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息子と夫と財布とタバコ



 ネイナとそのお姉さんから距離を取るため一心不乱に這っていたはずがいつの間にか意識を失っていた。



 そして私は以前と同じく、またもや元の世界の自宅リビングを俯瞰で眺めていた。


 前回見たときよりもまた更に荒れている。

 ゴミ箱から溢れるゴミはこんもりと山になり雪崩れたゴミは床に大量に散らばっている。衣類はソファーにかけられたものもあれば、無造作に床に放り出されたものが点在して足の踏み場を狭くしている。ビールの缶やコンビニ弁当、お菓子のゴミはゴミ箱に行くことなく所狭しとテーブルに放置され何段にも重ねられ、それもまた山をつくっている。

 そんなゴミだらけのリビングのソファーに息子が衣類を尻に敷いたままドカッと座ってタバコをふかしている。そしてまた財布から万札を抜いている様子だったが今回は私の財布でなかった。



「なぁ……アイツどこ行ったんだよっ……ッケホケホ!……オイッ!なんか知らねぇのかよっ……ケホッ!……」



 高校生の息子がタバコを吸っていたことは当然驚いたが、以前からタバコの匂いをつけて帰ってくることがあったので……ああ、やっぱりな。という感じだった。悪い友達、もしくは先輩にでも勧められたのだろうか。最近吸うようになって慣れていないせいなのか息子は煙たそうにずっと咳をしている。



 ところで、息子が〈アイツ〉と呼んだのは私のことだろうか……それに誰に問いかけているのだろう?俯瞰で眺めるリビングには息子しかいないように見える。


 と、思っていた矢先にリビングの床に散乱している衣類に紛れて倒れている夫を見つけた。



「くっ……お前っ!父親にこんなことをしていいと……思っているのかっ……クソッ!これもアイツの育て方が悪いせいだっ!クソッ!クソ……」



 口汚い夫の言う〈アイツ〉も私のことだろうか。


 それにしても、一体どういう状況なのかわけが分からない。





 ーーーーっっ!!ーーーー



 そしてまた不意に目を覚ました。


 最初に目に映るのは至近距離の森の土だった。



「はぁ……はぁ……」

 どのくらい……意識を失っていたんだろう……数時間……?いや……数日……?



 時間や日にちを示す物を持っていない私にはその疑問の答えを見出す術がなかった。


 少し息荒げにしながら伏していた顔を上げて左右に振る。

 天気が良く、優しい木漏れ日で照らされる森。耳には小鳥の鳴き声と風で揺れる木々の葉がこすれるざわめきが心地よい。


 にも、関わらず私の気分はドン底だった。



 薬草に詳しい女の子ネイナちゃんが訪ねてきて、その直後にそのお姉さんが来て戦闘になり、右腕右脚を切られ気を失って今に至るわけだが、ドン底の気分の理由は決してそこではなく……

 夢だろうが何だろうが〈息子と夫〉を俯瞰であれ目の当たりにしてしまったストレスからだった。



「っ………………ふぅ……」



 少しして落ち着いたので、また思考を巡らせてみる。



 さっき見た自宅リビングでの光景は一体……もし息子の持っていたタバコや財布が夫の物だったとしたら想像に難しくない。

 あくまで想像の域を出ないが……家の事をするわたしがいなくなったあの部屋ではもう決まった時間に温かい料理が出てくることはない。食べざかりの高校生の息子のことをあの夫が考えるわけもなく放置してたのだろう。収入のない息子は私の財布が底をついた次に夫の財布に目をつけて……まあ揉めたんだろうな、と。


 夫は私の育て方が悪いと言っていたが、今の息子の人格を作ったのは間違いなく夫だ。自業自得としか言いようがない。同情の余地は欠片もなかった。



 これ以上のこの件の事を考えると気分が悪いので今の自分(森のレイス)の今後の事を考えることにした。



「……とりあえず、この腕と脚をなんとかしないと……」



 秒で今後を考えるより、まず目先の右腕と右脚を治すに至った。



 例の姉妹との一件でほとんど尽きかけていた樹を操り、創る力〈樹力〉が時間の経過のおかげか少し回復しているのが感覚で分かった。その力で木を生やして操り、伏していた自分の身体を持ち上げて近くの木に寄りかけて座らせた。


 早速、樹力を欠損箇所に注ぐイメージで自己修復作業を開始した。




 

 




 









 







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