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限界



 ーーレイスの強靭な身体を切り飛ばされたっっ!?ーー



 それも修復した若い木がじゃないっ。

 オリジナルをっーー。



「…………っ!」



 驚き過ぎて地面に伏したまま言葉が出ないでいた私は残った左腕の肘を立てて彼女を見上げた。



「……終わりよ……バケモノ……」



 彼女は私の首を狙って剣を振り下ろした。



「ーーぐっ……ーーっがはっっ!!」



 振り下ろした剣は間違いなく私の首を捉えたがその剣は……キンッ!と音を鳴らして折れ飛んだ。それと同時に彼女は血を吐いて膝から崩れた。彼女の身体を纏う赤い光も消えた。


 酷使した剣と彼女の身体が同時に限界を迎えたようだ。



 ーー今だっ!!ーー


 動きの止まった彼女をすかさず木で絡め取った。



「ーーくっっっ!!離せぇええええっーー」

「…………ふぅ……」


 ボロボロの身体で猛り叫ぶ彼女を木をうねらせて幹や枝で四肢を強めに縛り上げた。それでも左手に持った武器を離さない彼女を前に一息つく。

 予想外の強さを何度も見せる彼女をようやく無力化出来たのだ。やっと肩の荷が下りた気分だ。



 一息ついた後、彼女を拘束している木以外を邪魔だったので引っ込ませた。そのおかげで僅かながら樹力が戻ったような気がした。


 片脚を失った私はいつもの方法で自分の身体を木で持ち上げネイナの元へと運ぶ。



「ーーその子に…………近づくなっっ!!ーー」



 激昂する彼女を背に私はネイナに迫る。ネイナまでもう数メートルというところで私を運ぶ木は高度を失い身体を支える枝ごとベシャッ!と地面に放り出された。



「ーーなっ!?なんで……!?」



 右手脚を失った身をよじって後ろを見ると私を運んでいた木が途中で切れてコントロールがきかなくなっていた。その傍らには彼女の剣が落ちている。



「ーーあの状態で投げたの……!?」


 全く……とんでもない執念ね……でもあまり無理しないで欲しいのだけれど……。



 武器を持っていた手の拘束を力づくで解いた彼女は息荒くこちら鋭く睨みつけている。解かれた彼女の手の拘束をもう一度別の木で縛り、再びネイナへ近づく。不格好だがもう既に目の前だったので這って近づいた。



「ーーくっ!?離せっ!!その子に何をするつもりだっ!?バケモノっ!!ーー」



 やっと……ネイナの元へ辿り着いた。



「ちょっと見せてもらうね……ネイナちゃん」



 手に持つ本を突き出して横たわるネイナからそっと本を取った。



 しおりが挟んである。

 新たに木を生やし上体を支えて器用に片手で本を開いた。

 しおりの挟んであるページを開くと見たことのない文字と挿絵が描いてある。知らない文字ながら何故か読めるのは今は深く考えないでおこう。


 今の私はこの世界の【森のレイス】である。

 もうそれが理由でいい。



 とにかく文字が読めたおかげで挿絵が【銀汕ぎんせん】であることが分かり、挿絵を見たことでレイスとしてこの植物を特定、ひいては生成することが可能となった。



「これを作ればいいのね……」



 しおりの挟んであるページの印が付いている【ある文章】をチラッと見て、その本をネイナの手元に戻した。



「……ふぅ…………」



 大きく息を吸って左手の爪を地面に立てた。何故かこれがレイスの力を使う時に一番集中しやすい構えだった。





 私はようやっと……


 【銀汕ぎんせん】の生成を始めた。



 


 


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