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奇竜花



 突拍子もない発言に沈黙する妹。

 もう少しマシな伝え方があったかもしれない。配慮がなかったかもしれない。もっと別の……もっと……何か良い方法が……。ネイナの表情を見ると後悔ばかりが波のように頭の中を流れてくる。


 それでも……伝えないといけない。


 だから、言葉を続けた。



「…………数ヶ月前に1級モンスターの討伐任務についたの……」



 ネイナは聞きたくないのか下を向いて私の顔から視線を逸らす。



「この傷はね……その任務中に同行していた騎士見習いを庇ったときに負ったものなの……」

「…………」



 押し黙るネイナ。



「任務が終わって王都の医師に傷を見てもらったら、ある植物の花粉が付着してるって言われたの……その植物はーー」

「ーー【奇竜花レシベル】」



 言葉を遮ってネイナは口を開いた。

 私の脇腹にある特徴的な傷口を……小指の爪くらいの大きさの硬化した皮膚が傷口に沿ってまばらに出来ているのを見た時からネイナは既に原因を特定していた。



「やっぱり知ってたのね……」

「【奇竜花レシベル】の花粉は体組織を硬化する効果がある、生物がその一部分からでも硬化が発症すると他の組織を破壊しながら広がって……死に至る」

「ええ、同じことを言われたわ……」

「……でも、なんで傷口に花粉なんか…!?」



 ネイナは未だ下を向いてこっちを見てくれないながらも質問してくれた……。



「討伐対象の【テンダーゲール】は奇竜花レシベルの硬化で死なないモンスターなの。それどころか奇竜花レシベルを食べて硬化をコントロールしてドラゴンのような頑丈な鱗を体現する厄介な大型の怪鳥でね、その爪に奇竜花レシベルの花粉が付いていてもおかしくないでしょ……?」

「ち、治療法は!?あるでしょ!?王都なんだから何か方法があるでしょ?ねぇ!?」



 ネイナは決壊したように感情的になる。



「……王都の知恵者に【銀汕ぎんせん】なら可能性があるかも知れないと聞いたわ……でもーー」

「そ、そうだよっ!!銀汕ぎんせんの蕾から取れる雫は他の植物をーー」

「ーー手に入らないの……」



 言葉を遮るネイナの言葉を今度は私が遮った。



「な……なんで?」

「ネイナなら銀汕ぎんせんが蕾から花になる時期を知ってるでしょう?」

「ーーっ!!……」



 ネイナの顔色がより一層曇る。知識があるからこそ今の時期に可能性がないことを理解したのだろう。

 

 

「それに銀汕ぎんせんの咲く場所はね、ドラゴンカテゴリーの特級モンスター【オルドレイク】の巣がある危険地帯なの……容易には近づけないわ……」

「………………ッ……ッ……」



 ネイナから声にならない声が漏れる。

 今にも大声で泣き出しそうな妹の頬に手を添えた。



「ごめんね……心配かけないように自分で解決しようと色々頑張ったんだけど…………ごめんね……」

「…………ッ……ッ……ッ……」



 溢れ出しそうな涙を目に溜めた顔を上げて私の顔を見つめるネイナ。そして、すぐに視線をずらして足早に家を出ていく素振りを見せる。



「ネイナ!どこ行くの!?」

「……ちゃんと……帰ってくるから……心配しないで……」



 小さく震える声で絞りだすように返事をしたネイナは家の扉を閉める音だけを残して、私は1人居間に立ち尽くした。



 ネイナは心配するなと言っていたけど、追いかけたい気持ちが早って扉に手をかけて出ようとした……けれど、立ち止まって考えを改めた。


 今、追いかけて何が出来る?

 こんな話を急に聞かされて1人で考えを整理する時間が必要なんじゃないか……そう思うとしばらく足が動かなかった。


 色んな後悔がまた頭の中をかき乱して扉の前で立ち尽くしていると反対側から扉をノックする音がした。


 


 

 

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