群れと一匹
「………………」
……自己修復作業を始めてどのくらい経っただろうか、右脚の修復率はおおよそ7割強と言ったところだ。時間にして……勘だが、たぶん2時間経ってないくらい。あくまで勘でしかないが、この分だと……あと1時間もしないうちには右脚の修復は終わりそうな見通しだ。
ちなみに周りを見渡しても相変わらず誰もいない……どうやら今回の自己修復中は誰にも遭遇しないで済みそうだ。
と、思った矢先だった。
向かって正面からタタタッとかすかに足音がする。足音の間隔が不揃いでしかも多い……。複数の足音がこっちへ向かって来るのが、地面の僅かな振動からも察知出来た。
「なに?なに?……なんなの……?」
思わず不安の言葉がそのまま漏れる。
そんな私の不安な気持ちなどお構いなしで足音はドドドッと重みを増して迫り来る。
間もなくして足音と共に目の前に姿を現したのは……
森の動物の群れだった。
鹿やイノシシ程の大きさの動物からウサギやリスのような小動物までもが群れをなして木々の間を縫うようにに全力でこちらに走ってきている。
「ーーわっ!わわわっっ!!ーー」
ーーぶつかるっ!ーー
と、思って焦り身構える私の反応がかえって恥ずかしくなるほどに動物の群れはスピードを落とさず私を軽やかに避けて駆け抜けていく。
まるで【何か】から逃げているようだ。
その群れはほんの数秒ほどで数を減らし徐々に大行進は収まりの様相をみせる。
群れの最後尾の動物が一匹二匹と走り抜けていく中……少し遠くの方に小鹿に似た一匹が正面に見える。
「キュー……キュー……」
聞き馴染みのない鳴き声を上げ、ゆっくりとこっちに向かってくる。
「キュー……キュー……」
「……あの子だけ動きがゆっくりね……何だか様子が変だわ……」
脚を踏み出す度に首から頭を上下に振ってバランスを取るような歩みを見せる一匹……その違和感に目が離せず凝視する。息が乱れていることが段々と分かる距離までやってくる。腰の辺りが赤黒くなっているのが大きく揺れる歩き方のせいかチラチラ見え隠れする。それが血だと解るまで大して時間はかからなかった。
そして私の傍らまで来て……ドサッと倒れてしまった。
「キュー……キュー……………キュー……」
「ーーっ!ひどい……この子ケガしてるっ……」
思わず息を呑む。
「キュー……キュー……」
苦しそうに……助けを求めるように鼻を鳴らしてこちらを見てくる。その目から後ろに視線を向けると横っ腹から腰にかけて刃物で切られたような大きな傷があり完全に裂けている。その裂けた腹から腸が一部見え出てしまっていて……あまりに痛々しい。
「一体、誰が……こんなことを……」
見るからに絶望的で致命的な傷を見て悲観する私の傍らで……この子は倒れてもなお、脚で空を蹴るような動きを見せる。
まだ生きている。
まだ終わってない。
まだ……走れるんだ。
そう語りかけるような目と弱々しくも駆ける姿を見て私は決意した。
「……やってみるよ、私は【森のレイス】だもの……」
レイスの能力を使えば……もしかしたら…………この子を助けることが出来るかも知れない。
ーーやれることは全部やってみよう。
私は左手でこの子の頭を軽く撫でながら……既に半分以上終えている右脚の修復作業を中断した。
……つもり、だった。




