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願い



 ーーーーなっ!!?



 驚いて顔上げるとそこには……なんとなく見覚えがあるような村娘が目の前にいる。レイスの驚異的な感知能力に一切ひっかかることなく、不動時の【ステルス】の能力を物ともせずにここまで接近され……なおかつ声をかけられるまで気付けないとは…………一体何者!?と、考えると同時に自分で解を導きだした。



 【自己修復の最中は他の能力を行使出来ない】



 と考察したばかりだったことを思い出した。ここまでの自問自答に2秒ほど使ったあと、ちょうど【自己修復】が終わった。



 ……この近距離に村娘がいるというのに【自己修復】が終わってしまったのだ。



「あの!お願いがあるん……ーーーーゔっ!!!!ーーっっ!!ーーっっ!!?」



 何か言いかけた村娘は続きの言葉が出なくなり呼吸も乱れ、全身を強張らせながら膝を地面につけた。左手は右肩を爪が刺さるんじゃないかというほど強く掴み、右手は持っている本を胸で抱えてガタガタと震えて全身でおぞましい恐怖に抗っている。



「ーーひゅーっ……ひゅーっ……ひゅー……っ」



 村娘が必死に息をしようとする……なんとも苦しそうな音を聞きながら申し訳なさで心がいっぱいになる。

 お互いを認識して、なおかつ【自己修復】が終わってしまったのだ……森のレイスの殺気をこの距離で浴びてしまった村娘の顔色はどんどん悪くなる……。



 お願いが……とか聞こえたけど、今は離れた方が良さそうだ。

 立ち上がって距離を取ろうと動いた。



『まっ……て……』



 消え入りそうな声を出す村娘の言葉に耳を疑い……思わず足を止めた。



 「お……ねがぃ…………ま……って……行……が……ない…………で……」



 聞き間違いなんかじゃない。

 この子が待って、と言っている。

 行かないで、と。

 バケモノの殺気にあてられてこんなに怖い思いをしているこの村娘が……これまで数々の来客を気絶させてきたレイスの殺気を今この距離で受けている、他でもないこの村娘が。



ぎん……せん……が…………要るの…………お……ねがぃ…………



……お……ねが……ぃ……」



 この娘は胸に抱えた本を前に差し出す形で倒れた。そして私が何処かへ行かないかと這って向かってくる。すでに視線は虚ろとしていて今にも気を失いそうな表情が見て取れる。


 一体何が起こっているのか……理解が出来なかった……。何がこの子をここまでさせているの?

 ぎん……?せん?とか一体何なんだろうか……?


 色んな思考を巡らせる中、早く離れた方が良いと思う一方でこの子の必死さに……どうしても足を動かす気になれない。



「だい……好きな………おね……ち……ゃん……なの…………助け…………た……い……の…………



……おねが……ぃ…………お……ね……がぃ…………おね……が……ぃ…………お……ね………がぃ………」



 目から大粒の涙をボロボロと流しながら何度も何度も懇願する……。

 レイスの殺気で憔悴して、もう顔も上げることも出来ない村娘は……それでも顔を土で汚しながらゆっくり這って向かってくる。



ぎん…………せ……の……雫…………」



 命を削るように絞り出した言葉と本を私に差し出すような動きを最後に村娘は気を失った。





 村娘の行動にまだ頭が混乱しているが……いくつかの情報を元に考えを整理した。



 そもそも……この子は自分から私に近づいてきた。【自己修復】中で殺気の出なかった状況とはいえ、このバケモノと恐れられたこの見た目の私にだ。

 【森のレイス】そのものに村娘は会いにきたのではないだろうか…………そういえば、殺気にあてられる直前に……「お願いが……」がどうとか言っていたような……。目的があってここに来たことは間違いないようだ。


 ではその目的とは何か……。



 ぎんせん……

 お姉ちゃん……

 助けたい……

 雫……



 この子が言ったであろう言葉を記憶の中で再生する。この言葉から導き出される目的を考えながら倒れている村娘をじっと見つめる。



 ほんのわずかに空が白み始め明るくなってきたのと近距離のせいもあってこの村娘の髪が特徴的な暗緑色をしているのが初めて分かってハッとした。



 ーーこの子!ニラ(解毒作用のある草)咥えてた子だっ!!


 爆発男を運んだ先の村でウルフェンパイソンの襲撃後に村を駆け回って薬草を探していた村娘だ。求めてるであろう薬草の群生地を民家の裏に作って小細工をして誘導したことがあったので印象に残っている。



 この子には薬草の知識がある……どういった経緯で森のレイスの私が植物を作ることが出来ると思ったのかは分からないが、治療に必要なある植物を求めて私を訪ねた……そして、その植物は【ぎんせん】という名なんだろうという結論に至った。


 すぐにでもその【ぎんせん】を作ってあげたいのは山々なのだが、人がつけた【ぎんせん】という名前だけではレイスの知識にあるどの植物かが特定出来ない……。そこで目についたのがこの子が持っていた本だ。

 それに作って欲しい植物の情報があると思い、近づいて本に手をかけようとした、その瞬間……。



 とんでもない速さの何かがこっちに向かってくる気配を感知した……と同時に、すでにその【何か】は視界の端に映っていた。





『ーーーー私の妹にっ!!触るなぁああああああああああっっ!!!!ーーーー』



 



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