブの手は痺れている。息も荒い。余力のないテイブにまだ剣奪われていない騎士が自分から剣を差し出して渡した。
何回この人に斬られようともレイスの身体は傷一つ負わないどころかピクリとも動かないだろう。私がこれまで戦ってきた人達はもっと凄かった。
自身の身を顧みず、私のオリジナルの両腕を消し飛ばした爆発男。
リスクのある技能、もしくは魔法を用いて満身創痍覚悟でレイスの修復した右腕を切断し、オリジナルの右脚をも切り落として妹を守り抜いたネイナちゃんのお姉さん。
その人達と比べたら……このクズ男の一撃なんて
……〈チョコレートでコーティングされた細い棒状の有名なお菓子〉で殴られているようなものだ。この男が剣を扱えば持ち手だけを残してポキポキと折れること請け合いだ。このクズ男の騎士としての練度は……その人間性と同じく物凄く低いのだと実感する。
「次は本気も本気のマジのガチだぜぇ!?バケモノぉおっ!!」
また溜めの長い振り上げをする。
少し気が散るけど、このまま無視して修復作業に集中することにした。
「キュ……キュー…………」
「ーーあぁんっ!?うるっせぇな、おぉいっ!景気づけにお前から殺してやるよ家畜ぅう!ーー」
剣を振り下ろす先が変わった。




