ウルフェンパイソン
まず、警鐘が鳴り響く高台を特定。
避難指示を各方面へ出す村人のいる高台からは村が一望出来るのだろう。状況を把握するにはそこしかないと思った。
すぐに自らを木で持ち上げ高台まで移動、運良く村人には気づかれずに高台の屋根に到着した。そこから村全体を見ると、ウルフェンパイソンと思われるものに襲われている複数の村人を一見にして確認出来た。
見た目は狼で口からは蛇を思わせる長く細い舌が出ている。初めて見る生き物だ。それが20頭近く村に押し寄せている。まるで狩りだ。
全体を把握したところで次の行動に出た。
屋外にいる人は襲われてる者も含め全員を木で持ち上げてウルフェンパイソンから隔離、更に落ちないように枝で身体を絡めて固定した。
持ち上げられた村人は混乱を極めたが、高さを調節したためレイスの存在には誰も気づいておらず、中には助かった、と安堵の表情を浮かべる者も少なくなかった。
ウルフェンパイソンは急に生えた木を見上げて唸りを上げている。木の周りを行ったり来たりしてその場を離れる様子はない。
さて、どうしたものか。
個々で動き回るウルフェンパイソンを木やツタで捉えるには数が多くて難しい。ケガをしている村人の中には直ぐに処置をしないと危険な者もいるかもしれないし、何より蛇の思わせる舌を持つウルフェンパイソンを最初に見た時から懸念していたことがある。
ーー毒だ。
村人の中には大した外傷があまり見られないにも関わらず、苦悶の表情で倒れている者が数名いた。
毒の影響によるものと考えていいだろう。あまり時間をかけてはいられない。
「ーーアォオオオーーーーーーーーーーン!!」
一匹のウルフェンパイソンが遠吠えする。その途端に群れは河辺とは反対方向の森の方へと走っていった。
撤退したのかな?と、思ったが群れが向かった先の気配を探ってみると森から1人、村に向かって来る誰かがいるようだ。群れは撤退ではなく、ターゲットを変えただけだった。
「まずい!すぐに助けに行かないと!」
焦りから思わず声が出る。
高台から森の中までは見えないので自らも群れが向かった先へ後を追う形で急いだ。
「ーーはぁあっっ!!」
「ーーキャウゥゥンッ」
猛々しい女性の声と犬のひ弱な鳴き声が聞こえる。群れが向かった先で目にしたのはウルフェンパイソンに囲まれながらも双剣にて応戦する1人の女性の姿だった。