スープ
お姉ちゃんの帰りを待つ間、日課の薬草チェックとお手入れを済ませ、そわそわしながらお姉ちゃんに話す内容を頭の中で整理していた。そして、ある提案を持ちかけるつもりでいる……その提案をしたときのお姉ちゃんの反応次第ではある手段を使う必要があるかも知れないと思い、手早く数種類の薬草を使って調合作業を始めた。
調合作業を始めてしばらく時間が経つと少し疲れた顔のお姉ちゃんが帰ってきた。
「……ただいまネイナ、ごめんね遅くなっちゃった」
「おかえり。お姉ちゃん」
「ネイナ……ごめんなさい、さっきはいきなりあんな話をして……もっと良い伝え方があったかもしれないよね……」
「そのことなんだけどね、ちょっと話があるの……聞いてくれる?お姉ちゃん」
「ええ、もちろんよ」
お互い居間のテーブルで向かい合って座った。
「昇進したって言ってたよね?」
「え?……うん、そうよ……」
予想外の話の切り口に意表を突かれた反応のお姉ちゃん。
「ってことはお姉ちゃん、強いってこと?」
「まあ……1人でウルフェンパイソンの群れを追い払えるくらいにはね……」
「王国の強い騎士達のグループがいくつかあるじゃない?出世ってそれ?」
「私は王妃直属騎士の末席を賜ったわ、初代王妃ジュリアン・ゼスパル・アトワイズ自らが団長を務め結成した、女性だけで構成された精鋭達の集まりよ」
「え?そんな凄いところに所属してるの?じゃあ相当強いよね!?ね!?」
「ネイナ……?さっきから質問の意図が読めないんだけど……」
「えっ……?えっと……えっとね……」
着地点の見えない質問に痺れを切らしたお姉ちゃんにアタシの聞いた話を聞いてもらった。村で起こった奇跡の話。【森のレイス】というモンスターの話。そして、この2つ話に関連性があることの考察とそれに基づいてアタシの導き出した答えは……。
「ーーつまりね!このレイスに【銀汕】を蕾の状態で作ってもらえばいいんだよ!」
「…………」
お姉ちゃんは黙って視線を落とす……突飛な話についていけないのかも知れない、でもここは強引にでも畳み掛けるように話を続けた。
「でね!お姉ちゃんにもレイスを探しに行くのについてきて欲しいの!森で会ったことあるみたいだから見つけたらすぐ分かるでしょ?それに一応モンスターだから襲ってくるかも、でもお姉ちゃん強いから問題ないよね!もし話し合いで解決しなかったら力づくでも【銀汕】を作ってもらっちゃおう!手荒な真似はしたくないけど仕方ないよね?命がかかってるんだもん!でも大丈夫だよ、きっとそのレイスは人助けするいいヤツーー……
『ーーダメよっ!』
たった一言でナイフを突きつけられたような威圧だった。あの優しいお姉ちゃんからは想像出来ないほど鋭く刺さるような空気を感じた。
「な!なんでよっ!?」
「ネイナ。あなたはそのレイスに会ってないからわからないかも知れないけど、あれはただのバケモノよ。話し合いをする前に確実に殺されるわ」
「だ、だから強いお姉ちゃんが一緒にーー……」
「2人で行こうが騎士団を引き連れて行こうが間違いなく殺されるわ、あれは……もう、そうゆう次元の生き物じゃないのよ、聞き分けなさいネイナ。いいわね!?」
「…………じゃ……ない」
「…………?」
『ーーそんなのっっーー
ーーーーっっやってみないと分からないじゃないっっ!!!!ーーーー』
声が小さくて何を言ったかわからないわ、とでも言いたそうなお姉ちゃんに椅子がぶっ倒れるほどの勢いで立ち上がってこれでもかと声を荒らげてやった。そして、そのまま感情を爆発させた。
「ーーーーっっもうそれに賭けるしかないじゃないっっ!!?分かってるっっ!?もう時間がないんだよっっ!?いつ全身に【奇竜花】の症状が急速に広がるかわかんないんだよっっ!?一週間も保たないかも知れないっ!もしかしたら…………明日……かも……知れないんだよ……?ねぇ…………わかってるの?……し……死んじゃ……うんだよ……?お……おねええぢゃああああああんっ!!!!……うゔぁああああああああんっっ!!!!おねぇぇぢゃんのぉぉバカぁあああああああああああああーーーー」
もう視界は涙で何も見えなくて、自分が何を喚いているのかも良くわからない。ただ、悔しくて……怖くて……悲しくて……ムカついた……。そんなアタシをお姉ちゃんは抱きしめて、同じ言葉を何度も……何度も繰り返した。
「……ごめんね……ネイナ……ごめんね……
…………ごめんね……」
その後、気づくと夜もだいぶ更けて暗くなっていた。すっかり落ち着きを取り戻したアタシは小腹が空いたのでスープでもどうかとお姉ちゃんと一緒に居間のテーブルについた。
アタシは元々用意しておいた【スープ】を温めてお姉ちゃんに差し出した。数分ほどしてお姉ちゃんの手から銀のスプーンがするりとこぼれてスープの入っている容器に落ちて飛沫を飛ばす。
アタシの調合した薬の入った【スープ】を飲んで居間のテーブルに顔を伏して眠りに落ちるお姉ちゃんを確認して立ち上がり、お姉ちゃんに毛布をかけて出かける準備をした。
外套を羽織ってお姉ちゃんに貰った本を持つ。そして家の扉のドアに手をかけて振り返った。
『行ってくるね、お姉ちゃん』
音もなく扉を開けて家を後にした……。




