蓄積されるもの
内在する樹力に意識を集中して欠損箇所に注ぐようにイメージする。まもなくして右腕右脚の切断されたところが薄緑に光りだして腕と脚の輪郭を伸びるように作り始めて修復作業が進んでいく。自己修復作業はこれで2度目なので要領は摑んでいた。
私は自己修復中の仕様を今一度頭の中で整理した。
まず第一に……自己修復はもの凄く樹力を消耗する作業だ、ということ。それに加えて繊細な集中力を要する。故に自己修復中は他の能力を行使できない。
木を生やせない。殺気が出ない。広範囲に渡る気配の感知も当然行使出来ない。当然、【ステルス】の能力も例外なく発動しない。
だから、ネイナに視認され至近距離に来るまで感知出来ず接近を許してしまったのを思いだした。……まあ、まっすぐ前を向いていれば目の届く範囲でネイナを目視することは可能だったわけだが……とにかく、自己修復作業する際は色々と気をつけなくてはいけない。
「……同じことが起こらないとも限らないし、一応確認しておこうかな……」
自己修復作業を一旦中断して、自分の周囲に人がいないか可能な限り感覚を広げて確認した。
「……うん、いない……と思う……たぶん……おそらく……」
なんだか……感知の精度が落ちているのか今一つ自信が持てない。
時間の経過で樹力が回復したとはいえ、先の戦いで意識を失うほど樹力を消耗し右腕右脚を失ってなお、その修復に更に樹力を割いていたのだ。本来のパフォーマンスが出来ないのも当然なのかもしれない……と、思うことにした。
気を取り直して修復作業を再開すると……途中まで修復を進めていた欠損箇所がボロボロと崩れ落ちて、また同じ箇所から薄緑に輪郭をつくり薄っすら光りだす。
「ああ、なるほど……」
静かに呟いた。そして、なんとなく理解した。
自己修復は中断するとその進捗のままで修復を完了してしまうようだ。例えば腕を修復率5%で中断してしまうと輪郭が出た箇所が強制的に形を顕現してボロボロでスカスカの腕が出来上がる。そして再度修復を試みると修復率5%の腕を欠損箇所、もしくは破損箇所として身体が認識して修復は振り出しに戻る。途中から再開が出来ない。
修復率何%以上なら破損箇所として認識されないのかは試してみないと分からない……また機会があれば検証してみるとしよう。
色々と考察したところで改めて自己修復を最初から始めることにしたが思うところがあって少々やり方を変えることにした。先程は右腕右脚を同時に修復しようと樹力を分けて注いでいたが、急を要する修復箇所は脚だと思ったので右脚のみに樹力を注ぐよう集中した。この方法の方が集中しやすいし、きっと治りも早いと思ったからだ。
「……うん、さっきよりちょっとだけ早い……」
……気がする。
相変わらず不思議なレイスの能力や身体の仕組みを手探りで覚えていく中で何一つ確信を持てない曖昧な知識ばかり蓄積していく。それと同時に先の見えないの自分の今後のことを思うと漠然とした【不安】も蓄積していった。そんな気持ちを聞いてくれる人も相談出来る人もいない森で1人、山積みの問題を抱えながら目先の欠損箇所の修復を進めた。




