屋上にて
「先輩、待ちました?」
屋上で涼み始めて5分、やっと体調が落ち着いてきた。そんな所に、この男が現れた。
私の体調はまた悪くなる。心拍が跳ね上がる。何度見ても、このニヤニヤ顔は心臓に悪い。
艶のある黒い前髪でほとんど隠れた目は、笑っていない。いつもそうだ。隠れて見えなくたって、わかる。
「佐渡くん…」
「良馬でいいですって」
「佐渡くん、話があるの」
「無視ですか。傷つくなぁ」
彼はそういうと、大袈裟に肩を竦めてみせる。彼の行動は、いつも大袈裟だ。
「ねえ佐渡くん、どうしてここに呼び出したの?」
「そんなの決まってるじゃないですか」
彼は屋上のドアから、こちらに近づいてくる。
一歩一歩、ゆっくりと。
その度に私の額は汗を放出し、心臓はバクバクと大きな音を立てる。
「赤井先輩のことです」
バクンと、ひときわ大きな音が鳴る。
「死体処理、してくれたの先輩でしょ?」
佐渡くんはそう言うと、ニッコリと口元を歪めた。
「やっぱその顔、先輩がやってくれたんだね。嬉しいなぁ。僕のために」
「…私、そんなに変な顔してた?」
「してるしてる。先輩ったらわかりやすいんだから」
あなたほどじゃない、そう言おうとして言葉を飲み込む。
「山本先生が言ってたよ。赤井先輩は塔陵公園の林の中で『土に埋まってた』って」
顎に大きな手が添えられる。切れ長の目が、私の瞳をニヤニヤとのぞき込む。
「僕、埋めてなんかないもん。面倒だしね。だとしたら、誰かが埋めたとしか思えない」
怖い。がくがくと足が震える。でも私はこの男から逃げることが出来ない。
「事件の発覚を恐れてね。僕が『赤井先輩を殺した』ことがバレないように」
「どうして…」
どうして殺した…と、言おうとして口を噤む
「どうしてって…わかってるんじゃないですか?」
わかりたくない
わかっていると思いたくない
「あの男、先輩に告白してたでしょう?」
ああやっぱり
「迷惑なんですよね。先輩は僕のなのに、ちょっかい出すなんて」
吐き気がする。目が回る。視界が滲む。
どうしてどうしてどうして…声が出ない
「やだなぁ、泣かないでくださいよ。あいつが好きだったわけじゃないんでしょう?」
そうだ…別に私は彼を好きだった訳では無い。
でも嫌いだった訳でも無い。
彼は人気者で、誰にでも優しくて、そんな人が私を好きになってくれたなんて…と、舞い上がっていたのは否めないけど
「どうして…私断ったじゃない…」
そうだ…私は彼の告白を断った。
「でもなにか貰ってたでしょ?見てましたよ。僕は用事がない時は、先輩のそばにいることにしてるんで」