レイスの棲家
半壊していた家の修復が終わり、雨風がしのげるようにはなった。修復部分のみ色も違うし、加工されて綺麗な木とは違って不細工な仕上がりだが、修復前よりもずっと落ち着ける空間になった。
このレイスの体にも寝るという概念はあるみたいで目を閉じて横になると気を張っていたのが少し楽になった。起きたら元に戻ってないかと楽観的な望みを持ちつつ眠りについた。
ふと、目が覚めると心地よい森の香りと鳥のさえずりがする良い朝だった。お弁当を作らないと、と思い台所へ向かおうと立ち上がるとハッとして、自分が置かれている状況を思いだした。お弁当なんかどーでもいい。見知った台所なんかどこにもない。
今日は状況を整理して対策を考えてみる。
まず、インフルエンザで寝込んでいた私は目を覚ますと 森のレイス と呼ばれる人外の姿で見知らぬ森にいたということ。
森のレイスは極めて恐れられる存在のようで、この姿を見られた状況では誰かと話しすら出来ないほど場が混乱して情報収集が出来ないということ。
森のレイスは木を生やして成長させたり、自在に操る力があるということ。(これ凄かった)
あと最後に姿を消す、もしくは見つかりにくくする能力?のようなものがある。(これはまだよくわからない)
これらを踏まえて対策を考えてみる…。
「はぁーぁぁぁぁ…」
少し間をおいて大きくため息をついた。
対策なんて考えても思いつくわけがなかった。状況が極めて異常過ぎる。どうしてこうなったのか判明してもないのに元に戻る方法なんて、それこそ検討もつかない。これまでの人生43年間の経験がまるで役に立ちそうにない。ちょっと笑ってしまえるほどに思考が前に進まない。
考えが全くまとまらない中、先程から妙な気配を感じていた。ログハウスを出て周りを外を見てみたが、誰もいない。気のせいだったのか?いや、確かに気配を感じるので数分待ってみた…。
「一体どこにいるってんだぁぁあ!!?レイスとかゆう、おとぎ話のバケモノはよぉお!!」
威勢の良い1人の男が木々をかき分けてこちらに向かってくる。妙な気配はこの男で間違いないようだ。そして、また新たにわかったことがある。数十メートル、いや下手したら数百メートル先の人の気配を自分は察知した。全くもってとんでもない存在になったものだなぁ、と実感した。
「おっ!マジでいやがったなぁオイ…そこが棲家か…」
男もこちらを視認した。歳は30〜35くらいか?背は190センチはあるだろうか、図体がデカく筋肉も並みの鍛え方ではないのが主婦の自分でも分かる程に仕上がっている。軽装の鎧に手には幅10センチ刀身2メートルちょっとはある剣。眼光は鋭くこちらを見据えている。彼は臨戦態勢だ。
私はバケモノとしてこの男に殺されるんだ…
そう思った。




